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閑話 最高得点?


「あ、社長・・・現場に来るなんて珍しいですね」

「その呼び方やめて貰える?どうにもしっくりこなくて・・・」

「そのうち慣れますって、まさか外部相手でも玲香様って呼ばせてるんですか?」

「まさか・・・貴方に社長って呼ばれるのが慣れないのよ」


『謎解きタウン』の5階。

事務室に現れたスーツ姿の美女に、責任者の男が仰々しく礼をした。


「それで、本日はいったいどのようなご用件でしょうか?」

「『はにーろーるとワタア迷宮の謎』・・・貴方の立案でしょう?」

「ああ・・・その件ですか」


男は不敵な笑みを浮かべた。

彼が長年温めてきてようやく実現した渾身の企画だ。

その甲斐あって人気は上々でリピーターも多い・・・充分に満足出来る成果と言えるだろう。


「ショップの方の売り上げも過去イチですよ、せっかくですから玲香様も遊んで行かれては・・・」

「もう遊んだわ」

「おやお早い・・・ご満足いただ・・・」


男はその続きを言う事が出来なかった。

有無を言わせぬ圧力が・・・目の前の美女から放たれた気迫によって彼は身動き一つ取る事が出来なくなっていた。


「実に不誠実な出来だったわ・・・あれは修正が必要ではなくて?」

「は・・・はて、どこがそんなに・・・お気に召さなかったのか・・・」


絞り出すように男は言葉を吐き出す・・・その言葉に欺瞞はない。

本当に問題点が思い浮かばなかったのだ。

不誠実な出来・・・そう言われても彼は手を抜いた覚えはない。

コラボ先の企業とも綿密に話し合って作りあげたストーリーと謎解きには相応の自信があるのだ。


「・・・」


無言で美女が取り出して男に見せたのは・・・参加賞のステッカー。

それも1枚ではなく・・・


「まさか・・・難易度・・・ですか・・・」


その瞬間、凍り付くような視線が男を射竦める。

そして思い至った・・・彼女が1人でこの場にいる事を。


「玲香様・・・難易度は、適正です・・・」

「・・・良く聞こえなかったのだけど?」

「難易度はッ!適正、です」


圧が一層高まる中、男も決して引き下がらない。

そして彼は回収されたチーム証の1枚を取り出して見せる。


「今日の午前の参加者・・・高校生が950ポイントを叩き出しました」

「・・・なんですって」


美女が驚愕に目を見開く・・・男からチーム証を奪い取り、事務室の端末で照会した。

950ポイント・・・わずか1つを残して他の全ての謎を攻略したその履歴が表示される。

正確にはその1つの取りこぼしのせいでポイントは半減の憂き目にあっているのだが、その端末はそこまで参照する機能はないらしい。


「しかも挑戦回数はその1回だけです・・・」


その衝撃に追い打ちをかけるように、男は言葉を発した。


「わかりますか・・・高校生でも・・・解けるんですよ・・・難易度は、適正です」

「そ、そんな・・・」


この世の終わりのような表情を浮かべながら、美女はそのチーム証を凝視した。

女子高校生らしく、枠外にはにーろーるちゃんのデフォルメイラストが描かれている。

そして・・・チーム証に書かれたその名前は、三本木右子。


その名前が彼女の胸に深く刻まれた瞬間だった。


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