第58話「あけましておめでとうございます!」
「出張、大晦日のちろるーむ!」
「「うぇーい!」」
「う・・・うえーい」
ぱちぱちぱち・・・小さな拍手と共に、数名の男女が画面に映し出された。
年若い男性陣は手慣れた様子でお決まりの挨拶をしていく。
「はーい皆様こんばんわー!小さくても舐めるなよな、ちろるでーす」
「レフトでーす」「ライトでーす」
「そ・し・て・・・」
男性陣の中でもひときわ目立つ整った顔の美少年、ちろるの合図に合わせるように女性陣の方へとカメラが向きを変えた。
女性陣は全員マスクで顔が隠されているが、可愛らしいパジャマ姿。
・・・その中から1名がおずおずと名乗りを上げた。
「み、みーちゃんです」
みーちゃんと名乗ったのは癖のある長い黒髪の少女。
緊張しているようで、その身体は小さく震え、声にも硬さが感じられた。
「はい、今日は以前にも出演して戴いたみーちゃんさんのお宅にお邪魔させていただいてます」
「お宅って言うか、お屋敷じゃないっすか!」
「さっすがお嬢様・・・良いんですか、俺らなんかがお邪魔しちゃってて」
「ま、まぁ・・・大晦日ですし・・・今回は特別ってことで・・・」
「ありがとうございます!というわけで、今夜は特別な配信をお送りしたいと思います!」
「「チャンネル登録、よろしくお願いしまーす」」
うぅ・・・まさか、こんな事になるなんて・・・
午前午後と勉強会は順調だった。
既に合格ラインの五味原さんと霧人くんはもちろん、ライトとレフトも意外と物覚えが悪くなく・・・
これなら来年度に控えた『Monumental Princess』の選定にも彼らの協力が期待できる。
そんな思惑を胸に秘めつつ、私達は和やかに夕食の時間を迎えたんだけど・・・悲劇はその時起こった。
「そういえば、例の配信?はまだ続けているのかしら?」
「はい・・・たいした事はやってないんですが・・・」
綾乃様の問いかけに、霧人くんはばつが悪そうに答える。
私のお説教を思い出したのか、チラチラとこちらの顔色を窺いながら返答する気のようだ。
や、そんなに怯えなくても良いんだけど・・・
そんな霧人くんの内心を知る由もなく、綾乃様は本題を切り出した。
「その配信なのだけど・・・ここで出来ないかしら?」
「え・・・」
「綾乃様?!」
「ほら、今日は大晦日だし、皆うちに泊まっていくのでしょう?・・・そのまま皆で年越しのカウントダウンとか・・・どうかしら?」
な、なんてことを・・・ひょっとして綾乃様、あの配信気に入ってたのか?!
謎解きゲームを考案するくらいだし、元々ゲームに興味があるとか?
いやそれよりも気掛かりなのは・・・
「皆で、ってことは・・・まさか綾乃様も出演するおつもりで?」
「ええ、皆で・・・もちろん右子と左子も一緒に・・・」
ええええええ・・・
『みーちゃん』は一生ものの封印だと思ってたのにまさかの復活?!
しかも今度は綾乃様も一緒に?!
「あの・・・綾乃様は恥ずかしくないんですか?」
「え・・・皆でゲームをして遊ぶだけでしょう?何も恥ずかしい事はないと思うのだけど・・・」
とても人見知りの綾乃様とは思えない発言・・・カメラの向こうの視聴者は気にならないタイプか。
まぁあのクリスマスパーティと比べたら・・・大抵の事はもう平気なのかも知れないけど。
「そうだよな・・・俺達は何も恥ずかしくない事をやってるんだ」
「霧人くん?!」
綾乃様の言葉を聞いて霧人くんの目に輝きが・・・
まるで失われていた情熱を取り戻したかのように生き生きと・・・実際そうなのかも知れない。
「こんな事もあろうかとカメラは持って来てる・・・ライト、レフト・・・」
「はい、もちろんゲームも持って来てます」
「と言うか、元々遊ぶ気で来てたっすけどね・・・」
そう言うなり荷物を漁り出す3人・・・ああ、お泊りに誘ったような形だったもんな・・・
カメラや撮影機材・・・ゲームやパーティグッズが次々と出てくる。
「それでね、私パジャマパーティというのをやってみたかったのだけど・・・この機会にどうかしら?」
「あ、綾乃様?!」
「綾乃様のパジャマ姿を見れるんですか?!素晴らしいです!」
なんかおかしな方向に向かいつつあるけど大丈夫かな・・・
いや、あんなに期待に胸を膨らませた綾乃様をがっかりさせるわけにも・・・羽目を外すって事もたまには・・・たまには・・・
「顔はちゃんと隠すんですよね?名前も・・・」
「ええ、私はどんな名前がいいかしら、みーちゃん」
「うぐっ・・・」
1回だけだと思ったから適当な名前にしたのに・・・
今更みーちゃんから変えるわけにはいかないかな・・・いかないよな。
「霧人さん、俺らパジャマとか持って来てないっす」
「・・・別にお前達は良いんじゃないか」
「・・・ですよね」
そんなこんなであれよあれよという間に準備が進み・・・
「今日はみーちゃんさんのお友達にも来てもらってます、紹介して貰えますか?」
「はい、えーと・・・こっちが私の妹で、ひーちゃん」
「・・・ひーちゃんです」
右子でみーちゃんだから左子はひーちゃん。
せっかくだから名前は統一しようって事で、五味原さんはえーちゃん、綾乃様は・・・
「あーちゃんです、よろしくお願いします」
「うわー、あーちゃんさん、さらっさらの金髪ですね」
「本当さらっさらですねー」「触っても良いっすか?」
「気安く触れるな三下が・・・処するぞ」
「「アッハイ」」
調子に乗って綾乃様に触れようとしたライト&レフトを五味原さんがシャットアウト、意外と頼もしいぞゴミ子。
「ゴホン・・・さて、今回用意したゲームはこちら」
そう言って霧人くんが取り出して見せたのは切り立った大きな山・・・エベレストかな?が描かれた箱。
なんとなく登山するゲームっぽい。
「これから皆さんには登山者になって、多くの遭難者を生み出したこの呪われた山に挑んで戴きます!」
やっぱり登山をするゲームらしい。
箱の中から出てきたのは、すごろく風のマスが描かれた山の絵のボードだ。
呪われた山と言うだけあって不気味な雰囲気を纏っているけど・・・
「順番にさいころを振って進んでくださいっす」
「途中の山小屋に寄ると休憩が出来たり役に立つアイテムが手に入ったりします」
「4人用のゲームなので、今回は女の子達にやってもらうよ」
やっぱりすごろくっぽい。
山頂までが一本道じゃなく色々なルートを選べるみたいだけど・・・
とりあえずさいころを振って最短コースに進んでみるか。
「ここはイベントマスですね・・・このカードをどうぞ」
なんかカードを渡された。
『呪い:本当のことを喋ってはいけない』
「ええと・・・これって・・・」
「みーちゃんさんは山の呪いを受けておかしくなってしまいました、これから先は必ず嘘をついてください」
「えええええ」
「そういうゲームなんっすよ、この先も色々な呪いが待ってますので覚悟してくださいっす」
呪われた山・・・そこに立ち入った者達は山の呪いによって誰もが狂気に囚われてしまうという。
このゲームはそんな狂気を呪いルールによって再現。
呪いは先に進む程重く致命的になっていく・・・果たして山頂に辿り着く事は出来るのか。
「えーと・・・私もイベントマスに止まったわ」
「はい、あーちゃんさんカードをどうぞ・・・あ、呪いの内容は他人に教えないのが正式ルールです」
「・・・にゃーにゃー」
「?!」
「にゃーにゃー、にゃーにゃにゃ」
綾乃様はにゃーにゃー言いながら引いたカードを指さした。
どうやら、そういう呪いを受けてしまったらしい。
「結構重いの引いちゃいましたね、身振り手振りで伝えるのはセーフですよ、今の所は」
「今の所は?!」
「色々な呪いがあるので・・・呪いは最大3つまで重複します」
「3つ?!」
見た所イベントマスは結構な数がある・・・これらを全部避けて進むのは難しい。
そもそもさいころ次第なので・・・あ・・・またイベントマスに・・・
「はい、どうぞ」
『崖:ロープを使うまで先に進むことが出来ない』
「あれ・・・呪いとは違・・・わない、呪いだよ!でもこれって・・・」
「ああ、このカードはこのマスに置きます、誰かがアイテムのロープをここで使うとこの先に進めるようになります」
「ロープ・・・私、持ってる」
「それは良かったですね、なら次の手番で使えますよ」
「いや、持ってるんだって!持ってるの!」
嘘をつかないといけない呪いのせいで会話が変になる、ややこしい。
必要なロープは山小屋の1つにアイコンが描いてあった、そこに行くと手に入るらしい。
「はい、ひーちゃんさんカードをどうぞ」
「ん・・・」
ぴょんぴょん。
カードを受け取った左子が立ち上がり、その場で飛び跳ねだした。
おそらくそれも呪いなんだろう。
「あ、その呪いは自分の手番の間だけで良いやつっす、他の人の手番の間は休んでてくださいっす」
「・・・ん」
なんか大変そうな呪いだなぁ・・・私のは疲れるやつじゃなくて良かった。
「にゃーにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃっにゃー、にゃ!」
次にイベントマスに止まってカードを受け取った綾乃様が何事かを言おうとしてる。
今の綾乃様はにゃーしか言えないから身振りに注目しないと・・・
「にゃーにゃにゃ」
両手を広げて大きな三角形を・・・おにぎり?山の事かな?
「にゃにゃにゃにゃ」
今度は両手を振り下ろして机を叩くような動き・・・にゃーにゃー言ってるせいで猫が遊んでるように見える、かわいい。
「にゃにゃっにゃー」
ボードを指さしてる・・・今ロープを取りに向かってる山小屋のあたりだ。
「にゃ!」
力強くVサイン・・・かわいい。
しかし何を伝えようとしているんだろう・・・
「はいそこまで、次の人の番です」
「にゃー・・・」
更に身振りを続けようとする綾乃様だが、制限時間があるのか止められてしまった。
言いたい事を伝え切れずしょんぼりと席に着く。
ぴょんぴょん・・・ぱん。
飛び跳ねる左子の動きに手を叩くが加わった。
二つ目の呪いらしい。
これが呪いの重複か・・・身体を動かす系の呪いもそこそこの数があるらしい。
「先輩、ロープを手に入れました!」
出目に恵まれた五味原さんがいち早く山小屋に辿り着きロープをゲット。
これを持っていけば最短コースで山頂に辿り着くことが出来る。
一方私のさいころは・・・1、しかもイベントマスだ。
『呪い:手番が来るたびに好きな食べ物の名前を1つ叫ぶ』
「酢豚・・・のパイナップル!」
これも嘘をつかないといけない・・・はず。
酢豚に入ってる時があるパイナップル・・・あれは余計だと思うよ。
パイナップルは普通にデザートで食べたい。
「にゃーにゃにゃ・・・」
通常マスに止まったはずの綾乃様がにゃーにゃー言ってる。
身振りを見るとさっきの続きをしたいらしい。
山?机をばんばんして・・・山小屋のあたりを指さして、Vサイン・・・じゃない。
「にゃ!」
と言いながら綾乃様はVサインではなく、人差し指を立てた。
・・・ひょっとして『1』?
2から1になった?カウントダウンしてる?
「にゃあぁぁ」
更に綾乃様は胸の前で手を組み、お祈りのようなポーズをした。
そこで終わりらしい・・・これらの意味はすぐに明らかになった。
「このターンで雪崩が起きます、この山小屋周辺のエリアにいる人は巻き込まれて死んでしまいます」
「なんですって!!」
「残念、えーちゃんさん、ゲームオーバーです」
なるほど、あの動きは雪崩が起きる場所とカウントダウン、巻き込まれると死ぬって意味か。
せっかく手に入れたロープと共に五味原さんは雪崩にのまれてしまった。
もう一度ロープを取りに行かないと・・・一番近いのは私だけど・・・
他の駒の位置を見ると、左子の駒が遠回りコースをだいぶ進んでいて・・・ってか左子呪いのカード3つ持ってる?!
ぴょんぴょん・・・ぱん。
飛び跳ねながら左子がさいころを振り手を叩く。
さいころの出目は6・・・駒は一気に進み、山頂へ。
「ひーちゃんさん、山頂に到着・・・ですが」
「??」
「家に帰るまでが遠足なんです、皆さん、これから山を下りてください」
「ええええ」
トップでゴールしたと思われた左子が一躍最後方に。
そして山頂への到着によって、呪いの山が本気を出す・・・
「吹雪です、以降はさいころの出目は半分になります」
「なにそれ酷い」
「ついでに、こことここが通行できなくなるっす」
「?!」
左子が昇ってきた遠回りルートと、中くらいのルートの山頂付近が通行不能に。
最短ルートは相変わらずロープがないと通行不可、左子は山頂で孤立してしまった。
「ちなみにあと10ターン経過で皆さん凍死してしまいますので、急いで下山してください」
「?!」
幸いなことに私と綾乃様の位置から下山するのは容易で5ターンもかからない。
真っ直ぐに下山すれば余裕で生還出来る・・・けれど。
「ええと・・・ひーちゃん、ロープ持っていかないから諦めて」
嘘をつかないといけない呪いは未だに有効だ。
でも左子ならちゃんと逆の意味で受け取ってくれるはず。
「トマトの緑色の所!」
私は山小屋へたどり着きロープをゲット。
左子もちゃんと最短コースから下りて来てくれている。
あとは例のポイントへ向かうだけ・・・
『呪い:移動をすると下方向へ1マス下がる』
こんな呪いまであるのか・・・
私は駒を1マス下げる・・・出目が半分になる状況でこの呪いは致命的だ。
「くさや!」
次の手番でのさいころは2・・・一歩進んで一歩下がる・・・小さな出目では進む事すら出来ない。
左子がロープのポイントに辿り着いた。
でも私の駒はあと3マス地点・・・このままじゃ時間が足りない。
「にゃーにゃ、にゃー」
「?!」
下山したと思われた綾乃様の駒が同じマスに・・・綾乃様の身振りを見るまでもなく、その意図する事は1つだ。
同じマスにいる相手にはアイテムを受け渡すことが出来る。
にゃーにゃー言いながらロープのジェスチャーをしている綾乃様に手を伸ばす。
「これでひーちゃんをた・・・助けなくて良いんだからね!」
ツンデレ風に嘘をついて綾乃様にロープを手渡した。
続く綾乃様の出目は6・・・ロープによって道が開通する。
後は一目散に下山するだけ・・・1マス下がる呪いの効果で私の駒だけすごい勢いで下山していく・・・
そして・・・
「なんと3名も生還しました・・・あ、もう呪いは良いですよ」
「ふぅ・・・やっと普通に喋れる」
「にゃー・・・あっ・・・」
呪いが抜けきらなかったらしい、綾乃様の顔が赤く染まる。
綾乃様ずっとにゃーにゃー言ってたもんな・・・かわいかった。
ちなみに左子の呪いは『飛び跳ねる』『手を叩く』『言葉を発せない』
そうか・・・もともと喋らないから気付かなかったよ。
「悔しいです、呪いを受けずに進めていたのに・・・」
五味原さん呪い0だったのか・・・運がいいやら悪いやら。
こうして呪いの山から脱出した後は、霧人くん達を交えて別のゲームを遊んで・・・
「先輩、そろそろ年が明ける時間では?」
「うわ1分前っすよ、心の準備が・・・」
皆で柱時計の前に集まり、秒針に注目する。
大きな時計はこういう時便利だね。
「カウントダウンいくぞ・・・5」
「「4」」
「3!」
「・・・2」
「1」
『「「「あけましておめでとうございます!」」」』
「右子、左子・・・それに皆、今年もよろしくね」
こうして1年が終わりを迎え、新たな1年が幕を開けたのだった。




