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第54話「うーん・・・トレヴィアン・・・」

人の動きを見る・・・流也さまからヒントを得た私は、とりあえずさっきの逆順で月の間に入った。

この部屋で目立っているのは先程の天文部員達・・・そういえばここを拠点にするとか言ってたっけ。


彼らはこの部屋の一角・・・土星の模型が浮かぶあたりに陣取り、各々問題文に挑んでいるようだ。

・・・この部屋にはテーブルがないので全員床に直置きスタイルで。

ここの床はツルツルに磨き上げられた青い石で出来ているんだけど、傷とかついたら大変なんじゃないかな・・・

彼らはそこまで本気でやってるわけでもないようで・・・すぐにお喋りが始まった。


「本当によく出来てるな、ちゃんと衛星も浮かんでるし・・・こだわりを感じるぜ」

「しかしあの斎京流也がこんな部屋を用意するなんてな・・・うちの部に勧誘したら入ってくれるんじゃないか?」

「ないない、それにこの部屋は元からだろ」

「え、そうなの?」

「ここを建てた皇族の趣味が天体観測って話・・・隣の展望塔見てこいよ、屋根が完全にそれ用だから」

「まじか・・・」


そう言えば、この屋敷には細い塔がひとつ生えてるんだけど・・・庭園を一望出来る系のやつだと思ったら天体観測用だったのか。

いかにも謎解きゲームに関係しそうなポイントだから何かはあるんだろう。

でも・・・見た目通り狭い塔なので・・・入り口の所でスタッフが人数を区切ってる。

制限時間がある謎解きゲームであそこに並ぶのはなかなかのリスクだ・・・出来れば何かしらヒントを得てからにしたい。

そもそも私としては・・・って、彼らの話にばかり気を取られてはいけない。


人間の動きを見ないと・・・

と言っても、特定の惑星にずっと張り付いているような人とかはおらず・・・強いて言うなら土星に陣取った天文部員くらい。

他には・・・なんか身体の大きな人が壁の写真を食い入るように見つめて・・・あれ、なんとなく見覚えが。

ええと・・・たしか姫祭で・・・あの時はもっとこう荷物が・・・


「あ、新聞部の八丈くん!」

「え・・・どちら様で?」


私はなんとか記憶を脳みそから引っ張り出すことが出来たけど、向こうはそうでもないらしく・・・

突然名前を呼ばれた八丈くんは首をひねるばかり。


「や、私は三本木右子・・・って名乗ってないか・・・ほら、姫祭で綾乃様と・・・」

「え・・・二階堂さんの知り合い?ええと・・・」

「綾乃様とずっと一緒にいたのわかるよね?双子の・・・」

「あ、ああ・・・そうか」


双子と聞いてようやくわかってくれたようだ。

左子とセットで認識されてると、1人の時に気付いてもらえないやつ・・・双子あるあるだ。

きっと双子のうちのどっちかまではわかってないと思う。


「それで八丈くんは、ここで何を・・・こういう写真が撮りたいとか?」

「や・・・まぁ撮れるものなら撮りたいけれど・・・特別宇宙が撮りたいってわけじゃなくて・・・」


壁に飾られている大きな写真には『アポロ8号 1968.12.24』と小さなプレートが付けられていた。

・・・8号?アポロって11号とかじゃなかったっけ・・・


「これはね・・・ただ綺麗な写真じゃなくて・・・当時の人達の想いみたいなものが写し取られていて・・・そういう部分に惹かれると言うか、そういう写真が撮れたら良いなって・・・」


おお・・・立派な夢だと思うよ。

良いね、青春だね。


「八丈くんならきっと撮れるよ・・・その為にいつもあんな大荷物でがんばって・・・そういえば今日は何も持ってないんだね」

「撮影禁止って言われちゃったからなぁ・・・部長も報道枠って事でずいぶん粘ったらしいけど・・・ダメだったって」

「そうなんだ・・・」

「だからこの謎解きゲームは何としても攻略するぞって・・・ああ、急がないとまた怒られちまう」


八丈くんは思い出したように出題箱から問題文を取り出して・・・それがこの部屋の最後だったらしい。

10枚の用紙を握りしめて月の間を出ていった・・・彼ら新聞部もどこかに拠点があるんだろうね。


しかし・・・

1人残った私はもう一度壁の写真へと振り返った。

『アポロ8号』のプレートに刻まれた数字・・・この写真が撮られた日付だろうか・・・

12.24・・・そこだけ見るとまるで今日のよう・・・偶然の一致か、それとも・・・



続いて私が向かったのは花の間。

鳥の間同様にテーブルのあるこの部屋では集めた問題文に挑んでいる人が多い。

それ以外の動きは・・・うーん・・・


そろそろ問題文も全員に行き渡った頃合いらしく・・・皆問題文に夢中になってるように見える。

さすがにそうそう他人と違う動きをしてる人はいないか・・・


「右子ちゃん?こんな所に1人で何してるの?」

「ふぇ?!」


不意にかけられた声にびっくりして変な声を出してしまった。

問題文も持っていない私に声をかけてくるなんて、随分余裕な・・・って葵ちゃんか。


「なんだ、葵ちゃんか・・・謎解きは良いの?」

「それはこっちの台詞だよ、問題文も持たずにこんな所で・・・左子ちゃんとはぐれたの?迷子になっちゃった?」

「そんな子供みたいに・・・ちゃんと謎解きしてる最中だから安心して」

「あ、そうなんだ・・・じゃあやっぱり・・・」


葵ちゃんは何事かを納得した様子で頷いた。

え・・・葵ちゃん何か知ってる?!

このチート庶民の事だから謎解きもだいぶ進んでそうだけど・・・


「え、やっぱり?」

「ええと、なんでもない」

「なんでもなくないでしょ!今何か気付いた顔してたよ葵ちゃん!」

「それは・・・謎解きのだからね・・・右子ちゃんとは勝負中だし」

「でも今私の言葉で何かに気付いたんだよね?ならそっちも何か教えたって良いんじゃない?」

「もう、しょうがないなぁ・・・」


やっぱり葵ちゃんは謎解きに関係する何かを気付いたようだ。

さすがはチート庶民・・・この謎解きゲームでも優勝候補と見て間違いない。

何か聞き出さないと・・・


「ええと、なんとなくだけどね・・・この問題文は全部解かなくて良いんじゃないかなって・・・」

「なんで?」

「それは・・・教えられないよ、勝負だもん」

「ケチー」

「はいはい、うちは貧乏だからね、ケチなんだよ」

「くぅぅ・・・」


葵ちゃんはこれ以上の情報を出してくれないか・・・まぁ仕方ない。

いったいこのチート庶民はどれだけ先を行ってるのか。

焦りを覚えつつ、私は風の間へ・・・


やはりこの部屋でも皆問題文を解くのに集中している。

設置されたテーブルが多いだけあって、この部屋を拠点にしている人が多そうだ。

その中には八丈くんの姿も・・・新聞部の拠点はそこか。


さすがにこんな状況では他人と違う行動をしているような人は・・・いた。


「うーん・・・トレヴィアン・・・」


壁に飾られた名画を前に、謎のポーズを取りながらため息をついているモデル体型の男性。

攻略対象の一人、十六夜透さま。

当然ながら、彼もこのクリスマスパーティに来ていたのだ。


「と、透さま・・・」


恐る恐る声を掛ける・・・正直彼は何を考えているのかわからない。

元のゲームでは、好感度が高いとその場でドレスに合わせたアクセサリーをくれるんだけど・・・

まぁ私相手ではそんなイベントが起きるはずもなく・・・


「おや君はたしか、三本木右子嬢・・・私に何か用ですか?」

「ええと・・・透さまも謎解きゲームにご参加を?」


とてもそうは見えないけれど一応・・・彼なら見た目に反して独自の攻略法を試みていてもおかしくはない。

もちろん、こんなゲームに興味はないという・・・どちらの可能性もあり得るんだけど。


「謎解き・・・フム、たしかに大いなる謎と言えるかもしれません、難解です」


透さまはそう言うと思い悩む表情を見せ・・・これは参加してる方か。


「・・・偉大なる先人たちが残した芸術の数々っ!・・・それらがどのようにしてこの世に生まれ出でたか!・・・ああ、私にもそのインスピレーションが欲しい!」


あ・・・ダメなやつだ。


「ああ・・・謎ですよね・・・芸術史の謎的な・・・」

「ですが、私が謎と言ったのはそれらではありません・・・あれです」

「?」


そう言って彼が指し示したのは、この部屋に飾られている絵画の一枚。

柊が描かれた日本画だ、作者は八王寺泰山・・・だったかな、私でも名前だけは知ってる。


「ここに居並ぶ名画の中で、あの1枚だけ格が劣る・・・とても不可解です!」

「そう・・・なんですか?」


たしかその作者は日本画の巨匠として結構有名なはず・・・

私は詳しくないけど、結構目につく機会があるし、テレビにも出てたような・・・


「確かに彼は優れた画家です、日本画の世界において一流と呼べます・・・」

「なら・・・」

「ですがッ!ピカソやゴッホ・・・これらの偉人とは比ぶるべくもなく・・・言わば彼らは超一流!」

「はぁ・・・」


私みたいな素人から見ればどれも充分すごいと思うんだけど・・・

その辺は芸術の世界で生きる者にしかわからない拘りがあるんだろうか。


「そもそも、八王子泰山当人をして『不満の残る拙作』と言われたこの作品をあえてこの場に飾るとは・・・何か特別な意図でもあるのでしょうか?・・・本当に謎です」


そこまで不満なのか・・・って特別な意図?!

それって、まさか・・・


「あの、透さま・・・その特別な意図って・・・この謎解きゲームが関係しているのでは・・・」

「謎解きゲーム?・・・ああ、そう言えばそんな催しがありましたね」


出題箱を指しながら聞くと、透さまは納得したように頷いた。

この様子だと彼は参加してはいないようだ。


「だとすれば・・・この柊・・・そのものがここにある理由か・・・」

「え・・・透さま、それはどういう・・・」


それはどういう意味ですか・・・そう問いかけようとした私の口を、透さまが人差し指で止めた。


「ノンノン・・・今それを口にするのは無粋というもの」

「ええええ・・・」


チッチッチ

不満の声を上げる私を他所に、透さまは器用に人差し指を揺らして見せる。


「まぁ・・・ここがどういう場所なのか・・・それを思い出す事です」

「ここがどういう・・・」

「今、ここで何をやっているのか、でも良いですよ」


今やっているのは謎解きイベント・・・綾乃様が作った・・・クリスマスパーティの・・・

あ・・・なるほど。

なんだ、ちゃんと教えてくれてるじゃないか。


「透さま、ありがとうございます!」


透さまにお礼を言うと同時に風の間を後にする。

もうこれ以上この部屋に留まる必要はない。


わかってしまえばとてもシンプルで・・・なんと言うか・・・模範的、綾乃様らしい謎解き。


月の間で見た12.24の日付ともしっかり噛み合う・・・たぶんそういう事なんだ。


そう、これはクリスマスのイベントなのだから・・・クリスマスに関連するものだけを見ればいい。


確かな確信を胸に、私は花の間へ。

ここの10ヵ所の花の中に、クリスマスに因んだ花があるはず・・・

それさえ見つければ・・・それさえ・・・



ああ・・・うん・・・見つければ解けるんだろうね。


見つかれば、ね・・・


10種類の花を前に・・・私はあまりにも無知だった・・・



わかんない、ぜんぜんわっかんないよ!

クリスマスの花とか言われても、クリスマスに花なんてあったっけ?状態。

なんかこう別名とか花言葉とか色々あるんだろうけど、全くわからない。


ここはいったん左子と合流して相談するか・・・

でも、あの子も植物に詳しいような印象ないんだよな・・・どうしよう。


まぁ、これ以上ここに居ても神の叡智が私に降臨するわけでもない・・・さっさと戻ろうか・・・

とぼとぼと・・・花の間を後にした私は気の抜けた足取りで鳥の間へm・・・むぐぅ!!


「痛たたた・・・いったい何が・・・」


鳥の間の入り口に向かおうとした私の側面から何かが・・・何者かがぶつかってきた衝撃で私は転倒した。

たぶん方向的には大階段の方から・・・階段を駆け上ってきた何者かが勢いよくぶつかってきたのだ。


「申し訳ありません!お怪我はありませんか?!」

「ええ・・・まぁ、なんとかそれっぽい怪我はないけど・・・」


通路上に敷かれた真っ赤なじゅうたんが衝撃を吸収したのか、痛みの割には何ともなかった。

さすが高級絨毯、クッション性も一流という事か。


とりあえず立ち上がろうと手をつこうとした時、何か硬い物に触れた。

眼鏡だ・・・おそらく、ぶつかってきた相手が掛けていたのだろう。

随分と度が強い、これでは持ち主は今何も見えないのではなかろうか。


「ええと、眼鏡・・・眼鏡・・・」


案の定・・・女の子が手探りで眼鏡を探していた。

なんとなく見覚えがあるような・・・でもクラスにこんな子はいなかったし・・・誰だ?


「あの・・・この眼鏡・・・」

「あ、ありがとうございます・・・重ね重ね申し訳・・・あ・・・」

「あ・・・」


眼鏡をかけた女の子が私を見て固まる・・・同時に私もその子が何者か気付いた。

誰かが言っていたね、眼鏡は顔の一部って・・・確かに、眼鏡をかけたら一発で誰かわかったよ、うん一部だ。


「三本木・・・・・・右子、様?」


その子が恐る恐る私の名前を訪ねてくる・・・途中の間は右か左かで迷って、右を選んだか・・・うん、正解だよ。

そうか・・・霧人くんだけじゃなかったね・・・姫ヶ藤に来年入ってくるのは・・・


「うん、久しぶり・・・ゴ・・・五味原さん、で合ってるかな?」

「はい!またお会い出来て嬉しいです!右子先輩!」


思わずゴミ子と呼びそうになるのを堪えて、私は彼女の名前を呼ぶ・・・

眼鏡の女の子・・・中学時代の後輩ゴミ子こと五味原恵理子は、すごく嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いたのだった。

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