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第48話「ネット・・・配信?」


なんか綾乃様が忙しそうだ。


期末試験も近いので、今日は紅茶研の部室で勉強会をする事になっていたんだけど、綾乃様は一向に現れない。

たぶんクラス委員の仕事があるんだろう、責任感の強い綾乃様の事だから色々背負いこんでないと良いんだけど・・・


「うーん・・・」


この勉強会は私達の中で一番学力の低い左子の面倒を見る会という側面がある。

だから、苦悶の声を上げるのはもっぱら左子なんだけど、今日は葵ちゃんが唸り声をあげた。


「なんか二階堂さんがいないと、私の負担が増えてるような気がする・・・」

「そんなことないよ気のせいじゃないかな」

「気のせいじゃないと思うよ、右子ちゃん全然手伝ってくれないし」


それはそのはず。

チート庶民や綾乃様の頭脳レベルに合わせられる程の頭脳を私は持っていないんだ。

適当に話を合わせながら、左子に教えるふりして自分も勉強してるような状態。

とても教える側に回るような余裕はない。

礼司さまも今は実家の方でみっちりと勉強漬けになっているらしいし・・・だから、必然的に葵ちゃんに負担が集中する事になる。


「私なんかが口を挟むよりも、やっぱり学年上位の葵ちゃんに任せる方が安心だから・・・ね」

「右子ちゃんだって学年上位じゃない」

「いや、アレはたまたま運が良かっただけで・・・」

「・・・そうやって姉さんは・・・いつも謙遜する」

「ねー、謙遜も度が過ぎると嫌味なんだよ?右子ちゃん」


謙遜じゃないんだけどなー・・・

きっと今回の期末試験の結果を見れば2人も現実を理解してくれるに違いない。

流也さまに叱られない程度にはがんばらないといけないけど。

そういえば流也さまも今回の期末試験にはとやかく言ってこないな・・・やっぱりクラス委員の仕事が大変なんだろうか。


「ごめんなさい、紅茶研には今日も行けそうにないの」

「そうですか・・・綾乃様、無理はしないでくださいね」

「ええ、ありがとう」

「・・・もし何か・・・私達に手伝える事があったら・・・」

「綾乃様、遠慮なく頼ってください、何でもしますので」

「・・・ので」


左子と一緒に役に立つアピールをするも、綾乃様は笑顔を返すだけだった。

・・・まぁ、綾乃様のクラスの事だから私達に出来る事なんてないんだろうけど。


この分だと今日も綾乃様抜きで勉強会かなぁ・・・

ゲームではそろそろクリスマスイベントに向けて好感度やステータス調整が必要な時期なんだけど、肝心の綾乃様がいないんじゃ何も・・・


・・・いや、待てよ。



12月前半に発生するイベントで、条件的に諦めていたのが1つあった。


その条件は各ステータスを『上げ過ぎない』事。

なにか1つでも一定以上に伸ばしてしまうとアウトという・・・初心者のうちは全く問題ないけれど、周回する程に引っ掛かりやすくなるという玄人泣かせの条件だ。


特にハーレムルートに入るために必須になるイベントなので、最大の障壁として多くのユーザーを苦しめる事になるんだけど・・・

どう考えても綾乃様はこの条件に引っ掛かってしまうのだ。

もちろんチート庶民は入学時点でもうアウト・・・だから影響はないかと思って放置する気でいたんだけど。



『私なら』どうだろうか?


ゲーム換算した時にどれくらいのステータスになるのか、なんとも言い難いところではあるものの。

正直そこまで優秀とは思えない、テストの順位が正当な学力だったらアウトだと思うけど、あんなのはまぐれでしかない。

体育祭での活躍も左子と2人で1人分みたいなものだし・・・


ダメ元で試してみる価値はあるような気がする。

イベント発生の為には放課後に単独行動する必要があるんだけど、綾乃様が忙しい今ならある程度は自由が利くはず。


「左子、今日の放課後なんだけど、私も他に行く所出来ちゃった」

「・・・なら私も、姉さんについてく・・・」

「ダーメ、左子は勉強しなきゃ」

「む・・・」


左子は不満そうだけど、1人だけ学力が劣ってるという状況では抜け出しにくいだろう。

ごめん左子・・・さすがに双子で連れ立っていてはイベントが発生するとは思えないんだ。




___放課後。


学園の最寄である藤野沢駅付近を歩く。

私達みたいに毎日車で学園まで送迎される生徒は殆どいないので、電車で帰宅する生徒の姿がちらほらと見える。

向かうのは大通りから1本離れた中くらいの通りだ。

学園の生徒も通る大通りと違って、こちらはほとんど地元民しか見当たらないような商店街だ。


ゲームでは帰宅中の葵ちゃんが夕食の買い物に通りかかった、という形でイベントが発生する。

私も何か買い物した方が良いのかな・・・せっかくだから左子にお土産的なやつを・・・


『精肉コーナーよりお客様、今日は国産ブランド牛を半額でご奉仕させて頂きます!チラシには書いていない、ご来店いただいたお客様だけのお買い得商品となっております!ぜひお買い求めください』


通りかかったスーパーから聞こえてきた半額という言葉につられて、私も精肉コーナーへ。

棚に並ぶ和牛全品に半額のシールが貼られている。

しかし、客のおばさん達はこの半額商品に群がったりはしていないようだ。


「半額って言ってもねぇ」

「その分、元のお値段が高いのよねぇ」


言われてみれば確かに、棚に並ぶ美味しそうなお肉達・・・そのどれもが4桁価格。

いくら半額になっても、庶民には手が出にくい価格だった。


「ああ、そういう商売かぁ・・・お肉の質は確かに良さそうなんだけどね・・・」


棚に並ぶ和牛は他の肉とは違う容器に入れられ、見るからに高級肉!という感じ。

肉自体も脂の部分がきめ細かいんだよね・・・姫祭でうちのクラスが扱った最高級牛肉が思い出される。

たしかあの肉もこんな感じで・・・え・・・こ、これは・・・!


「ありがとうございましたー!」


心なしか気合の入った店員の声に見送られ、私はスーパーを後にした。

手に提げたスーパーの袋からはどっしりとした肉の重み・・・思わず購入してしまった最高級の牛肉だ。

まさかこんなスーパーで売ってるなんて、しかも半額シール付きで。

これなら左子も大満足だろう、1人で出歩いた言い訳もしやすい。


そんな事を考えながら商店街を歩いていると、どこか見覚えのある光景に差し掛かった。

大手ハンバーガーチェーン店と小汚い雑居ビルが並ぶその配置は、ゲーム画面で見た背景だ。

全身に緊張が走る・・・果たして例のイベントは発生するのか?


歩く速度を少し緩めて、ハンバーガー屋の前を歩く。

葵ちゃんだったらどんな風に歩くんだろう・・・あんまり意識しない方が良いのかな。

意識しないっていうのも難しい話で、そう思うとかえって意識してしまう。


「お姉さん、姫ヶ藤の生徒でしょ?」

「学校帰りにこんな所で何してるの?」


そうこうしてると、ハンバーガー屋から出てきたチャラそうな2人組が絡んできた。

頭にニット帽をかぶり、お揃いのパーカー&腰パンスタイル。

2人は私の左右から挟み込むような動きで・・・逃げ場を奪われてしまった。


「お姉さん、ひょっとして暇してない?」

「俺らちょっと困っててさ、助けてほしいんだけど」


うわ・・・いかにもやばそうな雰囲気。

もうちょっと良い声の掛け方ってものがあるような気がするんだけどな・・・まぁいいや。


「お、お金なら持ってないです」

「あ、そういうのじゃないから、危ない話じゃないから」

「むしろお金はこっちが払うやつだし」


・・・よし。

イベント通りの台詞に対して、イベント通りの返答が帰ってきた。

とりあえずはイベント発生とみて良さそうだ。


「本っ当に危ない話じゃないからさ」

「話だけでも聞いてくれよ、お姉さんの助けが必要なんだ」

「ええと、少しだけなら・・・」


少し怯えたような演技をしつつ、素直に彼らについて行く・・・

向かった先は雑居ビルの一室。

彼らはそこを借りて活動しているグループで、そのリーダーこそが・・・


「「霧人さん、今日のゲストの代役連れてきました」」

「代・・・役・・・?」


綺麗に声を揃えて入室する2人の後ろで、何も知らない体で首をかしげて見せる。

・・・さて、ここからが大変だ。


小汚かった外と対照的に室内は綺麗なもので、白い壁には汚れひとつなく、床にはグレーの絨毯が敷かれていて、どこかのオフィスと言っても通用しそうな雰囲気だ。

ただ、見慣れないスタンドに支えられた照明器具と、同様にスタンド付きのカメラの存在が、ここがそんな場所でない事を雄弁に語っていた。


その部屋の奥には小柄な少年が1人。

やはりパーカーと腰パンのスタイルだけど、さっきの2人と比べてだいぶ線の細い印象を受ける。

きのこを思わせる切り揃えられた髪形がトレードマークのこの少年こそ、千代丸ちよまる 霧人きりと・・・最後の攻略対象。

現時点では中学3年生、来年から姫ヶ藤学園に通ってくる事になる予定の後輩キャラだ。


「その子が代役?なんだかパッとしないな・・・」

「贅沢言わないでくださいよ、姫ヶ藤のお嬢様ってだけでもいけますって」

「ぶっちゃけ見つかっただけでも奇跡みたいなもんですし」

「ええと、ここはいったい・・・状況が見えないんだけど・・・」


とりあえずはイベントシーンを再現する。

でもこのままイベント通りにやって良いのか・・・そこが問題だ。

私が彼を攻略しても意味がないわけで・・・攻略出来るとも思えないけど・・・


「お前ら・・・連れてくるだけで何も説明してないのか」

「「すいません!」」


霧人に睨まれ、この場で土下座しそうな勢いで2人が頭を下げる。

たしか来人らいと列歩人れふと・・・私と左子と同じ適当なネーミングのサブキャラだ。

あ、双子じゃないよ。


「しょうがないなぁ・・・お姉さん、僕達、ちろるーむって名前のネット配信やってるんだけど」

「ネット・・・配信?」

「今日の配信で同じ配信者の首里城朱里亜ちゃんをゲストに呼んでたんだけれど、ドタキャンされちゃって・・・お姉さんには代わりに出演して貰いたいんだ」

「ええええ」


かくして、この日、私はネット配信デビューする事になった。


まぁ1回こっきりなんだけどね。

ここでハメを外して騒ぎだす彼らにお説教をして、改心させる流れなんだ。

でも攻略するのは私じゃいけない、なんとか綾乃様に繋げていかないと・・・必要なのはお説教じゃなくて、布教?

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