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閑話 いつも二人の真ん中に その3


「ええと、皆様お揃いですね・・・それでは、12月度の定例会を始めたいと思います」


緊張した面持ちで、生徒会長が開会を告げる。

ここは姫ヶ藤学園の理事棟・・・生徒会室や理事長室のある建物の一角にある会議室。

個性的な建物の多いこの学園においては、小さく地味に見える建物だけれど、この学園の運営を左右するような重要な事は全てこの場所で決められる・・・そう言い切ってしまえるくらいに重要な場所。


「先にプリントを配りますので端から順に回していってください」


ちょっとした冊子が作れそうな枚数のプリントが各部の部長、委員長、クラス委員達に配られていく。

年末であり学期末でもあるこの時期、生徒会からの伝達事項は多くなる・・・その辺りの事情は中学時代に経験しているのでなんとなくわかる。

だから私達クラス委員は特に口を挟むような事もなく、配られたプリントを確認しながら生徒会からの説明を聞く事に専念していれば良いのだけれど。


学期末試験、暗くなる冬季の門限、終業式と始業式の段取り、冬休み中の学園施設の利用について、他諸々の伝達事項の数々・・・

姫ヶ藤の生徒会の皆様はとても優秀なので、要点がよく纏められています。

隣の席に座っている流也さまも満足そうに頷くのが見えました。

彼の影響力はここでも大きく、皆の注目は彼に集まる事が多い・・・そのおかげで私が注目される頻度が減っているのは有り難いのだけど。


「ではプリントの一枚目から・・・」

「説明など不要・・・いや、それくらいに良く書かれているという意味です、これ以上先輩方の時間を取らせるのは勿体ないので、我々は持ち帰って各自しっかり確認するという事でどうだろうか?」


流也さまは全体に意志を問うような言い方をしつつ、私の方に向かって聞いてくる。

周囲も当然のように私に注目してその返答を待っている・・・この場で彼の意見を覆せるとしたら私だけ、そういう空気が出来上がったのはいつからなのか・・・それほど時間は掛からなかった気がします。

日頃からこんな風に皆の注目を受けて発言する機会は少なくないのだけど、なかなか慣れない・・・声を出そうとするだけで表情が強張っていくのが自分でもわかる。


「・・・ええ、私も流也さまに賛成です、この時期の先輩方はとてもお忙しいと思いますので・・・ですが、この場での補足が必要になる方がいるかも知れません」


何名かがホッとしたような顔を見せた。

お忙しいであろう先輩方には申し訳ないけれど、クラス委員はそこまで優秀な人ばかりというわけでもなく・・・

文章よりも口頭で説明された方が良いという人もいる、ここで端折って後になってトラブルになるよりはずっといいはず。


「それもそうだな・・・会長、中断させてしまって申し訳ありません、説明をお願いします」

「いや、こちらこそお二人に気を遣わせてしまって・・・いや、説明を始めます」


流也さまに気圧されたのか、生徒会長は緊張した様子で説明を始めた。

心なしか早口になっているような気がするのは、やはり時間を気にしているのかしら。


「・・・以上です、補足説明が必要な方はいますか?」


質問の声は上がりませんでした。

忙しい先輩方のために皆も集中して聞いてくれていたみたいで、今日の定例会は少し早く終わりました。


いつもならこのまま各自バラバラに帰るのだけど、皆はもう一度プリントを出して確認していくみたいです。

私と流也さまだけが先に席を立つ形になってしまいました。


「流也さま、先程は出過ぎた事を言ってしまいました・・・」

「いや、あれはお前の判断が正しい、俺も少し急き過ぎた」


そう答えた流也さまは少し足早に歩いていて・・・


「もしかして、流也さまも何かお急ぎの用事が?」

「それ程の事でもないんだが、今月はクリスマスがあるからな・・・」


毎年、斎京の家では系列のホテルを貸し切ってクリスマスパーティが開かれる・・・そんな話を耳にした事があります。

私自身は一度も行った事はないのだけれど、とても豪華なパーティだとか・・・


「まさか流也さま自らパーティのお手伝いを?」

「いや、今年からは俺が主催するように命じられてしまってな」

「主催・・・」


聞いた限りではかなり大掛かりなパーティのはず・・・それを流也さまが主催。

斎京グループの力があるとはいえ、一人で全てを取り仕切るのはどれほど困難なことか・・・


「斎京の家を継ぐ者として、実力を試されている・・・という事でしょうか?」

「さあな・・・だからと言って例年のクオリティから下げるような事をする気もない、学園の者は皆招待するつもりだから、お前達も楽しみにしていると良い」


そう語る流也さまの顔には何の不安の色もない、自信に満ち溢れているように見える。

その内心まではわからないけれど、きっとそれがこの国のトップとも言える大企業グループを継ぐ者の資質。


・・・なら私は?

右子達が傍にいないというだけで、不安と緊張に負けそうな・・・

いつまでそんな私のままで、いるつもりなのか。


「流也さま」


思った以上にはっきりと・・・自分でも驚くくらいに声が出ていた。

今の私にどれだけのことが出来るかわからない・・・でも私は、言葉を続ける。


「そのクリスマスパーティ、この私に共催させていただけませんか?」

「ほう・・・二階堂との共催か」

「はい、例年のクオリティの維持程度では満足出来ないでしょう?」

「ふっ・・・面白い、その話乗ってやろう」


精一杯の虚勢を張って、流也さまと握手を交わす。

私は右子達に相応しい主であるために、この学園を代表する『Monumental Princess』になると決めたんだ。

ここが、その第一歩に違いない。

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