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第43話「・・・良かったわね右子」

「礼司、お前はもう帰りなさい、退学手続きは私が済ませておく」


礼司さまが・・・退学?まだ1年目なのに?

そんな、どうして・・・アレは2年目の姫祭で主人公が『Monumental Princess』に選ばれた後の、ルート確定後のイベントのはずなのに・・・


「でも父さん、僕は・・・」

「聞こえなかったのか礼司、帰りなさい」

「う・・・」


私が混乱している間にも話が進んでいく・・・このままじゃ本当に礼司さまが退学させられちゃう。

な、なんとかしないと・・・たしかここで主人公が・・・


「ちょっと待ってください、いきなり退学だなんて酷いと思います!」

「右子?!」


ゲームのイベントをなぞるように、礼司さまとお父さんの間に割って入る。

残念ながら本来の主人公である葵ちゃんはここにはいない、代わりに私がやるしか・・・


「なんだね君は・・・」

「私は三本木右子、礼司さまの友達です」


よし、覚えてる覚えてる。

このままイベントの台詞で乗り切ろう。


「三本木・・・知らない名前だな、うちの家の事情だ、口を出さないでもらおうか」

「くぅ・・・」


まずここで怯んで見せてから、『姫ヶ藤の姫』の肩書を出して生徒代表的な立場を・・・って、姫に選ばれてないし!

そもそも私葵ちゃんじゃないし!

な、なにか代わりに言う事を考えないと・・・


「ええと・・・ええと・・・」

「礼司、いいから来なさい」

「あうっ」


何も言えなくなった私を押しのけ、お父さんが強引に礼司さまの腕を掴む。

ごめん礼司さま、私なんかじゃ無理だったよ・・・

や、本当にどうしよう、このままじゃ打つ手がない。

礼司さまもお父さんに逆らえず、引っ張られるように連れて行かれ・・・


「お待ちください」


凛とした声が響き、お父さんが足を止めた。

その声の主は・・・


「綾乃様・・・って綾乃様?!」


振り返った先に居たのは綾乃様・・・なんだけど・・・

その表情は険しく視線は鋭く・・・っていうか完全に悪役の顔になっていた。

え・・・な、なんで・・・


「君は・・・たしか二階堂家の・・・」

「先程から聞いていれば、家元ともあろう方が随分と勝手な事をなさるのですね」


そう言いながら、綾乃様は力強い足取りでドレスと同じ水色の靴を踏み鳴らしながら進んでいく。

ひょっとして綾乃様、怒ってる?

確かめるように左子の方を見ると、私の心が通じたように左子が大きく頷いた。


「綾乃様・・・やっちゃえ・・・」


そしてなんか物騒な言葉まで口にした。

嫌な予感がする、すごく嫌な予感が・・・


「四十院流というのは、いつからそんな狭量なものになってしまわれたのでしょう」

「な・・・」

「不躾ながら、茶の道に貴賎なしという四十院流の言葉を聞いた時は感銘を受けたものですが・・・それももはや過去の遺物ですか」

「貴様・・・四十院流を侮辱するつもりか!」


うわぁ・・・お父さん顔を真っ赤にして怒っている。

無茶苦茶怖いんだけど・・・綾乃様は全く動じてない。


「事実を申し上げたまでです・・・日頃から礼司さまも愚痴をこぼしておいででしたが、こうも親の横暴がまかり通っておられるのならそれも当然のことでしょうね」

「ふん、成り上がりの子娘には十六代続いた伝統の重さがわかるまい、礼司にはいずれ十七代目として・・・」

「古臭いだけの伝統など捨ててしまいなさい、礼司さまは当家で保護します」

「に、二階堂さん?!」


そう言うなり綾乃様はお父さんに掴まれていた礼司さまをひっぺがした。


「これは家庭の問題だ、いくら二階堂家でもそんな真似が許されるわけが・・・」

「申し上げましたでしょう、保護すると・・・礼司さまのお父様には虐待の疑いがありますので」

「虐・・・待・・・?」

「今日の所はお帰りください、警察と児童相談所にはこちらで届けさせていただきます」

「く・・・」


退学を言い渡した時のお父さんの台詞に合わせるようにして皮肉を利かせる綾乃様。

もちろんそんな事を言われたお父さんは納得出来るはずもなく、何事かを言いかけたが・・・


「帰れ・・・帰れ・・・」

「ちょ、左子?!」

「帰れ・・・か・え・れ!」


あんまりやる気を感じない左子の帰れコールだったが、それでもこの場に居合わせた生徒達には効果がてき面だった。

・・・まぁ、みんな礼司さまのファンみたいなものだもんね。


「「か・え・れ!か・え・れ!」」


たちまち巻き起こる帰れコールの大合唱。

先程のコンサートもかくやという音の圧に、さすがのお父さんも気圧されたようで。


「そんな子供の我儘がいつまでも通ると思うなよ礼司、しっかり考えておきなさい」


とだけ言い残すと、立ち去ってしまった。

なんか大事になってしまったけど・・・良いのかなぁ、これで。


「綾乃様」

「ふぅ・・・もう大丈夫ね」


綾乃様に駆け寄ると、そこに悪役の顔はなく、すっかり穏やかな元の綾乃様になっていた。

あれだけの事をやっておいて、この穏やかさもちょっと怖いけど。


「礼司さま、勝手な事をしてしまってごめんなさい」

「いや、僕の方こそ家の事情に巻き込んでしまった、謝らないといけないのはこっちだ・・・いつかは向き合わないといけない事だってわかっていたのに」


いやいや礼司さま、来年にはしっかり向き合うはずだったからね。

・・・たしか、主人公が関わらないルートでも自力で解決してたはずだよ。


「でも本当に良いのかい?二階堂の家にお世話になってしまっても・・・」

「ええ、うちの屋敷はお客様用の部屋が空いていますので・・・」


そういえば話の流れでそんな事になっていたっけ。

ってことは、礼司さまこれから二階堂の屋敷で暮らすの?綾乃様と一つ屋根の下で?

これは攻略のチャンスなんじゃ・・・葵ちゃんには悪いけどここで一気に差を付けれるかも。


「私達もメイドとして精一杯お世話しますね!」


うん、屋敷の中なら綾乃様のサポートもしやすいはず。

ここで好感度をたっぷり稼がなきゃ。


「ふふっ、右子ったら・・・じゃあ礼司さまのお世話は右子にお願いするわね」

「ええ、任せてください!」

「姉さん・・・がんばって」




・・・・・・・・・・・・



「失礼致します」


そう言いながらコンコンとノックをすると、しばらくの間を置いてから礼司さまがあてがわれた客室の扉が開かれた。


「おはようございます礼司さま」

「おはよう三本木さん、朝食の時間にしては早いね」

「ええと、礼司さまの身支度を手伝うように命じられて来たんですけど・・・もう済んでますね」

「それは・・・今慌てて着替え終わった所だよ」

「・・・ですよね」


・・・朝から気まずい空気が私達を包んだ。



翌日、いつものように左子と二人で綾乃様の部屋を訪れた私に綾乃様が命じたのは・・・


「これからは左子だけでいいわ、右子は礼司さまの部屋に行って身支度を手伝ってさしあげなさい」

「え・・・でもそれは・・・」

「きっと礼司さまは今慣れない環境で困っていると思うの、ほら右子、早く行ってあげて」

「えぇ・・・は、はい」


まるで追い出されるように綾乃様の部屋を後にした私。

言われた通りに礼司さまの部屋を訪れたわけなんだけど・・・



「あ、あの・・・綾乃様なりに礼司さまの事を気遣っての事だと思うんです、ここでの暮らしで困らないようにと・・・」

「二階堂さんの気持ちは有り難いけれど・・・僕も年頃の男なので、そういうのはちょっと・・・」

「あはは・・・後でお伝えしておきます」


極めて常識的な反応ありがとうございます。

いくら礼司さま相手とはいえ、朝からメイドの手でお着替えとか私もどうかと思うよ。

綾乃様もちょっと世間知らずな所があるから、今後は気を付けないとだね。

せっかく礼司さまと一つ屋根の下での生活が始まったのに、このままじゃ好感度を下げかねない。


「・・・三本木さん?」

「はい、何か?」

「いや、そんな風に部屋の隅に立っていられると落ち着かないんだけど・・・」


うん、私も落ち着かない。

でもここで何もせずに戻っても職務怠慢というか、綾乃様に申し訳ないというか・・・

何とか、二人の仲を取り持つような働きが出来ると良いんだけど。


「せめてそこの椅子に座っていてくれないか」

「あ、はい」


礼司さまに言われるまま、窓脇に配置された揺り椅子に腰掛ける。

私の身体に対して一回りは大きいその揺り椅子は意外と安定感があり、座り心地はすこぶる良好だ。

ゆっくりとした揺れがなかなかのリラックス効果をもたらしてくれる・・・窓から差し込んで来る日差しも心地良く・・・


「すぅ・・・」

「さ、三本木さん?」

「・・・すぴー」

「起きて、起きてください・・・」


気付いた礼司さまがすぐに起こそうとしてくれたみたいだけど、図太くも私はなかなか目を覚まさず。

・・・かれこれ30分くらい眠ってしまったらしい。



「まさか眠ってしまうなんて思わなかったよ」

「・・・ごめんなさい」

「とりあえずこれを飲んで、気分がすっきりするから」

「ん・・・」


礼司さまの役に立つように言われてきてるのに、なんてみっともない真似を・・・

勧められるまま礼司さまが淹れてくれたハーブティーを口に含むと、ミントの爽やかな香りが寝ぼけた私の意識を叩き起こしていく。

ってかミントがすごく濃い、これじゃまるで歯磨き粉を飲んでいるような・・・


「礼司さま・・・これミント強すぎませんか」

「でもこれですっきりしたんじゃないかな?」

「ええ、まぁ・・・うっ・・・」


くぅ・・・口の中がすごいヒリヒリする。

きっと礼司さま流の荒療治なんだろうね・・・それだけ私の寝起きが悪かったということか。


「きっと姫祭の疲れが残っていたんだろうね、今日が休日で良かったよ」

「うん、たしかに・・・それであの、この事は綾乃様には・・・」

「ああ、内緒にしておくよ・・・まぁ、これくらいで彼女が怒るとも思えないけれど」

「ありがとうございます」


さすが礼司さま、よくわかってらっしゃる。

きっと綾乃様は怒ったりしないだろう・・・単に私が恥ずかしいのだ。

せっかく綾乃様の好感度を稼ぐチャンスだというのに、とんだ失態だよ。


「あ、そろそろ朝食の時間ですね、食堂へご案内します」


そろそろもなにも、私が爆睡してたせいで若干遅れてしまっているんだけどね・・・

今日は休日なので問題にはならない、と思う。

礼司さまを連れて食堂へ向かうと、通路の向こうから左子がやって来た。

いそいそとワゴンを曳いている・・・ちょうど朝食を運んで来る所だったようだ。


「あ、左子手伝・・・」

「大丈夫」


いつもよりも中身が多いだろうワゴンを一人で曳く左子を手伝おうとしたら、ぴしゃりと遮られてしまった。

こっちくるなとばかりに、左子がじと目で睨んできている。

ええと・・・何か左子を怒らせるような事したっけ?ひょっとして双子特有の感覚か何かでさっき眠ってたのがバレたとか?


「ひ、左子?」

「大丈夫・・・だから・・・」


そう言いながら左子は、勢い良くワゴンを曳きながら足早に進んでいった。

本当に大丈夫なのかな・・・中の料理がちょっと心配だぞ。


「失礼致します、礼司さまをお連れしました」

「礼司さまおはようございます、昨夜はよく眠られましたか?」

「ええ、おかげさまで・・・二階堂さん、今回はうちの事情に巻き込んでしまって本当に申し訳ない」

「いいえ、どうかお気になさらず・・・右子は粗相ありませんでしたか」


ギクリ・・・たぶん社交辞令なんだろうけど、冷や汗が・・・

さっきの事は黙っていてくれると礼司さまは言ってくれたけど・・・つい視線を向けてしまう。


「そうだね、彼女のおかげで少し気が楽になったと言うか・・・うん、良いメイドだと思うよ」

「ふふっ、それは何よりです・・・良かったわね右子」

「え・・・」


綾乃様が何か意味ありげな目でこっちを見てくる。

やっぱりバレてる?左子が気付いて綾乃様に伝わった?・・・という事は、礼司さまが黙っててくれて良かったわね的な・・・これは後でお叱りがあるかも知れない、覚悟しておこう。


「礼司さま、どうぞここを我が家と思っておくつろぎくださいませ・・・千場須」

「では礼司さまはこちらのお席へ・・・」


執事の千場須さんが綾乃様の向かいの席へと礼司さまを誘導する。

礼司さまが加わった事で私の座席の配置も変わったようだ。

これまでは綾乃様の両隣が私達双子の定位置だったんだけど、左子はそのままで私が左子の向かいの席・・・礼司さまの隣の席になる。

若干の違和感はあるけれど、これはこれで収まりが良いね、綾乃様と礼司さまが並び立ってるのも美男美女って感じで悪くない。

もし礼司さまを綾乃様のお相手として迎えたのなら、こんな風になるんだろうな。


紅茶研で一緒に過ごす事も多かったので特に緊張感もなく、和やかに朝食が進んでいく。

発生時期こそ本来よりもだいぶ早い物の、イベント的に礼司さまは紅茶ルートに入ったと見て良い。

なら綾乃様には紅茶をきっかけにして好感度を稼いでもらうのが良いんじゃないかな。


「礼司さま、食後に紅茶を頂きたいです」

「もう右子ったら、礼司さまはお客様なのよ」

「まぁまぁ二階堂さん、僕もお世話になりっぱなしじゃ悪いし、それくらいはさせて貰いたいかな」


そう言って礼司さまが席を立つ・・・予想通りの展開だ。

礼司さまには予め茶葉の位置を教えてあるので迷う事もない。

あとは邪魔者の私達が消えて綾乃様と二人きりにするわけですよ、まずは私が腹痛を訴えて左子を・・・


「でも礼司さまはまだこの屋敷に不慣れよね、右子、案内して差し上げて」

「へ・・・」


や、礼司さまは問題なく一人で紅茶を淹れてこれますよ?

さっきもミントティー淹れてくれたし・・・ってこれは内緒だっけ。


「ほら右子、一緒に行って差し上げなさい」

「え、ええと・・・」


ど、どうしよう・・・

まさか綾乃様がこう動くなんて・・・いや、綾乃様なりに礼司さまに気を配ってくれてるんだ。

ここは綾乃様の意志を尊重すべき、しっかり綾乃様を立てて好感度を稼ぐのが私の役割じゃないか。


「わかりました!礼司さま、こちらです!」


元気よく立ち上がり、礼司さまを押し出すように食堂を後にする。

食堂を出る際に綾乃様の方を見ると、綾乃様は真剣な眼差しをこちらに向けて来ていた。

ええ、わかっております綾乃様、しっかり綾乃様の良さを礼司さまにアピールしてきますとも。





・・・・・・・・・・・・




「綾乃様・・・やっぱり姉さんは・・・」

「ええ、あんなに真剣な顔をして・・・右子は本当に礼司さまが好きなのね」


前から薄々そんな気はしていた。

それは紅茶に興味があるようには見えなかった右子が入学早々に紅茶研に入ったあたり。


彼が悪い人間ではない事もよくわかっている、彼以上に相応しい男性はそうはいないとすら思えた。


「礼司さまなら・・・きっと姉さんを・・・」

「そうね、きっと礼司さまも右子を必要としてくれるに違いないわ」


今礼司が抱えた問題は深刻で、とても簡単には解決しないものだろう。

だからこそ、その困難を乗り越えた時、二人は確かな絆で結ばれる・・・これはチャンスでもあるのだ。


決して二人の邪魔をしてはいけない、自分達に出来るのは決して多くはない。

だが幸いな事に、この屋敷での二人の行動はある程度綾乃がコントロールできる。

可能な限り、右子と礼司が一緒に過ごす時間を作ってあげよう・・・それが綾乃達に出来るせめてもの応援の形だった。


「・・・姉さん」

「がんばって・・・右子」



紅茶を淹れに行った二人の背を見送りながら・・・

左子と綾乃は硬くその手を握りしめた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 右子にそんな気はないのに、そう思われてしまっている(笑)誤解はとけるのか?いっそ解かないままいくのか? 続きが気になる!
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