表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/116

閑話 いつも二人の真ん中に その2

XX年4月___


私と右子・左子の3人は私立姫ヶ藤学園に入学しました。

右子ったら突然こんなレベルの高い学校に行きたいと言い出すのだもの・・・誰か一人だけ落ちてしまうんじゃないかってすごく不安だったわ。

なんとか無事に3人揃って入学出来た、私はそれが何よりも嬉しい。


残念ながら、クラスは2人と別になってしまいました。

今思えば、それまでずっと同じクラスに居られた事の方がすごく運が良かった事なのかも知れない。


私一人だけが別のクラスになってしまった事を心配しているのか、帰りの車内ではよく右子がクラスの様子を尋ねてきます。

そんなに私は頼りないのかな・・・ここは2人がいなくても大丈夫だって事を示しておきたいわ。

ちょうどクラス委員を受け付けていたので、立候補したらクラスの皆が賛成してくれました。

中学で生徒会長をやっていた事はまだ話していなかったのだけれど・・・皆、私にカリスマ性を感じるのですって、ふふ・・・右子達が聞いたらどう思うのかしら。


クラス委員になった事で、右子達とは下校時間がずれてしまう事が多くなりました。

私の事は気にせずに先に帰るように言っても、あの二人はどこかで時間を潰してくると言って時間を合わせてくれます。

そう言えば、右子達が『あの子』と一緒にいるのを見るようになったのはこの頃のこと。



一年葵。



変わった名前・・・と言う点では私も他人の事は言えないのだけど、そこはかとなく不思議な名前。

この学園では珍しく、実家は貧しい庶民だという話で・・・入学当初からその噂は私の耳にも入って来ていました。

同じ庶民の気配を感じ取ったのか右子達にちょっかいを掛けて来ていたけれど、二人も同じ部活を始めたりして、あの子と仲良くしているみたい。


私も実際に部室で同席させて貰ったけれど、悪い子じゃない・・・と思います。

貧しい実家の家計を支える為に、中学の頃からアルバイトをして働いているのはとても立派だと思います。

けれど・・・なぜだろう、あの子を見ているとモヤモヤする。

特に、私がクラス委員の活動で遅れて部室に入った時にあの子達が3人で仲良く戯れている姿を見ると、どうしようもなく心がざわつくのを感じた。

これでは、まるで葵さんにあの2人を取られてしまうと思って怯えているみたい・・・・・・実際そうかも知れないわね。



夏休みにアルバイトをすることにしました。


これは自分でもわかってる・・・間違いなく葵さんへの対抗心。

葵さんは明るく活発な性格で、あの子がいるだけで周囲の空気まで和やかになる・・・私ではあんな風にはいかない。

それでいて真面目で努力家だし、成績も学年2位・・・そして何より可愛らしい。

ここ数年現れていないという、この学園の象徴『Monumental Princess』を目指しているという話も今では頷ける。

きっと来年には彼女が最有力候補に躍り出ている事でしょう。


でも・・・私だって負けたくない。

『Monumental Princess』・・・それは私にとっても目標。

右子達に相応しい存在になりたい・・・私が小さい頃から漠然と願ってきたそれが、目の前に形となって現れた気がした。

『Monumental Princess』になれば、きっと私は何も気負う事無く堂々とあの二人の前に立てる・・・『いけすかないお嬢様』だなんて誰にも言われる事もなく。


だから私は葵さんに追いつかないと・・・追い越さないと。

アルバイト・・・自ら働いてお金を得るという事は大事な経験だという・・・そんな話はよく耳にしています。

それが彼女の強さの秘密だというのなら・・・私だってアルバイトをすればきっと何かを掴めるはず。



そして夏休みが始まり・・・アルバイトが始まりました。


相当に過酷なものだと思って覚悟をしていたアルバイト。

でも、いざ始めてみれば・・・思ったよりも順調に進んでいました。

やっぱり見ず知らずのお客様を相手にする接客はすごく緊張するのだけれど・・・店長様に戴いたマニュアルがとてもよく出来ていて、そこに書いてある台詞を組み合わせる事でたいていの状況に対応する事が出来ました。

お客様も優しい人が多くて、最近ではマニュアルにない世間話まで出来るようになったわ。


「右子、働くって楽しいわね」

「え」


私がそう言うと、右子は変な物を見たような顔をした・・・すごく面白い顔だったので、こみ上げてきた笑いをがんばって堪えたのを覚えている。


「綾乃さん、5番テーブルのお客様に・・・」

「はい、注文を聞いてくるわ」


「綾乃さん・・・3番テーブルの・・・」

「和風ハンバーグセットとチーズハンバーグセットね、今持っていくわ」


綾乃さん・・・ここでは右子と左子が私を「さん付け」で呼んでくれる。

アルバイト中の私達は『お店の店員』という対等の存在・・・これは素敵だと思った。

・・・たまに綾乃様って言いそうになったのを無理矢理ごまかしたり、無意識なのか綾乃様って言ってる時もあるけれど・・・それはそれで面白いから私も気付かない振りをしてあげている。


今の所は右子が2回、左子は1回・・・夏休みが終わったら累計を教えようと思っている。

それが今の私の、密かな楽しみ。

将来は3人でこんなお店を経営するのも良いかも知れない・・・そうしたら、きっと楽しい毎日が送れるに違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ