閑話 Princessに憧れて
3年前の夏休み・・・不思議な女の子に出会った。
うちの家の近所にある姫ヶ藤学園・・・お金持ちしか通えないような名門私立だ。
貧乏なうちの家計であそこに通うのはどう考えても無理な話。
それでも、私は未練がましく・・・あそこの猫と遊ぶという口実で校舎を眺めていたあの日、あの子に出会った。
サイドテールって言うんだってね、髪を片方に寄せた特徴的な髪型と気の強そうな目が印象に残ってる。
ちょっと・・・いや、かなり強引な感じで私が『姫ヶ藤に通いたい』って思ってる事をお父さんに相談させられたんだ。
小さい頃にあそこの姫祭で観た姫ヶ藤の姫・・・Monumental Princess。
あのドレス姿が記憶に焼き付いてて・・・すごく綺麗だったんだよ。
私もあんな風になりたいって事までお父さんに話しちゃった・・・つい、勢いで・・・今思うと結構恥ずかしいね。
そしたら、お父さんが妙に真剣な顔になってね。
お金は何とかするから、遠慮なんてしないで行きたい学校を目指しなさいって・・・
あれは私の将来を考えてくれているってだけじゃない気がする、あの表情はたぶん・・・お母さん絡みの話だ。
お母さんについて、私は何も知らされてないんだ・・・気付いた時には居なかったというか、最初からいないような感覚。
ひょっとしたら、お母さんが姫ヶ藤学園出身だったりしてね・・・さすがにそれはないか・・・うち貧乏だし。
でもお父さんに迷惑かけたくないって・・・そう思ったら勉強には自然と力が入ったよ。
自分でも不思議なくらいに成績が良くなっていって・・・気付けば姫ヶ藤の授業料免除が狙えるくらいになってた。
そして入試の結果はまさかの3位・・・あの子の言った通り、本当にオール90点取れちゃった。
合格発表の日なんてお父さんが泣いて喜んじゃって・・・大変だったな。
そして迎えた入学式の日。
一緒に通うって言ってたから、あの子もきっと入学しているはず・・・
そう思って探していたら、あの髪型の子を見つけたんだけど・・・人違いだって。
3年経ってるから髪型も変わってるのかも・・・その後も探してみたんだけれど、それっぽい子は見つからなかった。
庶民出身の私がMonumental Princessを目指してる、というのはあまり良くない事らしい。
あの子を探すためもあって、あちこちで喋っちゃったのが災いしたみたいで・・・私は嫌がらせを受けるようになった。
机に落書きとか靴に画鋲とか入れられるのは気にしなかったんだけど、ノート破られたのと体操着隠されたのは辛かったな。
でも体操着を見つけてくれた人がいたんだ、それもトイレの中に流されてたのを素手で・・・
なんとその人、入学式の日のサイドテールの子だったんだよ、名前は三本木右子さんっていうらしい。
やっぱり3年前のあの子は、この三本木さんだったんじゃないかって気がしてきて・・・胸が熱くなってきて、何も言えなくなっちゃった。
そしたら本当に3年前のあの子だってわかって・・・私とは敵になっちゃったから、知らないふりをしていたんだって。
そっか・・・右子ちゃんもMonumental Princessを目指してたんだね。
すごい強敵の出現だけど、私は騙し合いみたいな事はしたくないな。
右子ちゃんとは正々堂々と勝負したい。
こういうのをライバルって言うんだよね・・・友達でもあり、強敵でもある・・・そんな関係。
私は絶対負けないよ、右子ちゃん。




