第94話「いつも貴女の右側に」
「右子、昨夜はよく眠れたかしら?」
「綾乃様こそ、ちゃんと眠れました?」
___遂にこの日がやって来た。
『姫祭』の略称で呼ばれる姫ヶ藤学園の学園祭の当日の朝。
制服姿で病室を訪れた綾乃様を、私も制服姿で出迎える。
日々のリハビリは順調に私の両脚の感覚を戻してくれていた。
さすがにまだ車椅子は手放せないけれど、両足で立ち上がって歩けなくもない。
リハビリ用の手摺から手を放して10メートルの往復は行けた、ある程度の状況には対応出来るだろうと医師のお墨付きだ。
「綾乃様の晴れ姿が見れるかと思うと楽しみで・・・昨夜は9時間しか眠れませんでした」
「もう・・・右子ったら、よく眠れたみたいね」
そういう演出なのか、1週間前から各候補者の獲得票数は伏せられていた。
しかしその時点での綾乃様は、100票近くの差をつけて首位をキープしており・・・結果は誰の目にも明らかだった。
駆け込みの投票がどの程度あるのかはわからないけど・・・この差が返るとは思えない。
おかげで私は何の心配もなく、ぐっすりと眠れたわけだ。
「綾乃様はどうなんですか?・・・もし寝不足でしたら午前のお茶会はお休みしても・・・」
「大丈夫よ、休息も仕事のうちだもの・・・右子ほどは眠れてないけれど」
そう答えた綾乃様の顔は血色も良く・・・充分に眠れている事を察する事が出来た。
私も長いこと綾乃様にお仕えしてきたからね・・・それくらいはわかるのだ。
病院の駐車場には千場須さんの車が待っていた。
いつものリムジンとは違う背の高い車種・・・リムジンには車椅子が入らないから、私の為に別の車が用意されたようだ。
大きな後部ドアが開くと、中からレールのようなものが出てくる・・・車椅子を乗せる為の機構だという事はすぐにわかった。
このレール部分に車椅子の車輪を乗せるんだろうけど・・・なかなか細かい操作が必要で・・・もう少し右かな・・・あ、行き過ぎた・・・ここは一度戻して・・・
センチ単位の修正の為にタブレットをちょんちょんやっていると、不意に車椅子が動き・・・レールの上に乗せられた。
「あっ・・・」
「右子ったら、最初から私を頼りなさい」
「は、はい・・・」
綾乃様が車椅子を押してくれたのだ・・・たしかに人力でやった方が早い。
所定の位置までレール上を進むと、ロックが掛かり車輪が固定される。
そこからレールごと車椅子が車内に収納される仕組みだ。
車内に収まるとそのまま車の後部座席のような感覚だ、隣には一人分の座席があって左子が座っていた。
「おはよう・・・姉さん」
「おはよう、左子はここで待ってたの?」
「ん」
綾乃様と一緒に病室まで来れば良いのに・・・なんでわざわざこんな所に・・・
それにしては左子の表情はなんか得意げで・・・ボールを取ってきたわんこ?・・・みたいな。
・・・まぁいっか。
後部ドアが閉まり、続いて横のドアから綾乃様が乗り込んで来る。
ひとつ前の座席は後ろ向きになっており、綾乃様が私達と対面で座れるようになっていた。
「千場須、車を出して・・・右子の負担にならないようにゆっくりとね」
「かしこまりました」
「や、そこまで気を遣わなくても・・・おぉう」
車がちょっとした段差を通ったあたりで振動が車椅子を襲った。
ああ・・・しっかり固定されてるから振動もダイレクトに伝わってくるのか。
しかし千場須さんの運転技術もあって、そこまで酷い揺れに苦しめられる事はなく・・・やがて車の外に見慣れた風景が見えてくる。
「姫ヶ藤の通学路だ・・・なんか帰ってきたって感じがする」
「そうね・・・お帰りなさい右子」
「綾乃様、それは屋敷に戻った時にお願いしたいかなって・・・」
「あら・・・」
そして車は学園の正門前・・・は混雑していたので、裏手に回って職員用の駐車場へ。
さすが姫祭の当日・・・正門前には入場待ちの行列が出来ていた。
たしか去年はそこまででもなかったような気がするんだけど・・・今年は『Monumental Princess』のお披露目があるからか、朝からすごい人数だ。
さすがに職員用の駐車場には人気が少なく・・・あれは飲食系の出し物関係かな、トラックが1台停まっていた。
トラックの隣に停車すると、乗った時と逆のプロセスで車椅子が外に出される。
どうやら左子がレールの操作をしていたようで、車輪のロックもスイッチ1つで解除された。
「三本木さん」
そのまま学園内へ進み、職員棟の前を横切ろうとしたあたりで静香先生に呼び止められた。
車椅子の私にすぐ気付いたようで、小走りで駆け寄ってくる。
「無事に来られたようね、身体の具合は大丈夫?」
「はい、体調は問題はなく・・・さすがに車椅子からは降りられませんけど」
「そう・・・それにしてもすごい車椅子ね」
静香先生はしげしげと車椅子の各部を観察してきた。
普通の物とはちょっと違う、メカメカしい見た目の車椅子だけど・・・
「やっぱりこういうのって特別な許可みたいな物が必要ですか?」
「その点は問題ないと思うわ、医療機器の類だもの・・・少し、目立ち過ぎるとは思うけど」
少し・・・どころじゃないような・・・
今こうしている時点であちこちから視線が集まって来てるのを感じる。
や、きっと綾乃様が注目を集めているんだろう・・・いつもの事だ・・・私はそう思う事にする。
「四十院くん達はもう部室で準備を始めているから、早めに合流してあげなさい・・・それと・・・」
静香先生は部活顧問らしく紅茶研の連絡事項を伝えた後・・・私達に向けて付け加えた。
「事前に伝わっているとは思うけど、二階堂さん、三本木さん・・・お披露目の式典には決して遅れないように、いつでも抜けられるようにしておくのよ」
「はい」「はーい」
真面目に返事を返す綾乃様、対して私は適当に返事をする。
実際に選ばれるのは綾乃様だから、私は気にしなくて良いやつだ。
会場となるホールへの車椅子での入場で手間取る可能性の方が心配なくらい。
その点を踏まえて、私も早めに動けるに越したことはないかな。
周囲からの視線に加えて人も集まって来そうな雰囲気を察して、私達は急ぐように紅茶研の部室へ向かう。
部室の中はお茶請けとして用意した焼き菓子の箱が山積みになっていた。
今日のお茶会は外のテラスでの営業なので、もっぱら部室は倉庫としての運用になる予定だ。
「「おはようございます」・・・ございます」
私達は声を揃え・・・左子だけワンテンポ遅れて、挨拶しながら部室に入る。
皆が作業の手を止めて出迎えてくれた。
「二階堂さん、三本木さん、おはよう」
「おはよう、右子ちゃん、二階堂さん」
「相変わらずパない車椅子っすね、右子先輩」
「あの、俺も一度それ乗ってみたいんですけど・・・」
「おい馬鹿、右子さん困ってるだろ」
「綾乃さま!いよいよですね!私、興奮してしまって昨夜は眠れなかったです!」
「ダメじゃない恵理子さん、睡眠不足はお肌の敵よ・・・お姉さまはよく眠れました?」
「あ、右子さん・・・おはようごいます」
この人数に物量・・・そこへ車椅子の私が加わった事で部室は一気に手狭になってしまった。
なんか申し訳ないな・・・なるべく隅っこの方に居よう。
紅茶を淹れる為のポットや食器類はもう運び出した後のようで、私に出来る作業はあまり残っていない。
茶葉をティーバッグに詰める作業くらいか・・・既に結構な数が出来てるけど・・・どれくらいお客さんが来るんだろうか。
「じゃあ俺ら先に出てますね」
「お願いします」
部室の狭さを感じてか霧人くん達が外に出て行った。
順番待ちの行列の誘導とチラシ配りが彼らの担当だ。
主に紅茶を淹れるのが礼司さま、左子と恵理子さん、楓さんがフード担当。
接客は綾乃様と葵ちゃんと比瑪乃・・・という布陣だ。
私は状況に応じて足りない場所のサポート・・・という事になっているけど、実際は身体を心配しての事だろう。
実際女性陣はメイド服を着用している(綾乃様と左子と恵理子さんは二階堂家の、比瑪乃と楓さんは斎京家のメイド服だ)けれど、私は制服のまま、仕事もそれなりで良いという事なんだろう。
いっそ、車椅子の機動力を活かしてチラシ配りの方に行こうかと提案したんだけど・・・
「絶対ダメです!」・・に決まってるじゃない!」
「え・・・なんで」
恵理子さんと比瑪乃に即却下されてしまった。
「右子先輩・・・少しは自分の立場ってものを気にしてください」
「まぁ・・・右子さん、ですから・・・」
「ん・・・それが姉さん」
「え?・・・それどういう・・・」
「ふふ・・・右子は怪我人なんだから無理しないで良いのよ」
綾乃様までそんな・・・はぐらかされたようで、なんだか釈然としない。
そんなこんなで、私は碌に役割を与えられないまま時間は流れ・・・姫祭の幕は上がったのだった。
「走らないでくださーい、歩いてー」
入場した誰かがスタートダッシュしたのか、遠くからそんな声が聞こえてくる。
いつお客さんが来ても良いように接客チームが身構え、礼司さまがお湯の温度をチェックする。
私は1人、キッチンブースの手前あたりでのんびりと周囲を眺め・・・最初のお客さんが駆けこんで来るのを目撃した。
「え・・・」
続いてもう1人・・・その次は走ってはいないものの競歩のような歩行速度でやってきた。
更に2人3人4人・・・その後からは人が波のように・・・
「えええええええ!」
「先頭はこちら、2列でお願いします!」
「ここで列が曲がりますっす、この線に沿ってくださいっす」
「最後尾はこちらでーす!」
・・・あっという間だった。
100人くらいだろうか・・・入場後数分で大きな行列が出来上がっていた。
もうここからは最後尾が見えない。
「注文入ります、1番テーブルにAが2つ」
「2番テーブル、A1つとB1つです」
「3番にA3つよ」
次々に注文が入る・・・礼司さまは・・・手際よく紅茶を淹れている、1人で問題ないだろう。
左子達は・・・楓さんが少し危ういけど、左子は早いね。
なら私は・・・トレーに食器を並べ、礼司さまの淹れた紅茶を乗せていく・・・1番にA2つっと。
あ、15番テーブルの配膳分がまだ・・・私が運ばなきゃ。
私には碌に役割がない、どころではなかった・・・あちこち手が足りてない、忙しい。
でもある程度の混雑を想定してメニューの種類を絞っていたのが幸いした。
30席あった客席はすぐに埋まり、注文されたメニューも滞る事無く提供されて・・・
「ふぅ・・・なんとかなった」
ほっと息をついたのもつかの間・・・30分の時間制限は30分毎に来客の波をもたらしたのだ。
「ひぇぇ・・・」
帰ったお客さんの食器を片づけ、新たなお客さんの注文を処理する。
これは想定以上の忙しさだ、忙しくて目が回る・・・や、本当に目が回りそうだよ。
でもたくさん並んでいた行列が少しずつ減って・・・最後尾が見えてきた。
この忙しさももう少しで終わりが来る・・・そう思うと、ちょっと頑張れるような気がしてきた。
忙しい時間はあっという間に流れていき・・・その時は来た。
「二階堂さん、そろそろホールに移動してもらうわ、抜けられる?」
「は、はい!」
綾乃様を迎えに来たのは静香先生だった。
予定されている時間よりも早いけど・・・準備等が色々あるのだろう。
綾乃様が選ばれるだろう事は皆察していても、当人にも直前まで知らせないという・・・ちょっと不便な制度なのだ。
「やっぱり二階堂さんかぁ・・・先に言っておくね、おめでとう」
「葵さん・・・ありがとう・・・でもこの状況は・・・」
葵ちゃんにお礼を言う綾乃様だけど・・・混雑状況に躊躇いを隠せない。
ここで主力の綾乃様が抜けてしまうのは確かに厳しいものがある・・・でも・・・
「大丈夫、ここは私達がなんとかするよ」
「主演が行かなくてどうするんですか!私達の事は気にせず行ってください!」
「え、ええ・・・」
皆に押し出されるようにして、綾乃様がブースの外へ・・・
私も綾乃様を見送・・・
「三本木さん、貴女もよ・・・一緒に来て貰える?」
「え・・・なんで私?・・・」
「あ、あの・・・その車椅子関係じゃないでしょうか・・・先に入場した方が安全・・・みたいな」
「ああ・・・なるほど」
私の感じた疑問を楓さんが解決してくれた。
たしかにそれは心配していた事だ・・・でも今ここを抜けるのは抵抗が・・・
「行ってください・・・私も慣れてきましたので、やれます」
「ん・・・姉さんの分も・・・がんばる」
「や、そんな根性論でどうにかなる事じゃ・・・」
「もう列も片付いたので、俺達も手伝いますよ」
「あと少しっすけどね、任せてくださいっす」
おお・・・霧人くん達が代わりに入ってくれるのか。
じゃあ・・・お言葉に甘えちゃおうかな。
「ありがとう・・・皆がんばって」
「はい・・・右子さんもがんばってください」
「?」
なんか楓さんが意味深な表情を浮かべて・・・がんばるって何を・・・
「ほらはやく、急いで・・・」
「は、はい!」
静香先生に急かされてしまった・・・仕方ない。
2人の後を追ってホールへ向かう・・・そのまま関係者用の入口を通って楽屋の方へ・・・
楽屋の1つに綾乃様の名前が張ってあるのが見えた・・・ここでドレスに着替えたりするのかな。
「あ、じゃあ私はこれで・・・」
「何を言ってるの? 三本木さんも一緒に入って」
「え・・・」
静香先生に車椅子を押される形で、綾乃様の名前が張られた楽屋の中に・・・
そこに待っていたのは予想通りと言うか・・・先代様こと六郷玲香さまだ。
その身に纏っているのは当時の・・・7年前の『Monumental Princess』のドレスだろうか?
「ありがとう静香・・・さぁ、2人はこちらへ」
「・・・」
緊張した面持ちで綾乃様が歩みを進める。
私も一応・・・車椅子を進めた。
「あ、あの・・・なんで私までここに呼ばれているんですか?これってアレですよね・・・もにゅ」
・・・私はその言葉の続きを言うことが出来なかった。
六郷玲香の手には『Monumental Princess』の証たる宝冠・・・それが2つに・・・2つ?!
いや、よく見ると宝冠が2つに増えたわけではなかった。
1つの宝冠だったものが2つに分けられて・・・新たな意匠にアレンジされている。
これらの意味する事は・・・
「おめでとう・・・貴女達2人は『Monumental Princess』に選ばれました、これから先代として・・・」
「うぇえええええ?!」
「三本木さん!大声を出さないで」
「は、はい・・・ごめんなさい・・・」
静香先生に怒られてしまった・・・でも私が大きな声を出してしまったのも仕方ないよね?
「驚くのも無理はありません・・・同時に2人が『Monumental Princess』に選ばれるのは、この学園の歴史でも初めての事ですもの」
玲香さまが不敵に微笑む・・・先代として、彼女はこの状況をどう思っているのか。
なんとなく・・・歓迎しているような・・・面白がっているような気がした。
「2人には、これからお披露目の式典に出て貰います・・・この宝冠の受け渡しはステージ上で・・・その車椅子からは降りれますか?」
「ええと・・・10mまでならリハビリで歩けました・・・それ以上はちょっと・・・」
「わかりました、関係各所に伝えておきます」
「あ・・・ありがとうございます」
玲香さまに問われるままに答える・・・もう頭は真っ白だ。
本当に私が『Monumental Princess』に?2人同時・・・綾乃様と同点という事?でも確か票数は綾乃様が断トツで・・・
「まずは着替えて貰おうかしら、それぞれ専用のドレスが用意されているわ、静香は三本木さんを彼女の部屋に」
「はい」
静香先生に車椅子を押して貰って、隣の楽屋へ。
三本木右子・・・確かに私の名前が貼ってあった。
「静香先生・・・本当に私も選ばれたんですか?」
「信じられない気持ちはわかるわ・・・私もまさかあんな事になるとは思わなかったもの」
何かを思い出して静香先生が微笑を浮かべる。
あんな事っていったいどんな・・・まぁ、相当な番狂わせが起きた事だけは確かだろう。
楽屋に入ると、ドレスの着付けの為だろうか・・・数名のスタッフが待ち構えていた。
明らかに日本人じゃない見た目の人が何名か混ざっている・・・なんか国際色豊かだ。
「『IZAYOI』第2チーフのエリンデ・アハトールです、このドレスの担当をさせていただいております」
赤毛の外国人スタッフが自己紹介してきた・・・流暢な日本語だ。
それから彼女はスラスラとドレスのコンセプトや拘りのポイントを解説してくれた。
・・・ぜんぜん頭に入ってこなかったけど。
「これから着付けをします・・・どうぞそのまま車椅子に・・・」
「え、降りなくて良いの?」
「はい、極力車椅子から降りずに着れるようにデザインしておりますので、ご安心ください」
実際彼女の言葉に嘘はなく・・・車椅子から一度も下りずに着付けは完了した。
ファッションの事はよくわからないけど・・・なんかパーツ数が多いというか・・・自分がプラモデルになったような気分を味わったよ。
「このドレスは『Monumental Princess』の副賞として三本木さんにプレゼントされますので、式典以降はご自由に着用ください」
「ご、ご自由にって言われても・・・」
どうやって着せてもらったのかとか覚えてないんですけど・・・
こんな複雑なドレス、一度脱いだら二度と着れる気がしない。
「着付けマニュアルも差し上げますので、ご参考ください」
「ま、まにゅある・・・」
マニュアル・・・なんか週刊誌くらいの本が用意されていた。
そっか、これがあれば大丈夫だね!・・・って、やっぱり無理だと思うよ?
ドレスに着替えた私は、再び綾乃様の楽屋へ。
お披露目の式典の流れとか色々と説明があるらしい。
幸いな事に車椅子の私は色々と配慮してもらえるそうで、綾乃様よりもやる事が少な・・・うわぁ。
「綾乃様・・・綺麗です」
あまりの美しさに私の語彙力が音の壁を越えて吹き飛んでいく。
や、もうちょっと気の利いた事が言えないのか私。
綾乃様の為だけに仕立てられたドレス・・・それは舞い降りた雪のように純白で・・・
透明感の生地が何層も連なり、綾乃様の整ったボディラインを浮かび上がらせつつ・・・
ああ・・・無理だ、今の綾乃様を前にしては何を言っても安っぽく聞こえてしまう。
「ありがとう・・・右子もすごく綺麗よ」
「・・・!」
えええええええ・・・この私が綺麗とかありえ・・・や、でも綾乃様の言葉を疑うのも・・・
いやいやいやいや・・・ああ、綾乃様、薔薇のように微笑みながらそんな・・・
ゴホン…
静香先生の咳払いが、綾乃様に見蕩れていた私を現実へと引き戻した。
「・・・説明を始めても良いかしら?」
「は、はい・・・」
お披露目の式典___
それは選ばれた『Monumental Princess』の発表と、先代からの宝冠の授与に始まる。
特設ステージはファッションショーのように大きく中央にせり出しており、宝冠を頂いた『Monumental Princess』は周囲を観客に囲まれながらランウェイを進む。
『姫』をエスコートするのは好感度の最も高い攻略対象・・・2人は中央部分で優雅にダンスを披露する・・・というのがゲームでの流れだ。
「皆様お待たせいたしました・・・これより本年度『Monumental Princess』の授与式を執り行います」
満員御礼の会場内から割れんばかりの歓声が沸き上がる。
新たな『Monumental Princess』の誕生を見届けようと集まった人々の数がどれほどなのか・・・私には計り知れない。
まずは先代たる玲香様の登場。
現役時代の彼女を知るOBも多く来客しているようで、彼女を出迎えるように歓声が上がった。
「本日はお集まりいただきありがとうございます・・・皆様のおかげで今日の良き日を迎える事が出来ました」
「い、いよいよですねあやのさま」
「右子、緊張しているの?」
私達も既に舞台袖に控えている、ステージは目と鼻の先だ。
さすがにこの状況で緊張するなという方が無理がある・・・んだけど、綾乃様はさすがと言うか、いつも通りの表情を浮かべて・・・
「はい・・・綾乃様はすごいですね、まるで緊張なんてしていないみたいに・・・」
「ふふっ、そんな事ないわ・・・ほら」
「!!」
そう言って綾乃様は私の手を取ると、自分の胸に押し当てた。
ドクンドクン・・・伝わってくるその鼓動は綾乃様のものか、それとも自分自身か。
今の私には区別がつかない・・・きっと両方なんじゃないだろうか。
綾乃様から伝わってくる鼓動に合わせるかのように、私の鼓動も大きく・・・
「ね?・・・私もすごく緊張しているのよ」
「・・・」
このまま心臓が爆発してしまいそうだ・・・綾乃様に返事をする事も出来ない。
あああ綾乃様ってば、こんな大事な時になんてことを・・・
「だからね、右子・・・お願い」
「あ・・・綾乃様・・・?」
「ちゃんと私の隣にいて・・・いつものように、私の隣に」
そう言って綾乃様が手を放した。
その横顔は今まで見たどの綾乃様よりも美しく・・・私の心を惹きつけて・・・
「・・・はい」
・・・気付けば緊張は収まっていた。
そこにあるのは不思議な感覚・・・今ここに、綾乃様の隣にいられる自分が何よりも誇らしく感じられて・・・
そうだ、ここは綾乃様の為のステージだ・・・そして私は・・・
「私は・・・いつも貴女の右側に」
そして私達はステージに上がった。
ステージに現れた候補者が2人である事に驚きの声が上がる。
いったいどちらが・・・そんな声がヒソヒソと交わされる中・・・私達は先代の前に並び、跪いた。




