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第88話「右子さんは・・・嘘をついている?」

一年葵、184票(+50)

二階堂綾乃グレース、172票(+115)

三本木右子、185票(+35)


『悪者になって嫌われる作戦』の効果が表れるのには時間差があったらしい。

ある時期から私の票の伸びはピタリと止まっていた。

勢いよく見えた序盤の票も、今思えば・・・透さまに釣られて票を入れていた生徒だけだったのかも知れない。


逆に綾乃様は大きく票を伸ばしていた。

悪い従者の裏切りに遭った悲劇の令嬢として同情する声が多い・・・これは私の作戦通り。

それに加えて、裏切った私を庇うような発言を各所で繰り返しているらしく・・・その優しさも評価されているようだ。


結果として現在の票数に大きな差はなく、ほぼ横並び・・・もう少しで綾乃様が逆転するだろう。

・・・残る問題は、100票の権限を持つ選定者がまだどこかにいる可能性があるという事。

候補者の票数が拮抗してきた今だからこそ、選定者の100票は勝敗を左右するだろう。



暦の上では今はもう10月の10日。

10の数字が2つ並ぶこの日に開催される体育祭は、例年とは異なるルールが適用されていた。


『選手宣誓、紅組代表、二階堂綾乃グレース』

「はい」


真っ赤なハチマキをリボンのように結んだ綾乃様が壇上に上る。

続いて呼ばれたのは白組の代表、葵ちゃん。

そして・・・


『青組代表、三本木右子』

「はい」


私の頭には今回の為だけに用意された青いハチマキ。

『Monumental Princess』候補者を各組代表に据えた特殊ルールだ。

候補者が3名いる今回は、紅白青の3色に組が分かれている。


先に壇上で待つ2人はどちらも私の方を見つめてくる。

そんな2人と私は視線を合わせられず、明後日の方向を見る・・・明後日の方向というのは・・・まぁ斜め上とかそんな所だ。


・・・結局あの日以降、私はどちらとも話せていない。


「「「宣誓、私達はスポーツマンシップに則り・・・」」」


壇上の3人で同時に宣誓を行う・・・こうして合わせたのが初めてとは思えないくらいに声が綺麗に揃った。

ひょっとしたら2人は事前に練習してたのかも知れないけど・・・私は声が震えるのを抑えるのでいっぱいいっぱいだよ。

なんとか無事に宣誓を終えた私は、2人から逃げるように壇を降りていく。


「右子ちゃん」


と・・・そんな私の背に声を掛けてきたのは葵ちゃんだ。

さすがはチート主人公、背中越しでも闘志というか気合みたいなのがびりびり伝わってくる。


「・・・負けないよ、絶対に」


ひぇぇ・・・きっと葵ちゃんは本気なんだろう。

正直スポーツで彼女に勝てる気がしない、運動神経が違い過ぎる。

それは綾乃様でも大差はなく・・・この体育祭は葵ちゃんの独壇場になるだろう事は想像に難くない。


「・・・」

「!」


葵ちゃんには言葉を返さず、私は肩をすくめて見せる・・・こっちはやる気ないよのアピール。

すかさず背後から感じる圧が増した・・・挑発にはなったようだ。

綾乃様の勝率を上げる為には、なるべく葵ちゃんにはこっちを意識させた方が良いはず。


この体育祭の結果が投票に影響するかと言うと、実はそんなに影響しない。

一応ゲームでは好感度を上げるラストチャンスみたいなイベントだけど・・・この頃には勝敗は決している事が殆どだ。

勝った時に増える好感度の量も逆転を期待できる量ではなく・・・なんというか消化試合感があった。


でも今はゲームと違う要素がある・・・『選定者』の存在だ。

何人いるのか知らないけど、きっとどこかでこの体育祭を見ているに違いない。

選手としての活躍か、チームを勝利に導く事か・・・あるいはその両方か。

この体育祭の結果が、まだ見ぬ選定者の評価基準となる可能性は極めて高い。

だから私は・・・



「「白組~ファイト~!」」


葵ちゃんを中心に白組の生徒達が気合を入れる。

その輪の中には案の定、バスケ部のエースである九谷要さまの姿があった。

病気の件があるとはいえ、葵ちゃんのサポートの甲斐あって試合には出れているそうだし、決して侮れない戦力だ。


「その、紅組の皆さん・・・あまり無理をしないように・・・」

「無理をしないというのは当然だ・・・この俺がいるのだからな、勝つべくして勝つぞ」

「いえ・・・その・・・」


葵ちゃんと対照的に、消極的な姿勢の綾乃様だけど・・・その隣には流也さまが。

なんか本人やる気みたいだし、これは期待出来そうだ。

霧人くん達も紅組に振り分けられたようで・・・やっぱり綾乃様は持ってるね。


そして我が青組はと言うと・・・こちらもそれなりに戦力がある。

バスケ部からキャプテンの六道くんに万田くん・・・ある程度は公平になるように、運動部員は均等に振り分けられているんだろう。

そして私の支持を公言した事で知られる透さま・・・正直信用できない所があるけど。

女子は左子がいてくれるのが心強い、戦力としても期待出来るし。


「あの・・・右子さん」

「どうしたの?楓さん」


楓さんも青組だった。

彼女も紅茶研の一員なので、私としては気まずいものがあるんだけど・・・

楓さんの方はあまり気にしていないのか、むしろ私の事を心配してくれているようにも見える。


「今年は、二人三脚出ないんですね」

「ああ、それね・・・」


去年の体育祭で印象に残っているんだろう。

私と左子の双子パワーが発揮される二人三脚は私の持つ数少ない・・・おそらく唯一のチート能力だ。

左子と一緒に出れば、まず間違いなく勝利が約束されるだろう・・・でも・・・


「まぁ、なんて言うか・・・圧倒的過ぎてつまらないじゃない?勝負にもならないって言うか・・・」

「・・・そう、なんですね」


楓さんはいつになく真剣な表情で、じっと私の事を見ている。

適当な事を言って誤魔化そうとしている間も、楓さんはじっと私を・・・

なんだか全てを見透かされているような・・・ひょっとして気付いて・・・いやいや、楓さんとは今年知り合ったばかりだし・・・


「ごめんなさい、私・・・足を引っ張ってしまうかも知れません」


楓さんはそう言うと頭を下げた。

なんだ、そういう事か・・・楓さんは運動苦手だもんね、気にしてたのか。

そういえば去年は成美さんが同じ悩みを持っていたっけ。


「大丈夫、全然問題ないよ、私は勝つ事には執着してないからね」


うん、『私が』勝つ事にはね。

確かに楓さんは体育祭の戦力としては頼りないけど、運動苦手勢に強制する事なんてない。


「楓さんは気負わず、体育祭の雰囲気を楽しむと良いんじゃないかな」

「はい・・・ありがとうございます」


・・・楓さんには適当に答えたけど、私が今回二人三脚に出ない理由は別にある。

この体育祭では1人1種目しか出られないという制限があるからだ。

普通に勝つ事が目的なら、それを二人三脚に使って構わないんだけど・・・


不意に私の視界にふわりと舞い落ちるものが映った。

それは折り紙で作られた紙風船・・・体育祭の飾りつけで使われた物が余ったのだろう。

いったい誰がここにこんなものを・・・という体で、私はそれを拾い上げた。


「・・・ありがとう、成美さん」


探すと、赤いハチマキを付けた後ろ姿はすぐに見つかった。

わざわざこんな方法を使うなんて・・・成美さんらしい。

広げた折り紙の内側には、とある種目名と数字が記されていた。


「駅伝の5番・・・アンカーか」


駅伝・・・箱根駅伝で有名なリレーの長距離版だ。

箱根と言えば校外学習の記憶が新しい。

あの校外学習が生徒達に好評だったので、ノリと勢いで追加された種目だと聞いた。

ちなみに私達は箱根の代わりに鎌倉を目指して走る・・・あそこはあそこで中々の山道だ。


「うぇぇ・・・疲れるんだろうなぁ・・・」


アンカーである第5走者は源氏山公園の辺りから弁財天前の坂を下って鎌倉駅を目指す。

距離が長い代わりに下り坂が多いコースだ。

坂を下った後は大通りに出るので・・・勝負をかける場所は・・・


「駅伝のー!受付ってー!どーこですかー?!」


場所がわからないフリをして、わざと白組に、葵ちゃんに聞こえるように・・・

さっきの葵ちゃんの様子なら飛びついて来るはず・・・あ、いたいた。

こっち見てる葵ちゃんに向かって、私は宣戦布告をする。


「駅伝は私率いる青組の最強チームで圧勝する予定だから、邪魔しないでね?」

「!!」


ついでにウインク、葵ちゃんは面白い程素直に反応して、その顔を怒りに染める。

よしよし、白組の精鋭を集めると良いよ。

ああ、そうそう・・・


「ちなみに私の順番は1番だからね?真似っこしないでね?」


1番最後・・・うん、嘘じゃないぞ。

あの葵ちゃんがそこまで引っ掛かってくれるかはわからないけど・・・さて、どうなるかな。

本当の順番が書かれた用紙は見えないように気を付けて・・・私は受付を済ませた。

よし、左子の応援をしに行こう・・・たしかパン食い競争は・・・





「やっぱり右子さんは・・・嘘をついている?」


楓の中でその疑惑はもうすっかり確信になっていた。

本人の言う通り、この体育祭で右子は勝ちに拘っていない・・・でも確実に白組を狙いに行っているのは感じられた。

青組が勝つ事に拘らず、しかし白組を勝たせない・・・それらから導き出される結論は1つだ。

それに楓にはもうひとつ、気になっているものがある・・・おそらくそれも右子の行動と関係があり・・・


その足は自然と、ある場所に向かっていた。

体育祭で生徒も教員も忙しく動き回っている最中・・・その人物だけは動く事はなく・・・

あてもなく理事棟を彷徨った彼女は、人の気配のあったその部屋の扉を叩いた。


「・・・失礼します」

「あら、こんな時に・・・どちら様かしら?」

「私です・・・東六郷楓です・・・六郷本家の玲香様・・・ですよね?」


うっすらと残る、幼い頃に出会った記憶。

か細いその糸を手繰り寄せ、楓は数年ぶりの再会を果たしたのだった。

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