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第85話「・・・先代様、結構悪ですね」

「まず、貴女の辞退が認められないのは当然として・・・」


本人の意思を無視してそんな事を当然と言われても困るんだけど・・・

そんな私の不満など微塵にも介さず、『先代』六郷玲香は言葉を続けた。


「もし仮に貴女の辞退を認めたとしても・・・二階堂綾乃グレースが『Monumental Princess』に選ばれる事はないわ」

「その時は葵ちゃんが勝つと言うんですか?!選定者とかいうのがいるみたいだけど、たった100票の差くらい、綾乃様なら・・・」

「もちろん、一年葵が『Monumental Princess』に選ばれる事もないわよ?」

「え・・・」


・・・この人は何を言っているんだ?

綾乃様も、葵ちゃんも・・・選ばれない?


「貴女にもわかっているのではなくて?ここで辞退を認めて貴女抜きで選定を行い、残りの候補者のどちらかが選ばれたとしても・・・」

「・・・選ばれたとしても?」

「どこかで誰かが言い出す事になる・・・『彼女の辞退がなければ選ばれなかっただろう』・・・と」

「?!」


いやいやいや、さすがにそれは・・・私が候補者に選ばれてる方がおかしいんだけど・・・

これは元から綾乃様と葵ちゃんの勝負のはずなんだよ?

だいたいチート庶民の葵ちゃんならともかく、私なんかが綾乃様と勝負になるわけが・・・


「当然よね・・・現時点で100票を持ち、学園内で影響力を持つ十六夜透が支持を明言している・・・なんなら斎京流也や、四十院礼司、千代丸霧人・・・層々たる面々と交流を持っているそうよね?」

「・・・」


そ、それは確かに・・・透さまのアレはいつもの気まぐれだろうけど、攻略対象達と交流があるのは事実・・・

あくまでもメインは綾乃様、のはず・・・なんだけど・・・改めてそう言われると否定出来ないものがある。

少なくとも周囲からは・・・事情を知らない学園生徒達からはそういう風に見えても何らおかしくないのだ。


「去年の姫祭でも随分活躍したそうじゃない・・・『メイド長』と呼び慕う生徒も少なくないとか・・・そんな有力候補が辞退して誰が選ばれるというの?・・・この姫の冠は棚ボタで頭上に頂けるほど安くはないのよ」

「う・・・」


確かに・・・学園の象徴である『姫』に完璧を求める理事会の事だ、後からケチが付くような選定が認められないのは想像に難くない。

でも、だからってこんな・・・


「貴女がどうしても辞退すると言うのなら、残念だけれど今年の『Monumental Princess』は該当者なし・・・選挙も即刻中止します・・・それでも良いと言うのなら構わないけれど・・・」

「それは・・・良く・・・ないです・・・」

「そうよね、ならこのまま候補者として戦いなさい」


うぅ・・・私の辞退がそのまま綾乃様のチャンスを潰してしまうとは・・・

この先代の言う通りに、私も候補者の1人にならないといけないのか。

でもそうなると・・・嫌な予感、いやもう最悪の事態が一瞬で想像出来てしまった。


本来なら綾乃様に入るはずだった票が、私に流れて・・・

それは些細な数かも知れない・・・けど、その分が勝敗を左右する可能性だってあるのだ。


「・・・貴女は、自分が選ばようとは思わないの?」

「当然です、私が選ばれたって・・・」

「『Monumental Princess』に選ばれた者は将来に亘って姫ヶ藤理事会が全面的に支援する・・・大学入試はもちろん、就職でも困る事はない、もし企業をするなら多額の融資だって受けられる・・・たとえ庶民であろうと・・・いえ、むしろ庶民にこそメリットは計り知れないと思うのだけど?」

「・・・」


ゲームのストーリーにあまり絡んでこなかったから失念していたけど、そういう設定だったね。

庶民の葵ちゃんからしたら人生大逆転ものの大勝負だ。

そしてそれは私にとっても同じ事で・・・


「貴女は自分の進路を考えた事はある?このまま二階堂家の使用人?ゆくゆくは本物のメイド長かしら?」


それは・・・考えなかったわけじゃない。

ただ漠然と、綾乃様と一緒に居られるならそれも良いかな・・・って。

メイド長なんて皆から言われて、その気になったりもした・・・いつかは本当に・・・って。


「もっと視野を広く持ちなさい、三本木右子・・・貴女は使用人で終わるような存在ではないわ、貴女はもっと大きな存在になれる・・・主を超える事だって不可能じゃない、貴女の人生には無限の可能性が広がっているのよ」


熱く語る六郷玲香に悪意は感じられない・・・本気で私に才能か何かを感じているのだろうか。

私には才能も何もない・・・それは前世でよくわかっている、ただの引き籠りゲーマーがお似合いなんだ。

今の私にもし何かがあるとするならば、きっとそれは・・・綾乃様の・・・ああそうだ、何を迷う必要があるものか。


「・・・いけませんか?」

「?・・・貴女、何を・・・」

「その可能性とかいうものの中から、二階堂家の使用人で終わる人生を選ぶ・・・それがいけない事ですか?」

「な・・・」


六郷玲香の表情が驚愕に歪む・・・『Monumental Princess』に選ばれた成功者である彼女からしたら考えられない選択なんだろう。

たぶんあちらの言い分は正しい、私だって最初は悪役令嬢の使用人という人生に嘆いた時があった。

そうだ、私はもう『選んでいる』・・・あの時、綾乃様を勝たせると決めた時に。


「私は綾乃様の忠実なる従者・・・他ならぬ私がそう生きると決めたんです、この先、何があろうとも」

「貴女は本当に・・・それで良いの?」

「私は誰よりも素敵な綾乃様の一番の従者、未来のメイド長様ですよ?これ以上の仕事なんて存在しないです」


今なら胸を張ってそう言える・・・あ、でも千場須さんみたいにならないといけないのか・・・き、きっといつかは・・・


「・・・そう」


私の返答に六郷玲香は肩を落とし・・・がっかりさせてしまったかな、ご期待には沿えなくて申し訳ない。

でも私の意志は曲がらないぞっと、まっすぐ睨みつける・・・なんか心にも余裕が出てきた。

もう相手が先代だろうが怖くな・・・って、なんか彼女の様子がおかしい、小刻みに震えて・・・


「ふふっ・・・あはは・・・」

「へ?」


突然お腹を押さえて笑い出してしまった・・・何が彼女の笑いのツボを刺激したのだろうか。


「そう、そうなのね・・・本当に・・・貴女は・・・ふふふっ」


いったい彼女の中で何が起きているのか・・・とりあえず落ち着くまで待とうか。

でも、こうして笑っている彼女はどこか綾乃様に似て・・・いやいや、綾乃様はもっと素敵ですし。


「ごめんなさい、私はもうこれ以上は言わないわ、きっと貴女はその意志を貫くのでしょう」

「ええ、まぁ・・・言われなくてもそのつもりですけど・・・」

「でも貴女の辞退を認められない事に変わりはないわ、あくまで候補者の1人という立場のままで、主を勝たせなさい」

「え・・・」


・・・なんかいきなり態度が軟化したと思えば、無茶苦茶な事を言ってくる。

いったいこの人は私に何をしろと言うんだ・・・

呆気にとられる私に、先代はまるで悪役令嬢のような顔になり・・・耳打ちしてきた。


「自分の票を減らして綾乃グレースの票を増やす・・・それならそれで身の振り方があるでしょう?たとえば・・・」

「・・・なるほど」


そういう手があったか・・・あんまりスマートな方法ではないけど、背に腹は代えられない。


「・・・先代様、結構悪ですね」

「いえいえ、貴女には敵いませんわ」

「・・・」


ひょっとしたら前世の私と世代が近いのかも知れない。

妙な連帯感を先代様に感じつつ、私は理事棟を後にした。



現時点で葵ちゃんの票数は100票・・・ここに要さま(の影響下にある運動部関連)の票が100票入るのは確定と見ていい、合計で200票だ。

そして私も100票・・・に透さまの分が加わって200票、更に流也さま、礼司さま、霧人くんの票が流れかねない状況。

対して、綾乃様は0票・・・勝たせるには攻略対象3人の票を漏れなく綾乃様に集中させないといけない。


辞退という手段が失われた今、私に出来る事は・・・


「右子、心配したわ」


紅茶研の部室の扉を開けた私に、心配そうな表情を浮かべて綾乃様が駆け寄ってくる。

その後ろには左子、葵ちゃん、礼司さまに霧人くん、ライトとレフト、楓さん、恵理子さん・・・ようやく謎解きをクリアしたのか比瑪乃の姿もあった。

・・・主なターゲットは勢揃いか、都合が良い。


「それで右子・・・」

「随分時間が掛かったみたいだけど、アンタが候補者とか手違いよね?」


言い出しにくそうな綾乃様に割り込んで、比瑪乃がはっきりと質問を口にした。

他の面々も気になって仕方ないのだろう、黙って私に注目している。

さぁ・・・気合を入れて、がんばるぞ。


「ええと・・・このたび私、三本木右子は『Monumental Princess』候補者に選ばれました」

「えっ・・・右子?」

「まさか本当に・・・」


軽く固まる綾乃様を始め、皆驚きを隠せない・・・それはそうだろう。

私だって信じられなかったんだもの・・・こんな事になるなんてね。


「そうか・・・複雑な立場になってしまったね」

「複雑?何を言っているんですか礼司さま?」

「え・・・」


さすが心優しいイケメン礼司さま、心配してくれるのは嬉しいんだけど・・・

今は心を鬼にして、その気遣いを・・・踏みにじる。


「私はずっと待っていたんですよ、この時が来るのを!」

「「?!」」

「み、右・・・子?」


何名かが驚愕に目を見開く・・・そう、これが先代様肝入りの悪巧み『自ら悪役を演じて綾乃様に票を流す作戦』だ。

はたして私の演技力がどこまで通用するか・・・

さすがに左子は騙せないだろうな・・・たぶん綾乃様も・・・出来れば礼司さままでは騙したいけど。


「全ては透さまが言った通り、私はこのチャンスに下剋上させていただきます!」

「アンタ・・・本気で言っているの?!お姉さまを裏切ると・・・」


一番付き合いの短い比瑪乃はすっかり騙されて、良い反応を返してくれてる。

こういう反応が返ってくるとこっちもやりやすいね、ノリノリでいくよ。


「裏切るも何も、元々私達双子は家の都合で仕方な~く従ってただけですから!」

「な・・・お姉さま、それは本当なの?」

「え、ええ・・・右子達はうちの分家で・・・」

「ん・・・私達は、小さい頃に・・・お母さんと離れ離れに・・・」

「お2人にそんな事情が・・・」


ナイスアシスト左子。

淡々とした喋り方が良い感じに説得力を感じさせてる。


「さっき先代様にも確認しました、『Monumental Princess』に選ばれれば理事会の手厚~い支援で将来は思うまま・・・我儘なお嬢様の下でへこへこ我慢するのもここまでですよ!」

「そ、そんな・・・」


脱力してその場に崩れ落ちる綾乃様・・・やっぱり綾乃様も察してくれた、迫真の演技だ。


「嘘だよね・・・右子ちゃんがそんな事するわけ・・・これはきっと・・・」


く・・・チート庶民め。

ここ最近会ってないからすんなり騙せるかと思ってたけど、見破られるか。

でも邪魔はさせない、こっちにはまだ手札があるんだ。


「葵ちゃん、校外学習の時はありがとうね、おかげで選定者しゅりしゅりから100票を得ることが出来たよ!」

「「!!」」

「右子さん・・・まさかその為に・・・」

「お、俺らを利用したって事っすか?!」

「もちろん!あの時は内心ドキドキだったよ!」


うん、しゅりしゅりとドキドキの勝負だったね・・・嘘はついてないぞ。

私の100票もたぶんしゅりしゅりで間違いないだろうし・・・他に思い当たる所がない。


「いや、それにしてはおかしい・・・このタイミングで君がそれを明かす必要はないはずだ」

「う・・・」


さすが礼司さま・・・鋭いなぁ・・・

な、何とか誤魔化さないと・・・


「・・・それはっ!もう私の勝利が確定してるからよ!透さまも支援してくれてるし、前のクラスの皆も私に投票してくれる・・・ほ、他の選定者だってもう確保してるんだからねっ!」

「な、なんて事・・・」


一部の鋭い人達と違って、すっかり信じ込んだ比瑪乃はこの世の終わりのような顔を浮かべている。

そうだ、ここは彼女を利用するしかない。

私は精一杯の悪役顔を意識する・・・かの綾乃グレースのように。


「そうそう、良い顔よ比瑪乃さん・・・今からでも私に乗り換えなさ」

「お断りよ!裏切者!」


バシッ

平手が私の頬を打つ・・・痛い・・・でもこれくらいはとっくに覚悟してる。

私は余裕の表情を精一杯作り・・・


「残念、悪い話じゃなかったのに・・・」

「うるさい!もう二度と・・・二度とその薄汚い顔をお姉さまに見せないで!」

「怖い怖い・・・じゃあ私達は先に屋敷へ戻ってますね、綾乃お嬢様」

「な・・・これだけの事をしてアンタまだ二階堂の屋敷に・・・」


まぁ普通は屋敷を出る所なんだけど・・・皆を騙すためのお芝居ですし。

でも悪役として精一杯図々しく振舞う事で整合性も取れるんだよね。


「だって・・・かわいそうな私達は他に行く場所がないんだもの・・・お優しい綾乃様は断りませんよね?」

「・・・」


無言で頷く綾乃様・・・さすがは綾乃様、しっかりわかってくれてる。

屋敷に帰ったら今後の事を色々と話しますね。


「さ、行くよ左子」

「ん・・・」


左子を連れ立って紅茶研を後にする。

もうこれ以上ここに居たらボロがボロボロと溢れ出るに違いない。


「み、見損なったぞ、右子さん・・・」


背後から霧人くんの悲痛な声が聞こえた、けど振り返りはしない。

攻略対象の中でも彼が一番私に票を入れそうだからね・・・ここで切り捨てて貰わないと・・・

足早に校門をくぐり、千場須さんの車へと。


「私達だけ先に屋敷に帰る事になりました、お願いします」

「・・・」


そう言うと千場須さんは何も言わずに車を出してくれた。


「・・・姉さん」


珍しく私の隣に座る左子が話しかけてくる。

本当に左子には助けられたよ、一度ちゃんと説明しないといけないね。

でも今は・・・


「ごめん、さすがに疲れたよ・・・屋敷に戻ったら・・・話・・・」

「何があっても・・・私は・・・姉さんの味・・・」


左子が何か言ってるけど、襲い来る睡魔に勝てそうもない。

本当に今日は色々あったな・・・


その後、自室で目を覚ました私に知らされたのは・・・

今後、綾乃様は別邸で過ごす・・・と言う話だった。


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