第82話((今日が最後のみーちゃんかしら)
カードが配られ、各々の駒を初期配置のポイントに置いていく。
私の初期配置は箱根湯本駅・・・から1マス分離れた場所だった。
「う・・・」
初期配置カードを見て渋い表情を浮かべた霧人くんの初期配置はマップ左上隅の御殿場・・・結構厳しい位置だ。
ライトは強羅から2マス程上、レフトは桃源台から1マス地点・・・見た感じマップの北側に偏っている気がする。
そして楓さんは小田原駅・・・マップの右端だが交通手段には恵まれている分、御殿場よりはマシだろう。
「うんうん、ポリスメンの配置はこんな感じか~なるほどね~」
にやにやと余裕の笑みを浮かべながら、しゅりしゅりが盤面を眺めている。
私達同様に怪盗のしゅりしゅりも初期配置カードによってランダムに配置される・・・が怪盗駒は盤面に置かれない。
怪盗の位置を知っているのは本人だけだ・・・なんとなく空いている南側のどこかの気がするけど・・・
「最初はサクッと進めちゃおうか」
そう言うなりしゅりしゅりは専用シートに移動先を書き込んだ。
判断に迷いがない・・・何か作戦があるのか、それとも・・・行先が限られるような初期配置なのか。
書き込みが終わると、見えないように上に乗り物カードを置き・・・乗り物が見えないように手で隠した。
「さぁ、刑事諸君も移動したまえ、まだ迷うような場面じゃないだろう?」
自分の分はもう終わったからと私達を急かしてくる。
まぁ、たしかに最初のターンはノーヒントなので、次に備えて駅への移動がセオリーなんだけど・・・
怪盗VSロス市警は3種の乗り物カードを使って移動する。
ひとつ目はタクシー、最も移動距離が短いが小回りが利くので入り組んだ路地にも入り込める。
ふたつ目はバス、中くらいの移動能力でタクシー用のマスを何マスか飛ばして移動する事が出来る。
みっつ目がメトロ、1回でかなりの距離を移動できるがカード枚数が少なく、停車駅も限られる。
この箱根版では、タクシーが徒歩、登山道を使えるという扱いで・・・メトロのカードで電車とロープウェイが使える、バスはそのままだ。
ちなみに刑事はカード枚数の制限があるのに対して怪盗は無制限だ、加えて専用の特殊能力カードまで持っている。
霧人くんも迷いなく書き込みを終えていた・・・使用カードはバス・・・御殿場からだとそれ以外の選択肢はないようなものだしね。
ライトはセオリー通り強羅へ1マス、レフトも桃源台に移動するようだ。
私も箱根湯本へ向かうべきだけど・・・小田原に楓さんがいるんだよね。
楓さんの移動先が箱根湯本だと同じマスになってしまう。
「か・・・もみじさん、箱根湯本に来る?や、別に同じマスでもルール上は問題なかったはずだけど・・・」
「ええと・・・南側が気になるので、右子さんは元箱根方面に移動して貰えますか?」
なるほど、楓さんも怪盗の初期配置は南側と予想しているらしい。
違ったとしても怪盗の逃走方向になる可能性を考えると、誰か1人は南にいた方が良いだろう。
じゃあバスで・・・と言いたいけど、バスが止まらないマスだったので徒歩でバス停に移動だ。
楓さんは・・・おや、メトロのカードを温存してバス移動か。
「全員移動したね~?じゃあ、私の移動手段を発表するよ~」
刑事達の駒が動いたのを確認してしゅりしゅりが乗り物カードを隠していた手をどける。
カードに描かれているのは・・・メトロ、電車かロープウェイだ。
「!!」
怪盗は移動先は伏せたまま毎ターン移動手段を公開する。
ここから移動経路を推理して現在位置を割り出すんだけど・・・これは・・・
「・・・プレイミスか?今ならまだやり直しても・・・」
「ん?ミスじゃないよ?本気本気・・・もう次の移動先も決まってるよ~」
霧人くんがプレイミスを確認するのも無理はない、この箱根マップにおいて駅は5つしかないのだ。
そのうち楓さんのいた小田原は除外、レフトの移動先の桃源台も除外、楓さんと私の移動先候補になる箱根湯本も考えにくい。
となると、残るは強羅と早雲山の2カ所にまで絞り込める・・・序盤にこれは結構致命的では?
「ライトはそのまま強羅へ、レフトはロープウェイで早雲山、詰めるぞ」
「はいっす!」
刑事駒の位置も近い、活気づく霧人くん達。
「ええと・・・私は・・・やっぱり箱根湯本に戻るべきかな」
「何か嫌な感じがします・・・そのまま元箱根方向に向かってください」
「え・・・良いの?」
「どのみち箱根湯本には私が行くので・・・」
それもそうか・・・
楓さんが自分の駒を箱根湯本に移動させるのを確認して、私1人だけ皆と違う方向へ駒を動かした。
しゅりしゅりが早雲山にいた場合は登山道で南下する可能性が残ってるし、無駄な手ではないはず・・・
そして迎えた3ターン目・・・このターン怪盗は自己顕示欲によって姿を現すルールだ。
しゅりしゅりが怪盗駒を手に取り、盤面に置く・・・その現在位置は・・・
「は・こ・ね・え~ん!」
「!!」
怪盗駒が置かれたのは早雲山付近でも強羅付近でもなく・・・芦ノ湖の真ん中あたりの湖畔にある箱根園マスだった。
このマスには箱根山山頂への短いロープウェイが描かれており・・・ロープウェイ?!
「もちろん2ターン目の移動経路はロープウェイ!うぇ~い!」
怪盗の専用シートに置かれた乗り物カードは2回連続でメトロ。
初期配置の箱根園から登山用ロープウェイで・・・往復したってこと?!
「ふっふっふ・・・まんまとひっかかったようだね刑事諸君」
「く・・・」
勝ち誇ったように微笑むしゅりしゅり。
でもやっぱり初期配置は南側だったんだね・・・私と楓さんの予想は当たってたみたいだ。
っていうか・・・今の私の位置って・・・
「あれ、このまま私が元箱根押さえたら逃走経路なくならない?」
「え・・・」
箱根園の南には箱根神社と元箱根港のマスがあり、このどちらかを通らないと東側に抜けることが出来ないようになっている。
そして北側も桃源台を通らないと東方向に出られない・・・つまり・・・
「ナイスみーちゃんさん!」
「よし、レフトは桃源台、ライトは念のため登山道を押さえろ!」
あっという間に私達はしゅりしゅりを南北から挟み込む形になった。
箱根神社へと駒を進めた私は、ここから元箱根港と往復・・・これで東側への逃走を防げるはず。
その間に北側からレフトが芦ノ湖を南下する・・・これで怪盗しゅりしゅりは袋の鼠だ。
しかし・・・
「この私をここまで追い詰めるとわ・・・さすがだよ刑事諸君・・・ここで特殊能力発動っ!」
そう宣言して、しゅりしゅりは手札から怪盗専用のカードを叩きつける。
『×2』と書かれたそのカードは1ターンの間だけ2マス移動出来るという効果だ。
しかもその途中に刑事がいても捕まらずにすり抜けることが出来る・・・しゅりしゅりはこの効果で包囲を突破したのだ。
「残念だったね~あでゅ~!」
私の駒をすり抜け東側へ・・・この先の逃走経路は4つもある、が・・・
登山道の1つはライトが南下している最中、強羅へのルートは霧人くんが回り込めそうだ。
残るは箱根湯本へ向かう道が2つ・・・私が通ってきたバスルートと、並行する登山道・・・しかし箱根湯本には・・・
「もみじさん!」
こうなる事を予想していたのか、先程から待機していた楓さんの駒があった。
このまま楓さんに待機してもらって、私とレフトが追いかければ、詰みだ。
「まだ特殊能力は2つ残ってる!ここで両方使うよ!」
しゅりしゅりが出したのは『?』マークの書かれたカードと、時計の書かれたカード。
『?』マークは完全隠密行動、次の自己顕示欲による現在位置発表をキャンセルし移動手段も隠すことが出来る。
そして時計のカードは制限時間を1ターン短縮する。
「これで残りは3ターン、そのまま箱根湯本で待っていたら間に合わないよ~!」
「?!」
え・・・いち、に、さん・・・本当だ、登山道に逃げ込まれたら箱根湯本側から2マス動かないと届かない。
かと言って登山道に進んだらバスルートへ逃げた場合に間に合わなくなる・・・そして『?』の効果によって、どちらへ向かったかがわかるのは手遅れになってからだ。
「さぁ、運命の二択だ~!・・・しゅりらーの皆もどっちにするかコメントよろしく~」
素早く移動先を書き終えたしゅりしゅりがコメントを見に行っている。
こういう場面でも迷わずに決められるのはすごい・・・いざ二択になるとすごい迷うよね。
「ええと・・・ちろるくんが強羅から箱根湯本に行ってカバーする、っていうのは?」
「残念だけど・・・乗り物カードが残っていない」
苦々しい顔で霧人くんが答える・・・序盤の御殿場からの移動でバスも使い切ってしまったようだ。
強羅から箱根湯本へは徒歩では5マス掛かる・・・カード枚数の限られた刑事側はこれがあるから辛い。
もう楓さんの二択に委ねるしかない・・・
「あ、あの・・・外れたらごめんなさい」
「だ、大丈夫だよ、さっきだってもみじさんの予想通りだったし・・・」
委ねられた楓さんの方も、プレッシャーに押しつぶされそうにぷるぷると震えて・・・
まさかこんな事になるとは思ってもみなかったに違いない。
「気にせずやっちゃってくださいっす、もみじさん」
「どんな罰ゲームでもばっこいですよ!」
「お前らな・・・ま、勝っても負けても恨みっこなしだ、どっちでも好きな方を選んでくれ」
「は、はい・・・」
・・・楓さんは震える手で移動先を書き込み、駒を手に取った。
そして、特殊能力によって怪盗しゅりしゅりの移動手段が伏せられたまま、もう1ターンが進む・・・
この2ターンで楓さんの駒は2マス分、登山道に進められていた・・・もう後戻りはできない。
そして最終ターン、しゅりしゅりの公開した乗り物カードはタクシー・・・登山道だ。
「残念、捕まっちゃった」
「はい、逮捕・・・です」
「あ~負けちゃった~!悔し~い!」
「「勝った!いぇーい!!」」
ハイタッチをして喜ぶ霧人くん達。
対するしゅりしゅりはまるで駄々をこねる子供のようにじたばたと・・・全身で悔しさを表現しているのだろうか。
や、これは絶妙に下着が見えないカメラアングルで・・・なんというプロ意識。
よく見るとじんわりと涙目になってる・・・目薬さした?
「さぁ約束通り、俺達が勝ったんだから言う事を聞いてもらうぞ!」
「い、いったいしゅりしゅりはこれから何をされてしまうの?!・・・え、エッチな事されちゃう?」
「しないわー!」
パコン
さすが高級ホテルのスリッパ・・・とても良い音がした。
「や、ツッコミ入れておいてアレだけど・・・ちろるくんはそんな事しないよね?」
「あ、当り前だ!・・・だ誰がそんなこと・・・」
霧人くんは顔を真っ赤にしてしまった・・・この様子ならその心配はなさそうだ。
でも、しゅりしゅりに何をさせる気なんだろう・・・やっぱり土下座とか?
「さて・・・首里城朱里亜」
「は、はい!・・・ごくり」
うわ、自分で『ごくり』って言ったよこの人・・・ひょっとしてそういうのも人気の秘訣なのか?
まぁ・・・しゅりらーには通じるんだろうけれど、私達には・・・霧人くんには通じるわけもない。
霧人くんは厳しい表情を浮かべたままだ。
「言う事を聞いてもらう前に、お前にはまず思い出して貰わないとな・・・俺達の事を・・・」
「・・・覚えてるよ、ごめんね」
「?!」
「私の配信を見て配信を始めたちろるくんでしょう?ちゃんと覚えてるよ」
しゅりしゅりの意外な返答。
すっかり意表を突かれた霧人くんは言葉に詰まってしまった。
「な、おま・・・さっきは忘れたって・・・」
「しゅりしゅりが忘れっぽくて昨日の事でも忘れちゃう、ってのは本当だよ?・・・でもそれとこれとは別」
「・・・」
「何から話せばいいかな・・・やっぱりトカキソさんのコラボ配信かな・・・」
遠い目をしながらしゅりしゅりは語る・・・去年のあの日の事を。
「ちろるくんと約束した後にコラボの話が来てね・・・一応コラボ終わってから行けるように、間に合うように時間を調整したんだよ」
「で、でもお前・・・」
「うん、行かなかったね・・・実際に配信が始まっちゃうと、時間通りに終われなくて・・・」
まぁ確かに・・・配信やってると時間を忘れるっていうのはある。
ゲストでちょっと出ただけの私だけど、時間とか意識した事ないもんな・・・
「今更何言っても言い訳にしかならないよね・・・実際トカキソさんはすごかったし、この機会に少しでも多く彼から学ばなきゃってばかり考えてた・・・しゅりらーの皆の事すら頭になかったよ・・・ごめんね」
「・・・」
しゅりしゅりに対して恨む気持ちと、同じ配信者としての理解できる気持ちと・・・
霧人くんの中にも葛藤があるのだろう・・・何とも言えない複雑な表情になっている。
「あ、あの・・・」
この雰囲気の中、楓さんが控えめに声を上げた。
「どうして、連絡を入れなかったんですか?事情を説明するとかがあれば、きっと・・・」
「そうだね・・・そうだよね・・・」
もっともな楓さんの問いかけに、しゅりしゅりはそう言いながら私の方を見つめて・・・
え・・・なんでここで私?私、何かしたっけ?・・・み、身に覚えはないぞ。
「ま、人気配信者だなんて言われて調子に乗ってても、人としては碌なもんじゃない人間だったってことだよ・・・」
投げ捨てるようにそう言い放った彼女は、とても疲れた顔をしていて・・・私達よりもずっと年上のように見えた。
そして霧人くんは無言のまま、ただその両手をぎゅっと握りしめて・・・
「さてちろるくん、私はここで君に土下座をすれば良いのかな?それとも何か罰ゲームの用意とかある?」
「・・・ふ・・・な」
「?」
「ふぜけんな!ふざけんなよ!」
激昂した霧人くんがゲーム盤をひっくり返した。
刑事の駒が飛び散り、足元に転がってくる。
このゲーム駒まで作りこまれてるんだよね、よく出来たゲームなのに・・・ってあれ・・・
「なんだよそれ・・・ど、どうせ全部嘘だろ!・・・そんな作り話で同情なんかっ!」
怒りのままに、霧人くんはしゅりしゅりに掴みかかり・・・拳を振り上げた。
しかし・・・そのまま振り下ろす事が出来ない。
宙に浮いたまま、その拳がぷるぷると震えて・・・
「嘘じゃないよ・・・私は・・・」
「いいや嘘だ!お前はそういう奴なんだ!人を騙して、裏切って・・・」
今度こそは本気とばかりに、もう一度振り上げた霧人くんの右腕を、私は掴んだ。
まだ震えているのが伝わってくる・・・認めたくないんだろう。
でも私は・・・
「たぶん嘘じゃないよ、ちろるくん・・・この人、わざと負けてるし」
「え・・・」
そう言って私は差し出した・・・
霧人くんがゲーム盤をひっくり返したおかげで見えてしまったそれを・・・
怪盗の逃走経路が書き込まれた専用シート・・・『?』カードで隠されていた経路は登山道ではなく・・・
「・・・」
「あ・・・それはバラさないでほしかったな」
しゅりしゅりが恨めしそうな視線を向けてくるけど、バレたものは仕方ない。
まさか負ける為にイカサマするなんてね。
「ならこっちはバラしても良いっすか?」
「ちろるさ~ん、見てくださいよこれ~」
そう言いながらライトとレフトが見ているのは、しゅりしゅりのPCだった。
これ以上の生配信は良くないと思って止めに行ったのかな・・・でも何を見ろって・・・
「ちょ・・・まさか・・・待っ・・・」
慌てて2人の方へ行こうとしたしゅりしゅりだったが、慌て過ぎたのか躓いて転んでしまった。
なぜかたまたま私の足がそこにあってね・・・や、お団子屋さんの時の仕返しじゃないよ?
しゅりしゅりのPCの画面を覗き込むと・・・あれ、私達が映ってる?
なんだ生配信続いてるのか・・・ってあれ、このカメラアングルは・・・ひょっとして・・・
チラッと霧人くんのカメラの方を向くと、画面の中の私がカメラ目線に・・・
「『ちろるーむ』っすよ!しゅりしゅり、生配信しながら別窓で俺らの配信見てたっす!」
「しかもちゃんねる登録まで・・・あっ、このアカウント名は常連さんの・・・」
「やめてはずかしい・・・」
しゅりしゅりは両手で顔を隠してしゃがみこんでしまった。
まじか・・・しゅりしゅりが霧人くんの配信の常連リスナーだなんて・・・
「な、なんでこんな・・・」
こればっかりは霧人くんに同意だよ。
なんでこんな事になってるの?しゅりしゅり?
「いやだって・・・私がきっかけで始めた配信とか嬉しいし、応援したいじゃん?」
「じゃんて・・・」
「あの日だって、後からちょっとだけでも参加出来ればって思ってスタジオ前まで行ったのに、なんか代わりが来てるし、楽しそうにしてるし・・・」
「えええええ・・・」
それでか・・・それでさっき私の方を・・・ええとこれってつまり・・・私が関わったせい?
「な・・・なんかごめん」
「いや、ここで謝られても・・・」
「ば、バレてしまったからには仕方ない!ちろるくん本当にごめんなさい!土下座するんでなんとか、なんとか水に・・・あ、ここ箱根なんで出来ればお湯に流してくだs・・・」
「・・・なんかどうでも良くなってきた」
プライドをかなぐり捨てて土下座をするしゅりしゅりを前に、霧人くんはかつてない程に無気力な表情で立ち尽くしていた。
((・・・それで結局2人は仲直り出来たのね?)
((ええ、まぁ・・・)
あれを仲直りと呼んで良いのか・・・疑問がなくもないけれど。
時間の都合でグダグダのまま生配信は終わり、遅くなった夕食を食べ終えた私はお風呂に入っていた。
さすがは箱根、お風呂だけでもたくさん種類があって迷ってしまう。
ちなみに今入っているのは赤ワイン風呂、むせ返るようなワインの香りがたちこめている。
((今度、改めてしゅりしゅりがゲスト出演するらしいです、何があっても絶対に来るって言ってました)
((それは楽しみね・・・右子はもう出ないのかしら?)
((えええ・・・勘弁してください)
続いて入ったのは乳白色の濁り湯・・・美肌効果があるとか美容に良さそうな事が書いてある。
これで私も少しは綾乃様みたいに・・・でも実物を前にしてるとこんなの無理って気がする。
((じゃあ今日が最後のみーちゃんかしら・・・ふふっ)
((もう・・・本当に最後だと良いんですけど・・・)
続きましては・・・おおう、硫黄の匂いがなかなか・・・
これ入る順番間違えたかな・・・あ、網に卵が入ってる・・・温泉卵だ。
自由に食べて良いやつっぽい。
((左子~、こっちおいで~、温泉卵があるよ~)
((姉さん・・・それ・・・替えたばかりだから・・・まだ生・・・)
そうなのか・・・って、なぜ左子はそれを知っている?
まぁいっか、こうして温泉に浸かってると疲れがとれるなぁ・・・
((はぁ~・・・)
((ふふっ、右子ったらおばあさんみたい)
((ちょ、綾乃様ひどい)
硫黄の匂いを落とすべく、次は選んでローズの湯。
薔薇の花がたくさん浮かんでゴージャスな雰囲気だ。
((・・・)
((どうしたの右子?)
((や、綾乃様とこのお風呂の組み合わせが思いの外ハマってて・・・やばいですね)
((??)
うん、美しい・・・芸術作品だね。
間近で見られるこの幸せを嚙み締めよう・・・
((あ、右子、星が見えるわ)
((本当だ・・・アレ覚えてますよ、冬の大さんか・・・っわ!)
星に気を取られた隙に綾乃様が左隣にぴったりくっついて・・・びっくりした。
でもこの位置は落ち着くなぁ・・・私の定位置だもんね。
((ふぅ・・・ちょっとのぼせてきたわ、右子、左子・・・支えて貰える?)
((はい、お任せを)
((ん・・・)
お湯にのぼせて赤みが差した綾乃様を左右から支えてお風呂から上がる。
のぼせてる割にはその足取りは安定して・・・私達双子が支えてるからかな。
「今日は本当にお疲れ様、今夜はよく眠るのよ?」
「はーい」
こうして箱根の夜は更けていった・・・
この翌日、箱根のロープウェイで綾乃様の悲鳴が響き渡る事になるのはまた別の話だ。
・・・や、あれは高所恐怖症じゃなくても怖いって・・・




