フォレンド領へ
今までシルフが死ぬところ、さらにはシルフの葬式を見たことがない俺は、シルフの弔いがどのような物かは知らない。
だけど、風の精霊なのだから、風を起こせば喜ぶだろうなと考えたのだ。
しかし、不思議なことにどのようにすればヴァルテン・ウィンドが使えるのか分からなくなっている。
外装を着けている時は完璧に扱えていたのに、今使えないというのはなんだかモヤモヤして妙な感覚だ。
仕方がないので、シルフ達から貰った人族用の魔法書の中から風の魔法を探して、それを使う事にした。
一度風を掴む感覚を覚えていたからか、風の魔法については内容を簡単に理解できた。
それでもヴァルテン・ウィンドを使う感覚は戻ってこない。そもそも外付けのものであり、戻るようなものでもないのだろう。
『『ウィンド・ツイスター』…みんな、姉ちゃんの言う通りに世界樹に戻っているなら、会いに行くからな。あんなことがあったんだから、ゆっくり休んでくれよ。』
ツイスターと呼ぶには小さなつむじ風を起こして、それに向かって祈ることにした。村の結界も消えたし、あまり長居はできない。
俺は2つのゲーデと剥ぎ取りナイフを入れたベルトポーチを着け、そして魔獣の皮と魔法書入れた大きめのバッグを持って、フォレンドに向かう事にした。ただ、その道の間でリンクにはいろいろと聞かなきゃいけない。
『なぁ、リンク。魔導外装とか、ゲーデってのはなんなんだ?あと、魔石をどうやってゲーデにしたんだ?』
『そうですね。まず、魔石をどうやってゲーデにしたかについては自分でも把握できてません。本能的に、といえばいいでしょうか。
私はダンジョンの中で見つけられたアーティファクトですので、自分の本当の出自もわかりません。おそらく、もともとゲーデを作成、使用するために作られたのでしょう。』
『なるほど、ゲーデにするために自分が何をしているかはわからないんだな?それでも、その力のおかげで俺は敵を討てたし、今も生きている。』
『はい。あとは、ゲーデが一体なんなのかと言うものですね。
まず、魔石には魔力が詰まっていますが、それ以外にも、もと生物の性質や特徴などの情報が詰まっています。
ゲーデとは、魔石の持つ性質や特徴などを読み取るために、魔石から余分な物を取り去った物です。』
『つまりは、俺が『ウィンド・シルフィード』を着ている間だけ使える魔法があったのも、ゲーデにその魔法に関する情報が入っていたからか。』
『そうなります。ゲーデを外している今は、その魔法を使うことができない。などがあり得ますね。』
だから、ヴァルテン・ウィンドは使えなかったのか。
一度使えば関連する魔法も覚えられる、といった事はないらしい。
『最後の質問は、魔導外装についてですか。これは、ゲーデの中に詰まった情報をもとに作った、その特性を最も活かしやすくする為の鎧です。
魔力で作り出す物なので、魔導外装を作る時には、レヒトの魔力を強制的に使わせてもらっています。
なぜ私がレヒトの魔力を使えるのかについては、体と直接繋がっている以上、その体の魔力を使う方法の解析は簡単だったから、とでも言っておきましょう。』
…知らない間に俺の魔力は解析されていたらしい。だけど、外装を作るために必要だったと言われれば仕方ない。
むしろ外装を作れたぶん、解析されてしまっていたことに感謝するべきなのだろう。
とにかく、聞きたかった魔導外装関連について、ある程度聞くことができた。
聞けてスッキリしたところで、フォレンドが見えてきたのだった。
◇
「おい、兄ちゃん。このフォレンド領に入りたいなら身分証を見せてくれ。」
門の前で止められてしまった。
しかし、俺は身分証なんて持っていない。
『すまない。持ってないんだが入るにはどうすればいい?』
「……まいったな。兄ちゃん遠い国のやつか?何言ってるかわかんないぞ…。」
あぁ、つい精霊語が出てしまった。これから人間として過ごす以上、無意識的に人語が話せるように努力しないとな。
とはいえ、精霊語が話せるやつは普通いないとも教えられたし…森暮らしだったし、もし聞かれたらそういう部族の言葉って言っておくか。
「すまない、つい地元の言葉が出てしまった。昨日までそこの森の奥で家族と暮らしてたんだが、つい昨日魔獣に襲われてみんな死んでしまったから、降りてきたんだ。」
「魔獣だと?どんなやつだった?内容によっては大変なことになるぞ!というか話せたんだな!」
「あぁいや、魔獣は倒せたんだ。素材がバッグに入ってる。不意打ちだったから俺しか生き残れなかっただけで。」
「な、なんだ倒したのか…兄ちゃん若いのにすごいなぁ。」
「それはいいんだ、とにかく生まれた時から森暮らしだから身分証がない。どうにかできないだろうか。」
「…あー、そうだな。金が払えるなら一応信用できるんだけど……そうだ!お前魔獣の素材をもってたな?俺が付き添うって条件で中に入れてやる。
その売り上げから通行料を貰えば解決するだろ?」
「じゃあそれで頼む。売る店も教えてくれるか。」
「もちろんだ!いい店知ってるから案内するよ。せっかくだから高く売ろうぜ?あ、自己紹介がまだだったな。俺はバルドだ。お前は?」
「俺はレヒトだ。高く売れたら通行料に紹介料も上乗せして払おうか?」
「そいつは嬉しいね!高く売れることを期待しておこう!」
そうして、俺は街の中に入ることに成功したのだ。