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機械腕のレヒト  作者: 生牡蠣
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ウィンド・シルフィード

『レヒト。魔導外装の装着、能力使用は魔力消費を伴います。あなたの魔力量は多いほうですが未だ発展途上です。飛行能力の使用は控えることを推奨します。』


『ああ、魔力切れで負けるようじゃ話にならないからな。倒すまで油断も無茶もしない!』


『ガァッ!!』


とはいえ、魔獣は待ってはくれない。その牙で俺を噛み砕こうと、大きく顎門を開いて跳びかかってくる。

だけど、防ぐ方法は理解した(・・・・)


『俺の魔力量なら押し返せる!『ヴァルテン・ウインド』!壁となれ!』


『ガッ…グオァッ!』


しっかりと弾き飛ばせた。

弾き飛ばされた魔獣は2回ほどバウンドして着地する。


ヴァルテン・ウインド。

それはシルフが唯一使える魔法であり、一つの魔法だけで生きてきた理由でもある。

その内容は、風を発生させ、あるいは風を集めて支配するというもの。

今回は、俺を起点に風の壁を作り出した結果、魔獣を吹き飛ばすという結果になった。そして…


『まだだ!刃となれ!』


支配された風は思い通りに動かせるため、矢にも刃にも壁にもできる。

吹き飛ばされて、こちらを警戒している魔獣の前足に風の刃を叩きこんで、切り落としてやる!


『グゥッ…ガァァッ!』


くそっ…思ったよりも毛皮が丈夫で刃が通らない!

それを好機と見たのか、魔獣は今度こそ俺を噛み殺そうと俺に牙を突き立て…


『ギャウッ!?』


『なっ、痛…くない?』


しかし折れたのは、魔獣の牙の方だった。


『魔導外装は簡単に壊せる物ではありません。もっと強い魔獣だったなら結果はわかりませんが、この程度なら受けきれます。』


だとしてもだ。

向こうの攻撃が通らないのと同じように、こちらからの攻撃も意味をなしていない。

折れた牙も、あの魔獣の特性なのかすぐに新しいものに生え変わってしまった。


こちらが風の刃で切ろうとすれば、向こうも牙で噛み砕こうとしてくる。

まさに千日手というもの、いや、状況的にはこちらが不利だ。

リンクの分析によると、あの牙は生え変わる度にほんの少しずつだけ、丈夫で鋭くなっているらしい。

それに対して、俺の攻撃はこれ以上威力が上がることはない。

むしろ風を掴み続けているため少しずつ魔力が減っている。


『どうやって勝てばいいんだ!このままでは負けるぞ、ちくしょう!!』


『…策はあります。』


『リンク!どうすればいいんだ!?』


『シルフ達は基本的に自由奔放で子供みたいな性格でしたが、特に大人びていたシルフ達は強く、それとは別の共通点がありました。』


『強いシルフの共通点…?確かに全員が自分の名前を持っていたけど…。まさか、そういうことか?』


『ええ、そういうことです。きちんと個人の名前を持っているものは強いのです。』


『この鎧も名前があれば強くなるのか?』


『はい、今まで見てきたシルフ達を統計した結果、名前と強さは対応しているといえます。この魔導外装も同じ特性がある可能性は高いでしょう。

しかし、今装着している魔導外装は、『タイプシルフ型魔導外装』です。ただの分類であり、正式な名前とは言えません。』


『つまり、この魔導外装に名前をつけろと言うことか……風の力、シルフの力の結晶…。

決めた、こいつの名前は『ウィンド・シルフィード』だ!』


その瞬間、なんだか体が軽くなった気がした。それに、心なしか魔力を使う量が減ったというか…。


『予測通りです。『ウィンド・シルフィード』の魔力伝導効率および強度が上がっています。つまり、より強く、より少ない魔力で動かせます。今なら飛行能力も好きに使えるでしょう。』


『あぁ!それに、頭の中に新しく入ってきた()もある!』


少し魔力を溜める必要はあるが、今までの外装ではできなかった必殺の風(・・・・)のイメージが湧いてくるのだ。

これならいける!あいつを倒せる…敵を討てる!


『翅よ開け!舞い上がれ!!』


翅型武装を展開し、高く飛び上がる。

眼下に広がる世界の中に、壊れたシルフ達の村が見えて目の前が歪んだけど、それでも魔獣の姿は見失わない!

魔獣の顔、その口に狙いを定めて…リンクの水晶体部分に魔力を流して、必殺のイメージをつける!


『魔力充填。必殺術式起動。いけますよ、レヒト!』


『俺の家族を奪った、その顎門は切り裂いてやる!『シルフィード・スラッシュ』!!』


横なぎに払った必殺の魔力の刃は、空中にいる俺すら噛み砕こうと口を開けて跳び上がってきた魔獣の口に着弾した。

そして、その刃は魔獣の上顎と下顎を切り分け、そのまま胴体も2つに分かち、その下の地面に浅い横一文字を描いて消えた。


『やりましたね、レヒト。敵を討てましたよ。』


『あぁ…でもシルフ達は、俺の家族はもう、戻ってこない。敵を討てば少しは気分も晴れるかと思ったけど、やっぱ辛いな、リンク。』


『…えぇ、そうですね。』


そうして俺は、多分ここに来て初めて悲しみの涙を流した。


その日の夜が明けるまで泣いて、泣き疲れて、俺はやっと少し楽になれた。


『…レヒト。魔獣の毛皮や魔石を剥ぎ取りましょう。これからは人間として生きなければなりません。人間として生きるなら先立つ金は必要ですので、毛皮を売って金にしましょう。あと、こいつの魔石もゲーデにしましょう。』


『そうだな。家族の仇だけど、こいつも精一杯生きてただけだもんな。怨みはあるが、こいつ自身に罪はないものな。』


魔獣の毛皮を剥いで魔石を探していると、リンクが話しかけてきた。


『ところで、人間として暮らすしか無くなりましたが、何か目標などはありますか?やる気というものは大事ですので。』


『まず生き残るためには仕事がいるから仕事探し。世界中を渡ってもおかしくない仕事がいいな。そうやって生活しながら世界を旅して……そして、世界樹のあるところに行く。』


『…アイレの言っていた、精霊の生まれ変わりですか?…すみませんレヒト。私には安心させるためについた嘘のように思えますが…。』


『俺もそう思う。本当は生まれ変わりなんて無くて、世界樹に行っても姉ちゃん達には会えないんじゃないかって。でも、信じてみたいんだ。それ以外に何を目標にすれば良いのか、今は思いつかないから。』


『…わかりました。私はレヒトの左腕なので、もちろんついて行きます。まずは、最寄りの町…そうですね、森を抜けた所にある、フォレンド領へ行きましょうか。』


決まりだ、まずはフォレンドに行こう。

だけど、その前にしなきゃいけないことがある。


『その前に、一旦村に戻ろう。荷物を入れる鞄がないし、何よりみんなを弔わなきゃな。』


そうして、俺は…いや、俺とリンクは村に戻る事にした。

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