突撃ゴーストタウン
右もゾンビ、左もゾンビ。前がゾンビなら後ろもゾンビ。どこもかしこもゾンビだらけだなここ。ゾンビはどこもかしこも腐ってる。つまり全員毒持ちってことだ。直接触れたくはないし、武器を出すにもゲーデを付け替える時間はない。
「『バイコーンランス』展開!」
つまりは使える武器はこれしかない。
というかもう外装を着込みたい。即席で名前つけて変身してしまうか。
「バイコーンの外装名はチャージホーン・バイコーンに決定だ!変身!」
『承認。『チャージホーン・バイコーン』展開します。』
魔力が持っていかれて、バチバチと雷撃音を鳴らし始める。それがバイコーンの形を取ったかと思えば天に向かって駆け上がり、そして落雷になって俺に落ちてきた。
俺の周囲を巻き込んで落ちた光が収まると、俺の体は新たな外装を着込んでいた。
やっぱり討伐したやつのゲーデで変身するときは少しびびるんだよな。安全なのは間違いないはずなんだけど、こう、喰われたり雷に打たれたり…そういった法則はありそうだな。
見た目は…まぁ、いろいろと尖っていることと、俺の額にも二本角があることか。そして、外装を着込んで初めてゲーデから受け取れた情報だけど、これはなかなかにひどい能力だ。とはいえ、乱戦状態の今扱うような能力じゃないけど。
槍を振りまわしてゾンビをなぎ倒しながら、逃げ込める建物を探す。
一つ目を発見、突撃…ダメだ!裏の壁が壊れて外に繋がってる!外と変わりはない。中にいたゾンビを倒しながら撤退、次の建物を探す。
二つ目…もダメか!ここにもゾンビがいるのか!
というかこの廃墟、水路がそこら中に張り巡らされているけど、その水の中にもゾンビがたくさんいるじゃん!…ランスを突き立てて雷撃しておこうかな。倒せないだろうけど、水って電気を通すらしいから水中のやつ全員の動きが鈍くなるかもしれない。
やっぱり行き当たりばったりはダメだな。どこか、ゾンビのいなさそうな建物はどこかにないのか?
『こっち!こっちにきて!』
…精霊語?どこから聞こえた!?
『こっちよ!はやくはやく!!』
…城の方か。廃墟の真ん中だし、何かあるのかもしれない。
「行ってみようか、リンク。」
『このまま起きて夜を明かすわけにもいきませんからね。行くしかないんじゃないですか?今日はバイクォーンを動かしていただけなので、レヒトの魔力はたくさん余っています。ですので、罠だったとしても逃げられるのではないですか?』
「逃げ方わかんないけどな。でもさっきから早く早くと急かしてくるし、そもそも行ってみないとわからん。」
ゾンビをなぎ倒して城が見えてくると、城の周りにも水路があり、その中にも向こうの城側にもゾンビはいなかった。
◇
「身体強化…よっと。」
城の周りの水路の上には、当たり前だけど橋はかかっていなかったので、身体強化を使って飛び越えた。そして、扉を開けて中に入ると、そこには水の精霊ウンディーネがいた。
『やっときたわね。ほら、こっちよこっち。』
『あー、ウンディーネか。水路だらけだし、いてもおかしくないかなーとは思っていたけど、どうして城の中に?俺を呼んだ理由は?』
『…驚いたわ。あなた人間なのにスラスラと精霊語を話すのね。そうね。外に私達が誰もいない理由は、ゾンビがいる水路の水はもう死んでいるからよ。そしてあなたを呼んだ理由は、どうしても協力してほしいことがあるからよ。』
『水が死んでる?というかゾンビじゃなくてゾンビもどきって…』
『その話はまた後でするわ。この部屋に貯水池があるの。そこに私達の生き残りがいるわ。今日はそこで休みなさい。大丈夫よ、城の中にゾンビもどきはいない…いえ、襲ってくるゾンビもどきはいないわ。』
『ニンゲンダ!アッチイケ!!』
『大丈夫よ。この人はあのゾンビもどきになった人間とは違うわ。』
『ニンゲン、ダイジョウブ?ガブガブシナイ?』
『ああ、しない。ガブガブってのはゾンビのことか?』
『ニンゲン!シャベッタ!スゴイスゴイ!』
『ええ、ゾンビもどきのことよ。それじゃあ、そのことについて話すわ。』
やっと、ゾンビもどきと言った理由がわかるのか。確かに俺はゾンビを見るのは初めてだし、あれは本物のゾンビと違うのかもしれない。
『ちなみに、ゾンビ…いえ、アンデットの生まれ方を知っているかしら。』
『いや、知らない。アンデットに会うのは初めてだ。』
『じゃあそこから話すわ。アンデットっていうのは、死んだものを元に作られた動くナニカよ。ゾンビやスケルトンの場合、死体に魔力が溜まって、あるときになると魔力が凝固して魔石になり、それを核として魔獣になったものね。対してスペクターなんかの実体がないアンデットは、死んだものの強い思念が周囲の魔力を侵すことによって生まれる存在、どちらかと言えば精霊に近い存在よ。ここまではわかった?』
『…まぁ、なんとなく?』
『なんとなくでいいわ。本題はここからだから。それで、街に蔓延るあのゾンビもどきたちは、生きたままにゾンビ型の魔獣に変えられてしまったの。そもそも成り立ちからしてアンデットと呼んでいいのかも怪しいわ。』
『なんとなーく、嫌な予感がしてきたんだけど…』
『奴は水を使ったわ。城の外の水路に何かを撒いたの。それが原因で水が死んでしまったわ。ウンディーネは唯一無事な城内の水場でしか生きられなくなった。だけど、普通の人間は精霊なんて見えないから異変に気づけない。そして遂に、そこの水路の水を飲んだ人がでたの。その人は、少しずつ体調を崩していった。風邪とほとんど症状は変わらなかったわ。違ったところは少し皮膚が荒れることだけ。同じ症状の人は少しずつ増えていって、あるとき、全員の皮膚が爛れ、腐り落ちてゾンビもどきになった。』
『それは…想像もしたくない光景だな…』
『それだけじゃ終わらなかった。ゾンビもどきに噛まれた、あるいは体液や肉を飲み込んでしまった人もゾンビもどきになった。そうやって連鎖的に奴らは増えていって、ここはゾンビもどき達の街になった。』
『…それをやった奴は…わかるのか?』
『ええ、この街で唯一私達を見ることができた者であり、ゾンビもどきを生み出した張本人。ゾンビにしかならなかったと街の人々を失敗作扱いしたサイコパス。そして、私の主人を玩具にした憎き者。奴の名前はヨグ。かつてこの街で大規模実験を行い、姿をくらませた人型の災害よ。』




