駆けろ!バイクォーン!
街の外に出て少し歩く、ここなら武装の展開は見られないだろう。
「この辺でいいか。それじゃあ展開しようか。」
『タイプ『バイコーン』…武装展開します。』
そして出てきたものは、リンクの話どおりの、バイコーンにどこか似ているシルエットの、二輪の乗り物?だった。
馬車の車輪と違うのは、右と左についているのではなく、いうならば前と後ろについているということだ。
「これは…確かに車輪が付いていて、乗り物だな。使い方はゲーデをつけているから分かるけど…なんだこれ?」
『私のようなアーティファクトが今よりだいぶ昔に作られた物だとは…話しましたっけ?』
「なにそれ初耳なんだけど。」
『昔に作られたものは地下に埋れて行くのです。それが、ダンジョンが地下に伸びるように出来ることで、ダンジョン内部に露出したのがアーティファクトと呼ばれるものです。』
ってことは、ダンジョンじゃなくても、例えばここの足元とか掘り進んでもアーティファクトは出てくるってことか。
『私達アーティファクトがなぜダンジョンで見つかるかは置いておきます。とにかく、私が作られた時代にはこういった乗り物がありました。名前はバイク、と言います。』
「それじゃあ、こいつはバイコーンのバイクで、さしずめバイクォーンといったところか?」
『そうなりますね。それでは『バイクォーン』を、この武装の正式名称として登録します。』
「でもその名前ほぼバイコーンじゃん?いいの?」
『いいじゃないですか。わかりやすくて。』
そっちがいいならそれでいい。
ただ、俺は正直その二つを発音されたら区別できるか怪しい。
「それじゃあ、乗ってみるか。乗り方まで分かるの便利だよな。」
ゲーデを外した瞬間わからなくなるけど。
…いや、ゲーデを外した瞬間全部忘れるなら、俺は風魔法を使えていないはずだ。身体強化もできないはず。
身体に魔力が通ったからというのが原因なのか、それとも魔力をちゃんと認識して使ったからなのか。
もしかして、ちゃんと自分の目で自分がなにをしているのかを見ておけば、ゲーデを外しても使えるんじゃないか?
試してみるか。
「まずはここに跨る。そして、ここで起動…ここを倒してかそっ!!」
速っ!速い!!!ストップストップ!!!
…よし、止まった。それで、ゲーデを外しても同じように使えるのかどうかだ。ゲーデを外すけど、バイクは消えない。
そもそも武装解除はリンクがやっているらしいので、ゲーデを外した瞬間消える物ではないからな。
えーと、確か跨って、ここを踏んで起動して…
「おっ、できた。やっぱ自分でしっかり見れば覚えてられるんだな。」
戦闘中に自分の動きを細かく認識するような余裕はないけど。
「で、ここで発進!うわっ、速い速い…バランス取れな…ストップ!!……って、どうやるんだ?」
『私に聞かれても分かりません。ゲーデは抜いてしまったので。』
「いや待てストップ!ストップ!!あああああ!!!」
身体強化で体を丈夫にして、飛び降りることでなんとか事なきを得た。ちなみにバイクはちゃんと武装解除した。
◇
そして、今俺はちゃんとゲーデをつけてバイクに乗っている。
『ちゃんとバランスの取りかたを覚えるまでゲーデを外した走行は禁止です。ろくなことにはなりません。』
「その通りだ。反省しているが、後悔はしていない。ちゃんと自分で自分の動作を見ておけば変身中の動きを模倣できそうだとわかったからな。」
『そうですか。でしたらきちんと模倣してください。』
うん、だって二輪ってバランスとりづらいんだ。
馬車がなんで四輪なのかがよーくわかった気がする。
車輪が二つしかないと、すごくバランスを崩しやすい。
あの後ちゃんと止める方法は確認したけど、だからといって咄嗟に使えるわけがない。その点ちゃんとゲーデをつけていれば、バランスをとりながら反射的に止められるから非常に便利だ。
「それにしても、結構走らせてるけどまだつかないな。結構近場の街を選んだはずなんだけど。」
『馬車で3日はかかりますので。転移魔法なしでは街から街への移動には時間がかかるものです。』
転移魔法。そういうのもあるのか。
結構たくさん魔法が載ってるから持ってきた魔法書だったけど、実際には四属性しか書かれていない。それ以外の魔法もたくさんあるのだ。
さて、目指してた街までまだ時間がかかるのはわかった。だけど今気になっているのはそこじゃない。
「なぁ、地図にこんなボロの城なんて描いてあったか?結構でかいから書いていてもおかしくないよなぁ。」
『…確かにそうですね。しかし、地図には描いてありませんよ。見たところ廃墟になってますし、すでに国の一部じゃないから描かれていない、とかでしょうか。』
「なるほどなぁ…じゃあ、せっかくだし入ってみようか。ただ外で野宿するより、壁の中のほうが安全だと思う。」
『…まぁ、たとえ獣の住処になっていても、どこか一軒制圧すれば休めるでしょう。やってみてもいいんじゃないですか?』
「あの門、しまってるよな。突破できるかな?」
『バイクォーンのギミックなら出来るのでは?』
まぁそうかもしれない。ただなぁ、たっぷり魔力持ってかれるらしいからなぁ。バイクには魔石タンクが付いてるし、本来そっちで使うんだろうけど。
…そういえば、昼飯を食べてる時にゴブリンに襲われて、それを返り討ちにした時のゴブリンの魔石があったな。
「この魔石に魔力を肩代わりさせよっと。足りるかな?」
『足りなくてもその分消費魔力は減りますよ。』
じゃあ全部タンクにぶち込んで、起動!
「ぶちかませ!『チャージ・バイクォーン』!!」
充電ではなく突撃。基になったバイコーンのように前方に雷撃を纏って急加速する。そして、そのまま門にぶつかってブチ破る!
「よっしゃ成功!!いやー魔力も持ってかれてないし完璧じゃないか!?」
『アァァァァアア……』
ん?なんの声だ?魔獣ってもっとグルグル鳴くし、どっちかというと人間みたいな…
『レヒト!後ろです!』
リンクの声に反応して、後ろを振り向く。
『アァァァァ…』
「えー、お兄さん?おじさん?なにそのカッコ、センス腐ってない?」
『腐ってるのはセンスではなく身体です!この人型はゾンビですよ!』
うん、なんか見たときにそんな気がした。というか雷撃によって肉が焼けた臭いがキツくて気づかなかったけど、微かにここ一帯から腐臭がするな?
…ゴーストタウンじゃねぇか!これじゃゆっくり休めねぇよ!
仮面ライダーにはバイクいるよね?




