バイコーンランス
バイコーンの頭の方から魔石が出てきた。ちなみに、魔石をとる時だけで、ずっと雷撃を手に喰らい続けて凄く痛かった。外装の下にあるからわからないが、きっと今の俺の手は叩かれすぎて赤くなっているような状態だろう。
『せっかくです。バイコーンのゲーデを作って武器とか魔導外装とかを試してみましょう。』
「おいおいリンク。まだダンジョンの中だぞ?大丈夫なのか?」
『大丈夫ですよ。周りをよく見てください。』
「周り?…うわっ、魔獣がいっぱいいる!」
『はい。どうやら、バイコーンならびにそれを討伐したレヒトを怖がって様子見をしているようです。しばらくは襲いかかってきませんよ。』
「そうか、それじゃあ使ってみるか?」
バイコーンのゲーデは黄色に黒の筋が入った模様になった。
バイコーンの角と、体毛の色そのままである。
シルフのゲーデを外して、外装を解除…やっぱ右手赤くなってる…
ま、まぁ、とりあえずバイコーンのゲーデを挿入っと。
『タイプ『バイコーン』…どうやら武装を二種類使えるようです。さすがはバイコーンといったところでしょうか。』
「とりあえず、二つとも作ってみてくれるか?」
『わかりました。しかし、片方は魔導外装と同じくらい魔力を持って行きますよ?』
「まじかぁ。じゃあ魔力消費の少ない方、普通の武装なのかな?そっちを展開してくれ。」
『槍型になりそうですね。名前をつけましょうか。』
「バイコーンランスで。わかりやすい方がいいだろ?」
『はい、ではバイコーンランスの名称で武器を作成します。』
「『バイコーンランス』展開っと。」
『承認。『バイコーンランス』展開します。』
作り出されたランスは、先がバイコーンの角のように二股に分かれた穂先を持つ槍だった。しっかりと長く、馬上槍として使えるサイズなのはバイコーンが馬型に分類できる形だったからだろうか。
領主に習った武器は剣と槍だったので、無理に槍の練習も始める必要がないのはいい。現時点で練習を始めているからな。
「それで、これってゲーデに入ってる知識なんだろうけど、槍だけで魔法が使える魔動具として動きそうなんだよねぇ…そこの魔獣にでも使ってみようか?」
『いいのではないですか?こちらが動かないと分かれば、そのうち二層に上がろうとしてきますよ。』
「じゃあやってみるか。『サンダー・ウェイ』!」
槍の穂先から狙った方向に向かって雷の道が伸びていく…って、これバイコーンが俺に向かって放ってきた雷撃じゃん。
ならバイコーンの雷撃と同じ軌道を描けるってことかな。
伸びていった雷は、逃げ損ねた普通の狼型魔獣に当たって…
『ギャウッ!』
うわーバチバチしてるぅ…
これ強くない?いや、これ強いわ。雑魚魔獣なら完封できるもん。
バチバチしてるやつは明らかに動けてないし…あ、心配したのか他の魔獣が近づいて…うわっ、新しい方にも感電した!
…これ、感電してる時は急所狙って突き放題とか酷いな。
しかも感電するだけでも痛いわ気持ち悪いわでちょっと吐きそうになるのに…
「リンク、これは強すぎるでしょ。」
『まぁ行動阻害だけで大したダメージ入ってませんし、なんならレヒトみたいに感電中に動いてくる魔獣もいるかもしれませんし。』
「まー、それもそうか。でも、五層は俺には強すぎたな!しばらく強い奴の相手とかしたくない!」
『諸君!聞こえるか!俺だ、バルドゥールだ!風の森五層にて元凶と思われる新種の魔獣を発見した。現在撤退中だが、向こうには気付かれていない。』
もう強いのは相手したくないって言ったんだけどなぁ。
まぁ、撤退中らしいから、そのうち合流してくるだろうし、その時に騎士団と一緒に上に逃げればいい。
そうして、サンダー・ウェイを撃ちながら待つこと数十分。
「レヒト!魔獣は通して無いよな!」
「もちろんだ、バルド!お前達こそ、新種とやらから逃げてきたんだろう?つけられてないよな。」
「大丈夫だ、ちゃんと撒いてきたぞ。とりあえず上に上がってから話そう。」
俺達は、そのまま一層まで向かった。
◇
「それで、新種の魔獣ってのはどんな奴だったんだ?」
「その前に、お前がアイリーを助けた時に見たって言う魔獣についても話そうか。あれは、人間をベースに、なんでも飲み込むスライムの特性、そして取り込んだものを反映する特性…そうだな…御伽噺に出てくる空想の魔獣にいたような…そう!たしかキマイラだ!予想だが、あれは人間とスライムのキマイラなんだよ!」
「なぜ今その…いや、わかったぞ、今回の新種もキマイラなんだな!?」
「ああそうだ!狼をベースに、更に狼でも取り込んだのだろう。三つ首だった!しかも風の森の魔獣のはずなのに火を吹いてきやがった!」
「風の森にしてはありえない火の力、さらには三つ首の異端さを恐れて魔獣が逃げ出したんじゃ無いか、ということか。」
バイコーンの雷撃は風属性ダンジョンに出てもおかしくは無い。雷は、風と水の複合属性だからだ。
しかし、純粋な火属性となると話が違う。
魔法は光闇と、火水風土の六属性からなり、火水風土は基本四属性とされる。
風と火の複合属性ならまだしも、火属性だけなんて風の森ではあり得ない。それこそ、外から持ち込まれない限り。
「…外から火属性の何かを持ち込んだ奴がいるな。」
「あぁ、アイリーを襲った肉ダルマも、他領で見つかったらしい蛇尻尾も、今回の三つ首狼も人間の手によるものだ!だれがこんなとんでもないことをしでかしたか調べなきゃいけない。」
キメラ…まだ二回、いや、自分の遭遇回数は一回の魔獣。
しかし、何故だかこれからも戦うことになるんじゃないかと、嫌な予感が全身を駆け巡った。