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機械腕のレヒト  作者: 生牡蠣
15/22

バチバチ、バイコーン

「風よ!空飛ぶ刃となれ!」


狙いはバッチリ、バイコーンも雷撃を放った後。

装甲が薄くなった今なら少しは通るはず!


…バチィッ!!


「ダメじゃねぇか!装甲が薄くなってるんだろ!?」


『出力が低いんですよ。傷を負わせることはできません。』


…傷を負わせることはできない。

出力が低すぎる。いや、そんなことはないはずだ。

人間相手に放った時も外傷はつけられなかった。しかし、妨害して弾き飛ばすことはできた。

つまり、元々風魔法は殺傷するのに向いていない?

いや、ウィンドカッターやアローがある。そんなはずは…


…バチバチッ!


『レヒト!避けてください!』


「いや、避けない!『ヴァルテン・ウィンド』!押し流せ(・・・・)!!」


バイコーンが失速する。風で押し込んで、押し込んで…!

やっぱ避ける!押し負けるわこれ!

でも今のでわかった。出力が足りなかったんじゃない!術式通りに使ったウィンドカッターはもっと魔力密度が高いんだ!

つまり、ヴァルテン・ウィンドでは傷をつけられないのは自分のコントロール力不足!


『押し流せたの、ですか?しかし、これでは…』


「まぁ、勝ちには繋がらないけどな。また突進がきた!

風よ!次は横殴りで行こうか!!」


押し流して、方向をそらして!


『バルヒィ!?』


曲げた先には巨木ってね!

やーい、突き刺さってやんの!!

さっきの木と違って太いぜ!そんな簡単に抜けてたまるか!


『バル…バルヒヒィン!!!』


バチバチバチィ!ミシミシッ!!


…まーじで?そんな簡単に倒せるものだっけ?

さっきの木の三倍くらいは太いんだけど!?


『五層魔獣を舐めてはいけません!このくらいの力はあるんですよ!!』


「とんでもねぇなぁ!牙狼はもっと簡単だったじゃないか!」


そんなこと言い出したらゴブリンが悲惨だけどな!あれは擁護できない。一体一体が弱すぎて。


「もう一回角を木に突き刺す!その間に必殺技だ!」


『了解です。次の突進を待ちましょう!』


雷撃!雷撃!溜めて…きた!突進だ!


「『ヴァルテン・ウィンド』!!」


押し流して方向を変える。思考パターンが猪みたいなやつだから、方向を曲げてやっても急には止まれない!

よし!もう一回木にヒットだ!


『魔力充填完了。』


「『シルフィード・スラッシュ』!!」


狼の顎門を両断した魔力斬撃が今再び放たれる。

的確に首を狙ったそれは、確実に首を断つ軌道を描いて…


『バルヒヒヒィン!!!』


バチバチバリバリバリッ!!!


「…嘘だろお前…それはやりすぎだって…」


バイコーンから放たれた電撃が魔力を掻き消す。

そして、必殺技を掻き消すだけの電撃によって、突き刺さっていた木は赤く燃え上がっていた。


「どうするリンク。あれ、だいぶお怒りみたいだけど。」


『…魔力斬撃がかき消されてしまう以上、本体に直接斬撃を当てるしかありません。近接攻撃です。』


「あの電撃まみれのバチバチ野郎に接近しろってか?…まぁやるしかないよなぁ。」


場合によっては討伐しろと言われたが、こいつが今俺を相手してくれている(・・・・・)のは、逃げた先に羽虫がいて鬱陶しいから、というだけなのだ。

こいつが逃げる原因となった脅威が、下から上ってくるものならば、そのうちこいつも正気を取り戻し、その脅威に気づく。

そうなったら俺のことなんて気にしない。間違いなく上の階層に上がっていく。

それではいけない。俺の受けた依頼は、魔獣を1匹たりとも上に上がらせないというものなのだ。


「覚悟は決めた。次にすれ違う時があいつの最後だ。」


魔力の刃を作る必要はない。だからこれはリンクの魔力充填に頼った必殺じゃない。

見ろ、見極めろ。何度も突進は避けてきたのだから。

落ち着け、電撃は痛いが直撃しなければ死にはしない。


『溜めに入りました。突進、来ます!』


『バルヒヒィン!!』


「ウオォォォオオ!!!」


真っ直ぐ走ってくる。大丈夫だ、一歩半横にずれれば直撃はしない。

走ってくるバイコーンの動きを見極め、首を通すように腰だめから斜め上に向かって、しっかりと振り抜く!


「技名を決めてやろう。雷を切り裂く一閃。『シュナイデン』!!」


決まった…あ、痛い!雷撃が痛い!!


「あばばばば!いいててて!痛い!!」


『大丈夫ですか、レヒト!』


き、決まらねぇなぁ…


「ああああ、だだ、大丈夫だ。すすこし、し、しびれただけだだ。」


『そうですか、それはよかったですね。』


別に良くはないけどな!


「そ、それで、バイコーンはど、どうなった?」


『後ろにありますよ。』


俺が痺れた身体で振り返ると、そこには首がなくなって、血を流しながら倒れる胴体と、切り離されてなお帯電を続ける頭があった。


「は、はは…勝ったぞ!」


『ええ、レヒトの勝ちです。せっかくですし魔石を頂きましょう。必殺技を弾いてしまうほどの雷撃ですから、きっと強いゲーデになりますね。』


「あ、ああ、そうだな。それで…あいつの魔石、どっちに、入ってると思う?」


胴体ならば問題ない。しかし、首から上は未だに帯電しているのだ。生きている時よりは弱まっているように見えるが、それでも直接触れたくはないのだが…


『おそらく、頭の方でしょうね。頭の方には未だに帯電するだけの魔力が残っていますので、魔石もそちらに。』


「ま、まーじかぁ…」


死してなお俺を苦しめるとは、バイコーン、おそるべし…

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