バチバチ、バイコーン
「風よ!空飛ぶ刃となれ!」
狙いはバッチリ、バイコーンも雷撃を放った後。
装甲が薄くなった今なら少しは通るはず!
…バチィッ!!
「ダメじゃねぇか!装甲が薄くなってるんだろ!?」
『出力が低いんですよ。傷を負わせることはできません。』
…傷を負わせることはできない。
出力が低すぎる。いや、そんなことはないはずだ。
人間相手に放った時も外傷はつけられなかった。しかし、妨害して弾き飛ばすことはできた。
つまり、元々風魔法は殺傷するのに向いていない?
いや、ウィンドカッターやアローがある。そんなはずは…
…バチバチッ!
『レヒト!避けてください!』
「いや、避けない!『ヴァルテン・ウィンド』!押し流せ!!」
バイコーンが失速する。風で押し込んで、押し込んで…!
やっぱ避ける!押し負けるわこれ!
でも今のでわかった。出力が足りなかったんじゃない!術式通りに使ったウィンドカッターはもっと魔力密度が高いんだ!
つまり、ヴァルテン・ウィンドでは傷をつけられないのは自分のコントロール力不足!
『押し流せたの、ですか?しかし、これでは…』
「まぁ、勝ちには繋がらないけどな。また突進がきた!
風よ!次は横殴りで行こうか!!」
押し流して、方向をそらして!
『バルヒィ!?』
曲げた先には巨木ってね!
やーい、突き刺さってやんの!!
さっきの木と違って太いぜ!そんな簡単に抜けてたまるか!
『バル…バルヒヒィン!!!』
バチバチバチィ!ミシミシッ!!
…まーじで?そんな簡単に倒せるものだっけ?
さっきの木の三倍くらいは太いんだけど!?
『五層魔獣を舐めてはいけません!このくらいの力はあるんですよ!!』
「とんでもねぇなぁ!牙狼はもっと簡単だったじゃないか!」
そんなこと言い出したらゴブリンが悲惨だけどな!あれは擁護できない。一体一体が弱すぎて。
「もう一回角を木に突き刺す!その間に必殺技だ!」
『了解です。次の突進を待ちましょう!』
雷撃!雷撃!溜めて…きた!突進だ!
「『ヴァルテン・ウィンド』!!」
押し流して方向を変える。思考パターンが猪みたいなやつだから、方向を曲げてやっても急には止まれない!
よし!もう一回木にヒットだ!
『魔力充填完了。』
「『シルフィード・スラッシュ』!!」
狼の顎門を両断した魔力斬撃が今再び放たれる。
的確に首を狙ったそれは、確実に首を断つ軌道を描いて…
『バルヒヒヒィン!!!』
バチバチバリバリバリッ!!!
「…嘘だろお前…それはやりすぎだって…」
バイコーンから放たれた電撃が魔力を掻き消す。
そして、必殺技を掻き消すだけの電撃によって、突き刺さっていた木は赤く燃え上がっていた。
「どうするリンク。あれ、だいぶお怒りみたいだけど。」
『…魔力斬撃がかき消されてしまう以上、本体に直接斬撃を当てるしかありません。近接攻撃です。』
「あの電撃まみれのバチバチ野郎に接近しろってか?…まぁやるしかないよなぁ。」
場合によっては討伐しろと言われたが、こいつが今俺を相手してくれているのは、逃げた先に羽虫がいて鬱陶しいから、というだけなのだ。
こいつが逃げる原因となった脅威が、下から上ってくるものならば、そのうちこいつも正気を取り戻し、その脅威に気づく。
そうなったら俺のことなんて気にしない。間違いなく上の階層に上がっていく。
それではいけない。俺の受けた依頼は、魔獣を1匹たりとも上に上がらせないというものなのだ。
「覚悟は決めた。次にすれ違う時があいつの最後だ。」
魔力の刃を作る必要はない。だからこれはリンクの魔力充填に頼った必殺じゃない。
見ろ、見極めろ。何度も突進は避けてきたのだから。
落ち着け、電撃は痛いが直撃しなければ死にはしない。
『溜めに入りました。突進、来ます!』
『バルヒヒィン!!』
「ウオォォォオオ!!!」
真っ直ぐ走ってくる。大丈夫だ、一歩半横にずれれば直撃はしない。
走ってくるバイコーンの動きを見極め、首を通すように腰だめから斜め上に向かって、しっかりと振り抜く!
「技名を決めてやろう。雷を切り裂く一閃。『シュナイデン』!!」
決まった…あ、痛い!雷撃が痛い!!
「あばばばば!いいててて!痛い!!」
『大丈夫ですか、レヒト!』
き、決まらねぇなぁ…
「ああああ、だだ、大丈夫だ。すすこし、し、しびれただけだだ。」
『そうですか、それはよかったですね。』
別に良くはないけどな!
「そ、それで、バイコーンはど、どうなった?」
『後ろにありますよ。』
俺が痺れた身体で振り返ると、そこには首がなくなって、血を流しながら倒れる胴体と、切り離されてなお帯電を続ける頭があった。
「は、はは…勝ったぞ!」
『ええ、レヒトの勝ちです。せっかくですし魔石を頂きましょう。必殺技を弾いてしまうほどの雷撃ですから、きっと強いゲーデになりますね。』
「あ、ああ、そうだな。それで…あいつの魔石、どっちに、入ってると思う?」
胴体ならば問題ない。しかし、首から上は未だに帯電しているのだ。生きている時よりは弱まっているように見えるが、それでも直接触れたくはないのだが…
『おそらく、頭の方でしょうね。頭の方には未だに帯電するだけの魔力が残っていますので、魔石もそちらに。』
「ま、まーじかぁ…」
死してなお俺を苦しめるとは、バイコーン、おそるべし…




