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機械腕のレヒト  作者: 生牡蠣
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風の森の異変

その後、ギルドには騎士団の訓練を受けられるようになったと報告して、その日は宿に帰った。

なんでそんなことになったのかについては自分もよくわからないが、貰えるのだから貰っておくことにした、と答えた。

アイリーについては無闇に話すなと言われてしまったからな。


そして次の日、バルドに正しい攻撃の避け方、剣の振り方、槍の扱い方などを学んだ。

そして、その反復練習を始めてから1週間が経った。


「なぁ我、こう思うんだけどな。」


「なんだ、領主様?」


「上達早くない?1週間前は素人だったじゃん。なんなら昨日まで素人だったじゃん。なんでこんなに動きの無駄が無くなってるの?というか体力差で負けそうなんだけど。」


「…そうなのか?いやー褒めてもらえて嬉しいな!」


「何か腹立つ…いや、いうだけ無駄か。筋肉量はあまり増えてないが、それだけ動けるならもう大丈夫じゃないか?というかなんでそんなに上達してんの?我、訳がわからん。」


正直言うと、昨日バルドにちょっと教わってから一気に上達したんだよな。

バルドは、俺の持ち方を一応の正しい構えに直した後、


「型を必要以上に気にするのは貴族だけさ。振って切って倒せればそれで十分。振りやすい構え、振り方は教えるけど、最終的には自分が使いやすいかどうかだからな。」


と教えてくれた。

それを聞いたときに何かがハマったような感覚がして、それから一気に上達した。

つまりは、バルドの助言のおかげだけど、それでも1日で上達したことには自分の才能を感じる。

というわけで、領主様の問いかけにはこう答えておこう。


「才能…かな?」


「うわっ腹立つぅ!!さすがに今の発言は許せん!バルド!槍もってこい!このクソッタレ自惚れ野郎をぶち殺してやらんと気が治らん!!」


あれ、バルドが近くにいるのか?お礼言わないと。


「あぁそうだバルド!昨日コツ教えてくれてありがとな!」


「バルドォ!!コイツの自惚れはお前が原因か!お前ごとぶちのめしてやるからお前も覚悟しろぉ!!」


ちなみに、2対1だったので一瞬で決着がついた。

やはり、騎士団長だけあってバルドは非常に強かった。


「なぁ親父、そもそも騎士団長になる条件が親父に勝つことだったじゃん?そもそも俺の方が強くなってるのに2対1でやろうとするとか何考えてるの?」


「だって腹が立つじゃん。たったの1週間でここまで強くなるとか納得できん。」


「まぁ本人も言ってたけど才能だろうな。言い方はムカつくけど。」


「そうじゃろ?我もムカついた。」


「いや悪かったって。本当はバルドが気持ちの付け方教えてくれたおかげだから。才能だけじゃないから。」


「ほら!才能が無いとか言わない!許せん!」


「まぁまぁ、実際に才能はあるだろうし仕方ねぇって。」


この領主がめんどくさいだけなのか、それとも自分に才能があるとか言うと怒りを買うのか。

わからないけど、自分の才能だ!なんて言わない方がいいだろうか。

今回も、自分1人で辿り着いたわけじゃ無いんだし。


「なぁなぁレヒト!それよりマジで強くなってたな!せっかくだし俺とも手合わせしないか?」


「いいな、やろうか。さすがに騎士団長に勝てる気もしないけどな。」


「チャンスが無いなんてことは無さそうだけどな。お前の動き、本当に無駄が無くなってきてる。」


「じゃあ、槍の方を見てもらえないか?そっちも練習してきたんだ。」


「よし、じゃあ親父より強いか俺が見てやるぜ!」


「1週間で我より槍が上手くなるとか許さんからな!」


大丈夫だって、実際剣ほど上達はしていない。

それじゃあ、手合わせ願おうか!!


「失礼します!バルドゥール様!冒険者ギルドから緊急の連絡が!」


…手合わせはなしかな。緊急の連絡なら仕方ない。

それに、その連絡の出どころが冒険者ギルドなら、俺の仕事にも関わってきそうだ。


「…なるほど、それはまずいな。レヒト!お前も聞いておけ!親父にも判断を頼みたい。」


俺はもちろん聞きにいく。


「我が判断しなきゃいけないほど?バルドの判断じゃだめか?」


「あぁ、そうだ。冒険者ギルドからの連絡はこの紙に書かれてる。一度読んでみてくれ。」


えーと、なんだ?


風の森ダンジョンにてスタンピードの兆候あり


本日、風の森ダンジョンから帰還した冒険者からの報告により、ダンジョン一層にまで魔獣が進出していることが確認されました。

上位個体に進化した魔獣の存在、それに伴い住処を追いやられた獣や魔獣によるスタンピードが懸念されます。

風の森ダンジョンの攻略のために騎士団を派遣していただけないでしょうか。

過去の記録から推測すると、長くても一月以内にスタンピードが起きる可能性が高いです。


なるほど、一層まで来ていたのか。確かにまずい。


ダンジョンとは、通常の法則が通用しない異界のような存在である。

例えば、俺の住んでいた場所は二層にあった。二層は一層に露出した洞窟を降りた先にあるのだが、そこにもしっかりと森があり、太陽も見えた。

明らかに地下に存在するのに、である。


そして、ダンジョンは入り口に近いほど魔獣が少なく、遠いほど魔獣が増えていく。

風の森ダンジョンの場合、二層までは外から侵入してきた普通の獣が住処にしていて、三層より下から魔獣が出てくるのだ。

だから、シルフ村に魔獣が出てくるなんて思いもしなかった。その時からスタンピードの兆候はあったのだろう。


そしてスタンピードとは、魔獣の大移動の事である。

ただでさえ普通の獣の埒外に存在する魔獣の集団大移動。

近くの人里に何が起こるかは明らかである。


「風の森に異変がある事はわかった。それで、受けるのか?出来るだけ早くって事なんだろう?」


「受ける。スタンピード程の一大事なら領主としても見過ごせない。今日中に騎士団全員に招集命令、明日には出発して風の森ダンジョンの攻略を行う。冒険者ギルドにも緊急依頼を出す。」


「俺が団長として騎士団全員に招集をかける。レヒトには親父が今から書く依頼書を任せるから、冒険者ギルドに持っていってくれ。」


「わかった、それで俺は明日どうすればいい。もちろん緊急依頼は受けるが、俺は風の森なら二層までは知り尽くしている。三層の入り口までは案内できるぞ。」


「いや、せっかく三層の入り口を知っているなら、先に道を開ける切り込み隊長をやってくれないか?

できれば一層二層の魔獣は無視して突っ切って道を開けてくれ。無視した魔獣は他の冒険者に任せて、とにかく早く三層に突入。騎士団が調査している間に三層から二層に強い魔獣が出ていかないように、三層に入ったところで待機してくれ。」


「…わかった。それにしても、俺の付け焼き刃の戦い方を評価してくれてるらしいな。」


「いや?確かにそっちも評価してるが、今回はアイリーを助けてくれたお前の力を評価している。期待してるぜ、仮面の戦士?」


そっちか、まあそうか。

ならば、魔導外装の出し惜しみはしない。


そう言っている間にいつのまに書き上げたのか、領主から依頼書が渡される。

それをしっかり受け取って、冒険者ギルドに向かって走った。


緊急依頼:風の森攻略:Dランク以上

風の森でスタンピードの兆候。

普段より危険な状態であり、緊急の対処が必要。

騎士団が調査をするため、一〜二層の護衛を行う。

報酬:参加報酬2000ゴールド。倒した魔獣の数とランクで加算。

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