2話 初めの一歩
「先輩!起きてください!」
酔っぱらいが役に立つかわからないが、ひとまず起こすことにしよう。
先輩 春日博司。たしか三十八歳だったと思う。バツイチ独身
前は同じ職場の上司で、今は別部署に異動にしている。
何かと、俺に絡んでくるが可愛がってもらっていると思う。
棗先輩とは犬猿の仲だったのは有名な話である。
「あぁ、うるせえなぁ。何騒いでんだよ。 ‥‥ここどこだ。
お前どこに連れてきたんだよ!」
酔っぱらいがやっと起きたようだ。
「お前いい加減にしろよ!何してんだよ!」
怒鳴り散らす酔っぱらいに、ひとまず現状の説明をするが、俺にも何も
わかんねぇよ。
一通りに説明を聞いた後に呆然としている春日先輩の横で、俺も天を仰いだ。
「月が紫‥‥」
俺の呟きを聞き、春日先輩も空を見て固まっている。
月が異常に大きく、紫色に発光している。というか月なのか?
あんなもの地球には絶対にない。
ここは本当にどこだ。夢ではない。これはすでに確信している。
視覚が、空気の触れる感じが、自分の思考が現実をものがたっている。
そのとき、ギュャーという叫びにならないような音が空より響く。
二人で空を見ると、巨大なワニのようなものが大きな翼を広げて飛んでいる。
全長で10m近くはあるだろう。見るからに肉食だ。
春日先輩は横で座り込んでいる。もしかして腰を抜かしたか?
そういう俺も足が動かない。
さいわいワニは俺たちに気付かなかったのか、そのまま通り過ぎていった。
「先輩。ここを離れましょう。ここに居るとやばいですよ。」
「どこに行くんだよ!っていうか、ここどこだよ!」
「わかんないっすよ!でも、どこか隠れれる所へ行かないと
マジでやばいですよ!」
少し黙った後に、先輩は立ち上がりよろよろと立ち上がった。
腰抜かしてなかったんだな。
紫の月の下どこに向かうでもなく、二人で草原を歩き始めるのだった。
これが俺のこの世界での最初の一歩となるのだった。




