【DLH二次創作】Ph02.G6田舎支部ラプソディ ~メカザメを添えて~
TRPG『デッドラインヒーローズRPG』二次創作小説です。
七星銀河は、ヒーローだ。
ヒーロー名は、セブンスギャラクシー。オリジンはサイオン。バトルアーマーを装着し、驚異的なスピードで悪党を倒す。
この春から、彼はG6九真野境域支部へと転属になった。
九真野境域。
本州南部にある、山と海と神秘の土地である。
東京からは電車で六時間――要は、辺鄙な土地だ。
九真野境域へ向かった彼を、ひとりの警察官が出迎えた。
名を、神滝千香。半人半獣の顔をした、サイオンである。
彼女は、九真野境域警察ヒーロー支援課の支援官だという。
二人は合流早々、銀行強盗事件を鎮圧。
その後処理を現場に任せ、G6九真野境域支部へと向かっていた。
「お疲れさまでした、着きました」
「着いたって……ここ、警察署だよな?」
町中を抜け、海の見える高台の先に、九真野境域警察S〇一署がある。
その駐車場に車が停まった。
「はい、G6支部はこちらですー」
警察署に入るのかと思いきや、千香は隣の建物に向かう。
銀河はスーツケースを持って、そのあとについていくしかない。
「……なぁ、ここ、もしかして警察の官舎か?」
「あ、廊下はお静かに」
隣の建物は、マンションになっていた。ドアがいくつも並び、反対側から見ればベランダがある。
どうやら、警察署の独身寮かなにからしい。
二階へ上がる。階段のすぐそばの部屋、その前に千香が立つ。
平凡なドアに、「G6九真野境域支部」と印字された札が貼られている。
「ここです」
「嘘だろ、おい」
銀河は唖然とする。
千香がニコッと笑い、ドアにカードキーを通す。
「ピー」と音がして、ドアが開く。
「こんにちは、支援官の神滝でーす」
中から返事はない。
狭い玄関に、小さなキッチン。キッチンの反対側には、三点ユニットのトイレと風呂があるようだ。典型的なワンルームマンションに見える。
部屋の中に入る。
広さは八畳くらいだろうか。部屋のむかって右半分には、事務用の机が二つ、向かい合わせに置かれている。左半分にはソファとミニテーブルがあり、どうやら応接できるようにしているらしい。
ソファの上には、ブランケット。中に人が潜っているらしく、大きく膨らんでいた。
「トレバーさん、こんにちは」
千香がブランケットをまくる。
黒々とした毛が、ブランケットの中から現れる。
「…………」
黒い毛の塊が、むくりと起き上がり――。
「ちょっと待て」
塊の顔を見て、銀河は思わずツッコミを入れていた。
その顔は、特徴的な細長さがある。目は丸っこい。全身が黒々とした毛に覆われていて、腕が長い。
「チンパンジーじゃないか!?」
「あ、紹介しますね、銀河さん。こちら、トレバー・ピットさんです。G6の技術職員をされています」
「チンパンジーだろ!?」
そう、ソファで寝ていたのは、どう見てもチンパンジーだった。
チンパンジー――トレバーは長い腕をひょうきんに曲げ、頭をかく。ミニテーブルに置いていた通信端末を持つと、器用に操作し始める。
『G6九真野境域支部所属、技術職員のトレバー・ピットだ』
「うわ、デバイスでしゃべった」
デバイスから、無駄な男声が聞こえてくる。
どうやら、このデバイスで意志疎通をするらしい。
トレバーはまたデバイスを操作する。器用に文字を打ち込み、「確定」ボタンを押す。
『私のオリジンはエンハンスド。だがテクノマンサーでもある。東京からようこそ、ヒーロー・セブンスギャラクシー君』
エンハンスド――改造されて誕生した超人種を指す。
「……もしかして、改造されてその姿に?」
『私のことはチンパンジーなどと呼ばす、猩々先輩と呼ぶこと』
「しょうじょう?」
「猩々っていうのは、日本や中国の伝承にある、大猿のことだそうです」
「やっぱチンパンジーじゃねぇか!!」
銀河のツッコミに、トレバーは唇を剥く。
「ウキー!!」
「うわ! いま『ウキー!』って言ったぞ!!」
「トレバーさん、落ち着いてください」
睨み合う銀河とトレバーの間に、千香が入る。
トレバーがなにかに気づく。千香の腰の大型銃を、ホルスターの上からトントンと叩く。
「あ、はい。発砲しました」
「……? ……!」
「ええ、大丈夫でした! すごいですね、威力を調節できるなんて!」
トレバーが仕草で示すと、千香が答える。
銀河は思わず頭を抱える。
「……もしかして、その銃って」
「はい! トレバーさんが開発された銃で……弾丸の代わりに水を射出する仕組みになっています。ここのシェルエネルギーで水をですね」
「あー、なるほど。弾丸の補充が手軽にできるかもな」
「はい! 日本であれば、弾切れに悩むことはないかと」
千香は腰のホルスターから銃を抜き、トレバーに手渡す。
トレバーは銃のチェックをして、千香に戻す。またデバイスを操作する。
『そのスーツケース、バトルアーマーかなにかだろう。G6のよしみだ。私がさらに改造を加えてやろう』
銀河は眉をしかめた。
「お気持ちはありがたいが、お断りするよ」
『私が愚かなサルだとでも思っているのか?』
「違う。あれの調整は、俺が十分できる」
『テクノマンサーでもないのに?』
テクノマンサーとは、科学技術や超装具を身につけた超人種のことだ。大半が、何らかの科学的超技術を持ち合わせた技術者である。
「テクノマンサーでなくとも、自分の装備くらい自分で見れるさ」
『わかった。不躾な申し出だったようだ』
「…………」
銀河は軽く肩をすくめた。部屋を見回し、何かに気づく。
狭い部屋に、事務机は二つ。ひとつはトレバーのものらしく、大型のパソコンと、大量の工具が置かれている。
もうひとつの机にも、そこそこ性能のよさそうなパソコンが置かれている。だがそれだけだ。
「支援官、G6九真野境域支部って、この部屋だけか?」
「あ、はい」
「……もしかして、あれは俺の机?」
「はい」
「えー……」
銀河は思わず頭を抱える。
G6が慢性的な人手不足であることは、周知の事実だ。ヒーローも事務員も黒服の数も、なにもかもが足らない。
それはここ、九真野境域支部でも同じらしい。
「事務員のひとりもいないのか……」
「だ、大丈夫ですよ! そのための支援官ですから!」
「え?」
「支援官っていうのは、こう、いろいろする仕事なので!」
千香の話を聞くと、だいたいの事情がわかった。
G6は支部を作る際、人手不足の地域では地元警察などと協定を結び、支援を受ける。
さらにG6は、警察からの情報提供や要請を受け、ヒーローを派遣する。特に田舎では、G6より警察の方が信用されることもままあることだ。事件の報せは、警察に集まる。G6と警察の仲立ちをするのが、警察内にある「ヒーロー支援課」であり「支援官」の仕事である。
「事務仕事とかも、支援官がお手伝いしますので!」
「そうか……じゃあ、これから世話になる」
「はい!」
トレバーがデバイスを挟む。
『チカは優秀な支援官だ。おろそかにするなよ、後輩君』
「わかった」
『あと、手を出すなよ』
「……なんだろう、イラっと来た」
銀河とトレバーはおたがいをじっと見て、乾いた笑いを交わす。
「あ、そうだ」
千香がトレバーの机を示す。長方形のジュラルミンケースのような箱が置かれていた。
「ところで、トレバーさん。あの箱はなんですか?」
『秘密』
「えー教えてくださいよー」
その時、千香の腕時計が「ピー!」と鳴る。
「はい、こちら神滝。あ、課長」
『神滝、いまどこだ?』
千香が腕時計を顔に近づけると、声がした。
腕時計型の通信端末だ。
「G6の支部です。セブンスギャラクシーさんとトレバーさんもいます」
『セブンス……ああ、新しく来たヒーローだな! ちょうどいい、G6に出動要請だ!』
「出動要請」と聞いて、銀河は表情を引き締める。
トレバーは自分の机に戻ってパソコンを操作し始める。
「わかりました。事件ですか、事故ですか?」
『おそらく事件だ。S一四地区の漁港へ向かってくれ!』
「S一四地区の漁港ですね、了解」
千香は通信を切り、ピッと敬礼する。
「九真野境域警察からG6へ! 協定に基づき、ヒーロー・セブンスギャラクシーに出動を要請します!」
「了解、支援官」
銀河は軽く手を上げて応える。スーツケースを持ち、部屋を出る。
そのまま二人は、車まで慌ただしく走った。
***
市街地を抜けた先に、小さな集落がある。
集落の狭い道路を走り抜けると、ぱっと前が開けた。
港だ。何台もの漁船が停泊している。小型や中型のものが多い。小規模な漁港だった。
「あれですね」
千香が漁港の端に車を停める。車を降りる。
漁港には、海上保安庁の職員とおぼしき格好の人間が、何人も集まっている。ほかにも、漁師やその家族のような老若男女、そして野次馬のような者も集まってきている。
「すみません! お待たせしました!」
「あなたがたは?」
「私は境域警察ヒーロー支援課の支援官、神滝です! こちらが……」
「G6九真野境域支部所属、セブンスギャラクシーだ。状況は?」
海上保安庁の職員をつかまえて、状況を聞く。
職員は狼狽したように、望遠鏡を銀河に渡す。
「と、とにかく見てください!」
漁港の端――海に突き出した堤防に向かい、沖を見る。
海上保安庁の巡視艇が何隻か、なにかを湾内に留めようと動いている。
波が立つ。
船よりも手前に、三角形の背ビレが見え隠れする。
「……もしかして、ありゃ」
「サメ……ですかね?」
銀河は海上保安庁職員に尋ねる。
「サメ退治か? 俺でいいのか?」
「た、ただのサメじゃないんです!!」
銀河は再び海を見る。
波がうねり、背ビレが海中に消える。
次の瞬間――。
――ザバァ!!
サメが海中から、天高く飛ぶ。イルカやクジラの大ジャンプもかくや、という勢いだ。
銀河が見たのはそれだけではない。
サメは、金属調に輝いていた。全身は鈍い金色に覆われ、いたるところにネジがある。機械的な関節が、海水を弾いて飛んでいる。やがて着水し、また波間から背ビレが見える。
「ありゃぁ……?」
「ぎ、銀河さん、あれは……」
「九真野のサメは、金属でできてんのか?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「……さて、どうする?」
銀河は望遠鏡から目を外す。
「それについては!」
海上保安庁職員が、港の隅を示す。
そこには、二人乗りの水上オートバイがあった。
「……嘘だろ、おい」
まさかの水上戦というのか。
いつの間にか離れていた千香が、手に何かを持って戻ってくる。
「ウェットスーツとライフジャケット、借りました!」
「……支援官?」
「水上バイクがあるなら話は早いです! 私が操縦しますんで、銀河さんはサメを仕留めてください!」
「運転できるのか?」
「免許持ってます! そのための支援官ですから!」
銀河は空を仰ぎ、脇に置いたスーツケースを見やる。
「……俺は着替えなくても大丈夫だ」
「銀河さん?」
「防水加工くらい、してあるからな」
銀河はスーツケースを取り、前へと差し出す。
「セブンス・システム、起動」
銀河の声とともに、ケースが動く。変形する。パーツに分かれる。銀河の腕に、変形したケースが装着される。胸に、腰に、脚に。最後に顔に。鎧のようなバトルアーマーが展開する。
『システム展開完了』
銀河は、ヒーロー・セブンスギャラクシーに変身した。
「支援官、早く着替えろ」
「は、はいっ! ちょっと待っててください!」
千香があわてて、漁港前の小屋に入る。小屋はどうやら、漁師や海女らの休憩所らしい。
銀河が待っていると、空から風を切る音がする。
見上げると、ドローンが銀色の箱を運んでいる。ドローンは銀河の前に降り立つ。
『後輩君、これを貸そう』
「その声……猩々先輩か」
ドローンから、無駄な男声が聞こえてくる。G6技術職員・トレバーの声だ。
『事情は課長から聞いた。相手が海中であれば、この銃が有効だろう』
箱を開ける。中には、ライフル銃に似た大型の銃がある。
『エネルギーは充填済み。理論上、十五発は撃てるはずだ』
「待て、これ実験段階なのか?」
『贅沢を言うな』
「へいへい、爆発しなけりゃなんでも使いますよっと」
セブンスは銃を取り、身になじむよう構える。
その時、着替え終わった千香が合流する。
「お待たせしました!」
千香はウェットスーツにライフジャケット、髪はうしろでまとめている。
「よし、サメ退治と行こうか。頼むぜ、支援官」
「はい! 行きます!」
二人は水上バイクに乗り込む。千香がハンドルを握り、セブンスが銃を持って後方に乗る。千香がエンジンをかけると、水上バイクは水音を立てて滑り出す。
「ヒーローだ!」
「ヒーロー! ヒーロー!」
「サメ、やっつけとくれよー!」
「漁場を荒らされちゃ、困るんだ!」
漁港に集まった者たちから、歓声が上がる。
「期待されてるな」
「それはそうです。漁師さんや海女さんたち、漁に出られなければ生活ができませんし」
「……そうだな」
漁港を出て、湾内に出る。波は穏やかだが、海の色は青く深い。風を切ると、まだ冷たさを感じる。
水上バイクは白い波を立て、背ビレの見える位置に迫っていく。
「支援官、横につけられるか!?」
「やってみます!」
メカザメの正面ではなく、側面へ回り込む。背ビレを頼りに、併走する。
セブンスは銃を構え、慎重に狙いをつける。
引き金を引く。銃口が虹色にきらめく。
――バシュッ!
エネルギー弾が発射され、水中へと消える。
背ビレの位置からすれば、背中に着弾したはずだ。
――バシュッ!
――バシュッ!
何度か発砲し、セブンスは銃を上げる。
金属の背ビレが、波間に消える。
「やりましたか!?」
「ダメだ、油断するな!」
千香がハッとする。水上バイクのハンドルを切る。バイクが旋回する。
――バシャァァァッ!
メカザメがジャンプする。口を開け、ずらりと並んだ牙が見える。金属製の巨体が、いまバイクのあった場所に落ちる。
――ドパァァン!
大きな波しぶきが上がり、セブンスと千香を襲う。二人は濡れ鼠になる。セブンスはバトルアーマーのおかげで平気だが、千香は顔をしかめた。
「畜生、丈夫な背中しやがって!」
メカザメは、たしかに弾を受けているようだった。だが、着弾した背中の装甲が厚いらしい。たいしたダメージは受けていないようだった。
それどころか、セブンスたちが敵であると認識したようだ。
「まずい、うしろにつけられたぞ!」
水上バイクの真後ろに、メカザメが回り込む。
千香がバイクのスピードを上げるが、サメの背ビレが迫ってくる。
「ど、どうします!?」
「……支援官、俺の考えに乗るか!?」
「な、なんですか!?」
「あんたが撃て!」
「え、ええっ!?」
千香が思わず、セブンスの方を振り返る。彼女の方では、バトルアーマーに覆われたセブンスの表情はわからないだろう。
「む、無理ですよ!」
「どう考えても、射撃はあんたの方に分がある!」
「で、でも、操縦は!?」
「俺がやる!」
「そ、そんなぁ……」
千香は明らかに戸惑っている。
「だ、だって、こういうの、ヒーローじゃなきゃ……」
「適材適所だ! ヒーローがやるんじゃない、やったやつがヒーローだ!」
セブンスは、千香の肩を強くつかむ。
「やれ、支援官!」
「……ああっ、もう、わかりましたよぉ!」
セブンスは、アーマーの下で笑う。
二人は息を合わせ、席の前後を交代する。セブンスがハンドルを握り、千香が銃を持つ。
メカザメがすぐ後方まで迫っている。海を切る背ビレが、すっと波間に消える。ジャンプの前兆だ。
「出てくるぞ! 外すな!」
「はいっ!!」
千香が銃を構える。
――バッシャァァァン!
メカザメが宙を飛ぶ。海面を割り、水しぶきを上げ、牙を剥いて、水上バイクに迫る。
セブンスはしっかりハンドルを押さえ、回避行動は取らない。
千香の瞳が、メカザメの腹部を、鋭くとらえた。
――バシュッ!!
発砲音が、湾内に響きわたる。
エネルギー弾は、メカザメの腹部の関節にあるネジに着弾する。「バチィッ!」と音がして、ネジが弾け飛ぶ。
それをきっかけに、メカザメの全身がいびつに歪む。飛んだネジ部分からエネルギー弾が入り、内部を破壊する。
巨体が着水すると同時に、メカザメは崩壊する。水しぶきの上に、無数のネジが飛ぶ。波の上に、金属板が散る。
「や、やっ……」
「――やってない!」
セブンスが鋭く叫び、水上バイクのスピードを上げる。
湾から沖に向かって、一直線に走る。
「あれだ!」
セブンスが見つけたのは、海面に浮かぶ柱のようなものだった。メカザメと同じ色をしている。
水上バイクが近づくと、柱は沖へと動き始める。
「支援官、操縦頼む!」
「えっ、なに、きゃっ!?」
セブンスは、水上バイクから飛ぶ。バイクが大きく揺れて、千香があわててハンドルを握る。
「逃がすか!」
セブンスは拳を振りかざす。
バトルアーマーが、全身をサポートする。サイオンの能力を、最大限に引き出す。
「お前の星に、懺悔しろ!」
拳が放たれる。引き絞られた矢のごとく、宙を斬り裂く。海面を叩き割り、柱にぶつかる。
金属の柱にヒビが入る。柱はまっぷたつに折れた。中身は、機械の塊だった。その中から、人影が飛び出す。海中に逃げようとする。
「観念しろ!」
「く、くそぉ!! ヒーローがぁ!!」
海中に飛び込んだセブンスが、人影に組み付く。
人影は暴れるが、バトルアーマーを装備したセブンスに勝てるわけもない。やがて抵抗をやめ、セブンスとともに浮かび上がる。
「一人乗りの潜水艇、か。メカザメといい、センスが悪いな」
セブンスがつぶやくと、人影――悪党はがっくりとうなだれた。
「銀河さーん!」
千香が水上バイクを回し、セブンスのそばに寄せる。
海上保安庁の巡視艇も、事態を察知して船を回す。
セブンスギャラクシーは、見事、犯人を逮捕した。
***
メカザメを操縦していたのは、潜水艦国家サイレントサイエンスの末端構成員だった。
自分の作ったメカザメのテストとして、S十四地区の漁港がある湾を使ったのだという。
「どういう罪になんのかねぇ」
「そうですねぇ……」
セブンス――銀河は、車の助手席に深く座った。
千香が疲れたように、運転席に座る。
「まぁ、あの湾で、潜水艇の航行は許可されてないでしょうし……?」
「メカザメ、どう考えても兵器っぽかったしな。サイレントサイエンスのこともあるし、海上保安庁が処理できる案件ならいいんだが」
サイレントサイエンスは、「全ての海を支配する」と豪語する潜水艦国家である。彼らの理論でいけば「自分の領地で兵器開発をしていただけ」ということになるだろう。
だが日本にも国家としての立場がある。一定の海域は、日本の権利下にあり、脅威を振りまかれるわけにはいかない。
この事件は、しばらく話題となりそうだ。
「とはいえ」
銀河は腹を撫でる。
「……さすがに、腹が減ったな」
「……わたしも、です」
銀河と千香は、今日の正午頃に合流したばかりだ。
まだ昼食をとっていない。腹の虫が「くぅ」と鳴った。
「支援官、いまからやってる飯屋はあるか?」
「はい、知ってます。行きますか?」
「ああ」
二人は顔を見合わせ、どちらともなく笑う。
車のエンジンをかけ、走り出す。穏やかな春の海が見える。
二人の車に向かって、人々が手を振る。漁港で顛末を見守っていた人々だ。
銀河は軽く手を上げて応えた。心地のよい疲労感がある。
「……田舎も悪くないな」
銀河のつぶやきが、エンジン音にかき消された。
――To be continued....
初出:2019年己亥08月28日
修正:2019年己亥08月29日
TRPG『デッドラインヒーローズRPG』(DLH)の二次創作小説です。
一話完結。シリーズ「最果ての世界は終わらない」としてまとめます。
本州南部の田舎を舞台に、ヒーロー・七星銀河とその支援官・神滝千香が、事件に立ち向かう話をメインに書いていきます。
海でサメ退治の回でした。今回登場した「潜水艦国家サイレントサイエンス」は、D1(同人サプリ)などに記載があるヴィラン集団です。
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【著作権表示】
本作は「ロンメルゲームズ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『デッドラインヒーローズRPG』の二次創作です。
(C)Takashi Osada/Rommel Games
(C)KADOKAWA