1
今でも思い出す。
彼は元気にしているだろうか。
仲間ではしゃいで、車で出かけた。
運転手のハルくんと助手席のユウくんは、最近見つけたお気に入りの飲み屋の
話で盛り上がっている。
後ろで座っているミキちゃんは寝てしまった。真ん中に座っていた彼は、
酔っぱらったのか、倒れるように、隣の私の膝に頭を乗せて転がった。
大丈夫?と覗き込んだ私の首にそっと手をかけ、自分に引き寄せてキス。
驚いた私に、にっこり笑いかけ、また繰り返す。
みんなに気づかれるよ?そっとささやきながら、顔を寄せると。
またにっこりしながらキスをした。
何回も何回も。
もしかしたら、みんな気づいていたのかもしれない。
でも、優しい人たちは、何も言わなかった。
結局、彼とは付き合わなかった。
なぜなら、その当時、私にはずっと付き合っている人がいたから。
なのになぜ?キスしたの?
お酒のせいだけではない。
私も彼が気に入っていた。ただそれだけ。
そして、彼は、私を口説く勇気がなかっただけ。
あれは夏の夜のできごと。
何年たっても色あせない、ステキなキスの思い出。