上級探索者、遠山 鳴人の遺体は確認出来ず。現場の状況から対象の生存は絶望的と推測。"序"
いつもご覧頂きありがとうございます。はい、GW最終日ということで特別短編を始めてみました。
是非ご覧ください!
捜索依頼途中経過報告
報告者 味山 只人。
2028年、10月21日。探索者組合より捜索依頼を受理。
同日、パーティリーダーであるアレタ・アシュフィールドの判断により上記依頼を受諾。
同日、アレタ・アシュフィールド、ソフィ・M・クラーク、グレン・ウォーカー、味山 只人からなる探索パーティチームアレフ、バベルの大穴、二回層、大草原へと侵入。
最後の端末反応が残っている地点にて、大規模な沈殿現象の痕跡を発見。同時に計4頭の怪物種86号、ソウゲンヒトツメ大猿の死骸を確認。
上級探索者、遠山 鳴人の遺体は発見出来ず。また彼が組合に報告せずに所持していたと推測された準遺物、"キリヤイバ"も同じく未発見。
状況から推測するに、殿を務めた遠山 鳴人は怪物種の掃討後、端末ごと沈殿現象に巻き込まれた可能性が高い。
アレフチームとしては現場の保存を行い、調査を敢行。現場に残された血液サンプルの簡易検査の結果、遠山 鳴人はかなりの負傷を負っていたと推測。
以上のことから捜索対象の生存の可能性は薄く、またこれ以上の追跡も不可能なため捜索を打ち切る。
アレフチームとして捜索対象のMIAを提言。
なおこの調査の直後、当チームは現場にて接触禁止怪物種、呼称名"耳"との偶発的遭遇を果たす。
グレン・ウォーカー、味山 只人は重傷を負うもこれを辛くも撃退。
その後の"耳"の足取りは不明。
組合に正式に追加の報酬を要求、この要求が受理されなかった場合は、怒り狂った指定探索者が、組合本部へ向かい暴れまわると思うので早急に指定の口座へ違約金を払われたし。
つーか、早く払え。てめえら絶対俺らを使って、あのクソ耳を誘き出しやがったろ?覚悟しておけ、探索者への借りは血か金によってしか贖う事は出来ないと知れ。
味山 只人、報告終了。
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…….…
……
…
オレンジ色の光に照らされるホールの中、男が1人苦い顔をしながら呟く。
「遅えなぁ。やはり風呂屋で待っていた方が良かったか?」
男の声は酒場に満ちる喧噪に溶け消えていく。時刻は夕方が終わり、夜に世界が切り替わり始める頃。
男が元いた世界の基準で言えば、大体18時頃くらいだろうか。
椅子に腰掛けたまま小さな樽を模したコップを男はグビリと煽る。
ルーモと呼ばれる清涼飲料水。アルコールは入っていない。製造段階でこれを発酵させると、酒場のほとんどの人間が頼んでいるピアと呼ばれるアルコールになるらしい。
男はあまり酒が好きではない為に好んでこのルーモの方をよく飲んでいた。
強い炭酸と苦味が喉をするりと通る。この妙な薬草臭さがたまらない。風呂上がりで火照った身体を冷ましてくれる。
酒場の喧噪が心地よい。
あたりには数々の刀剣類を備えた人間がうじゃうじゃひしめいている。
人種は様々、頭髪は赤毛、金髪、白髪、中には黄緑色なんてのも存在する。
ホールの中央部にはこの酒場、丸焼き亭の看板名物である肉の丸焼きが大きな囲炉裏みたいなのでじわり、じわりと焼かれている。
今日はストライクホーンの肉か、後で頼もう。
男は何度か口にしたことのある味を思い浮かべて口の中でよだれを作る。豚肉と牛肉を混ぜたような味は嫌いじゃない。岩塩を削って食べる薄切りはルーモと合う。
男の姿は周りと少し様子が違っていた。
いや、男からすれば周りの人間の方が奇妙な姿、時代錯誤な姿をしていたのだが……
男はちらりとあたりを見回す。
例えばあの女。腰には丸い小盾と短剣を備えている。頑丈そうな衣服はおそらく革製だ、キュッと締まったウエストを皮鎧に包んだ赤毛の女。
それと会話するのはこれまた奇妙な男。モジャモジャの髭に、ヘンテコな三角帽子、背中にはその男の体長ほどありそうな大斧が備え付けられてある。
酒樽のようなずっしりとした体格。しかし身長は凝縮されているかのように短い。
おそらく150センチもないだろう。重心の低い身体から繰り出される斧の一撃が、怪物種……いや、魔物の甲殻を容易に砕くのを男は知っている。
女は赤毛で白い肌そして、長身だからレッドスノウ系の人種の人間族。
そして連れの男はドワーフ族だろう。
どちらも男の故郷では見ることは出来ないタイプの人間型種族だ。
ドワーフの類いに至っては創作物のファンタジーでしか出会えないようなものだったが。
男は既に見慣れた光景をそのまま眺め続ける。
そう、この酒場に集う者は人間だけではない。
トカゲのような、というより恐竜のような顔を持つ二足歩行の人種、ドルゴニアン。
みんな大好き、細い身体に尖った耳のエルフ族。男も女も美人が過ぎる。良かった、洋ゲーのエルフじゃなくて本当に良かったと男は思っていた。
ファンタジーの中でしか会えないはずの多種族のオンパレードだ。
酒場の中心から鳴り響く陽気なフルートの音。それを奏でるのはドワーフよりも更に身長の低いホビットの男性。
自分の身長と同じくらいの楽器を巧みに操り曲を吹き続ける。
男は、雨合羽のような外套を外さずに机に肘をついて呟いた。
「ファンタジーだねえ……。異世界転移……、なんでもありだなぁ。人生ってのは」
異世界転移。男が高校生辺りの時に流行ったライトノベルによくある設定。
まさか現実にそれが自分の身に起きるとは思っていなかった。
いや、男の現実もそれなりに常識から外れつつあるものではあったがそれでもこれは面食らう。
「バベルの大穴が異世界に通じてるって発表すりゃあ、どれだけ儲かるんだろうなぁ……」
男の元いた世界、そこに突如現れた常識を超えた存在の名を口にする。
現代ダンジョン、人々がそう呼ぶ世界の地下広がる異なる世界。
男の外套がエールを煽る動作によって僅かにまくれる。
腰に巻いたベルトには一振りの奇妙な刃物が備えられていた。組合には内緒で最後まで隠し続けた、世界に一つ、凡才の男を唯一他者から特別たらんと示す宝だ。
男もまた、この酒場に集う冒険者と同じ存在だった。殺し合いを生業とし、怪物と張り合い、宝を狙う者。
黒い髪の毛はボサボサに無造作に伸ばされている。口の周りに無精髭が生え出し、その目はわずがに濁っているようにも見えた。
中肉中背、しかし外套の上からでは分からないものなその身体の体幹はしっかりと鍛えられている。
男の名前は、遠山 鳴人。職業は現代ダンジョンの探索者だった。
遠山はまだ、生きていた。
世界を渡り、自らが生まれた場所とは異なるここでたしかにまだ、生きていたのだ。
〜上級探索者、遠山 鳴人の遺体は確認出来ず。現場の状況から対象の生存は絶望的と推測〜
………
現代ダンジョンの凡才探索者はどんな手を使ってでも豊かな異世界生活を送りたいようです。(仮題)
ご覧いただきありがとうございました
。
本編の続きを書けと言われると戦々恐々しております。同時連載とかできねえかなあ……
せっかくなろうで書いているのでそのうち異世界モノにも挑戦する予定です。
それでは時期は未定ですが続きをお待ちくださいませ!