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神が笑った世界  作者: 城宮水紅
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第十一話 作戦

 俺たちがトリトスにやってきて三日目の夜。

「敵襲!敵襲!」

「魔族の襲撃だー!」

 村人たちが叫びまわる。子供を抱え、逃げ回る大人たち。その背後では、禍々しい姿をした魔族が今にも襲いかかろうとしている。

 皆が村から追い出されるように逃げている中、一人の男が、騒ぎの中を突っ切って全速力で走っていく。向かう先は、領主の館。

 俺は、フィーリアを連れて領主の館近くの物陰に隠れる。しばらくその場で待ってみるが、状況が変わる様子はない。魔族たちが村人たちを襲い続けている。

「一箇所ぐらいじゃだめだろうけど」

 独り言を呟いた時、別の方向からやってきた、一人の男が領主の館に入っていく。慌てているようで、何度か転びそうになる。

 少しすると、また一人、男が走って館に入っていった。その後も、続けて三人ほど走って通っていった。

「そろそろかな」

 領主の敷地の中、本館のすぐ隣に建てられた円形のゲートから馬に乗った兵士が出てきた。王国の騎士だ。大勢で一つの魔法を作り上げる連成で二つの場所をつなげることができる。その正確な座標を知るためにゲートが用いられる。

「おお、ようこそいらっしゃった」

 タイミング良く館から出てきたのは、領主のプセフティスだ。太った体型に、これみよがしなアクセサリー。

「ここら一帯、魔族に襲われたんです」

「聞いています。早速、討伐にかかりましょう」

 騎士団の団長と思われる男が、プセフティスに答える。その後、部下たちに指示を出し、部隊を分けて討伐に向かった。

 が、数分後、彼らは再び館に戻って来た。

「魔族などいないようだが」

 団長が、領主を訝しげに見る。討伐に来たはずが、討伐対象がいないのだ。

「そ、そんなはずは…。まさか、貴様ら…。」

 信頼している配下の者から魔族の存在を聞いていた領主は、焦っていてる。裏切られたのかと疑うが、配下の伝達係の蒼白な顔を見て、その可能性を捨てた。

 今、ここに、魔族はいない。村人たちを襲った奴らの姿は一つもない。

「ご存知だろうが、騎士団を嘘の情報で呼び寄せたのなら、その罪は重いぞ」

「わ、私は…」

 団長の迫力に押され、プセフティスが後ずさる。

「嘘ではありません。領主様は嘘をついてはいません」

 そこで、俺が飛び出して騎士団に訴えた。ローブに身を包み、フードで顔を隠して。

 団長は、突然現れた俺を訝しむように見ていたが、俺の後ろについて、一緒に領主の無罪を訴える村人たちの姿を見て、信じ始めたようだ。プセフティスも、ほっとした顔をした。

「トリトスに向かいました」

 俺が、トリトスの名を出すまでは。

「魔族は南へ」

「トリトスという村です」

「どうか討伐してください」

「南の村です」

 俺の言葉を皮切りに、背後の村人たちも、トリトスの方を指差して、口々に言った。

「そこには、何もありません」

 プセフティスが、俺たちの前に立って、団長に言った。

「ご存知でしょう。トリトスという村は五年前に壊滅しました」

 必死に訴える。

「住民はいませんし、以前から魔族がうろついている場所です」

「それならば、丁度いい。そいつらも皆、消してしまいましょう」

 プセフティスの表情がみるみる悪くなっていくが、団長は気にする様子もない。

「行くぞ」

 団長は、領主を押し切って、騎士たちを連れて走り出した。

「ああ…。」

 プセフティスは、がっくりと膝を落として、騎士団が駆けていくのを見送った。

「プセフティス様」

 領主の直属の部下であろう男が声をかけると、プセフティスは、我に返ったように彼らに指示を出し始めた。そして、用意させた馬に乗ると、数人の部下を連れて館を飛び出した。行き先はおそらくトリトスだろう。

「フィーリア」

 物陰に隠れていたフィーリアを呼び寄せる。

「もう行きますか?」

 彼女の問いかけに頷き、側によった。

「コープスト・モノ・コーロス。シデンスト・ジ・コーロス」


「スィドロフォスさん、フィーリアさん」

 アナが駆け寄ってくる。トリトスの中心の広場に移動したのだ。騎士団の姿も、プセフティスの姿もない。まだ到着していないのだ。

「奴らは?」

「聖堂に」

 商人の男たちの所在を確かめる。

 フィーリアとアナと一緒に広場のステージに上がる。広場に集めてもらった村人たちが、俺とフィーリアの姿を見て騒ぎ始める。彼らは、まだ魔族、いや、商人たちを恐れている。はっきりとした言葉ではないが、出ていけという言葉に類するものが聞こえてくる。

 俺は、黙って腕を上げ、ある場所を指差す。村人たちは、訳がわからないと言うように、指の先を見る。

 ドドドド。

 何かが迫ってくる音が聞こえてくる。

「何あれ」

 村人たちは戸惑った様子を見せる。

 馬に乗った騎士団だ。魔族がいるこの村を目指して駆けて来たのだ。

「大丈夫ですか?」

 ヒーローのごとく、団長が村人に呼びかけるが、様子がおかしいことに気づく。馬を降り、じっと、ステージ上に立つ俺を見る。

「魔族は?」

 彼の言葉を聞いた村人は、恐怖に震え始める。今まで、魔族が村を襲うなんて信じてなかった者も、今、確実に信じただろう。

 俺は、すっと息を吸い込んで、

「魔族はいません」

と、はっきりと言った。それなりに大声だったので、騒いでいた村人たちも黙った。

「あなたに見せたいものがあるんです」

 その時、騒ぎに気づいたのか、聖堂にいた商人の男たちがやってきた。

「何事だ?」

 クレヴォが話しかけるが、誰も答えない。騎士団がいるのは反対側で、その存在には気づいていないようだ。

「おい!」

 突然の大声に、場が騒然とする。フィーリアもびくっと体を震わせる。

 クレヴォが俺たちのことに気づいたのだ。ズカズカと他の男たちも引き連れて、ステージに上ってくる。

「おい、女。こいつらは何者だ!?あいつらにバレたらただじゃすまねえぞ!」

 アナの胸ぐらを掴みかかりそうな勢いで近づく。温厚な性格を演じていたことも忘れたのか、よそ者が魔族にバレることを恐れて必死なだけなのだと思ってもらえると信じているのかはわからないが、ステージ下の人たちもビクビクしている。

「まあ、とりあえず話を聞いてください」

 クレヴォとアナの間に立ち、落ち着くように言う。

「あ、あいつは、さっきの」

 プセフティスも到着したようで、俺を指さして情けない声を出している。

 役者は揃った。

 フードを外し、顔を見せる。フードをかぶっていたのは、領主の館付近の村の人たちへの目印であって、もう必要ない。

「高いところからすみません。スィドロフォス・ピステヴォといいます。こうして皆さんに集まっていただいたのは、真相を明らかにし、全てをあるべきところに戻すためです」

「何言ってんだ?」

 クレヴォが、不機嫌そうに言う。

「まずは、状況確認から始めましょう。ここ、トリトスは、魔族に脅されていた。村を襲わない代わりに村の生産物を献上する。では、なぜ、彼らは領主や国に助けを求めなかったのでしょう」

 アナに視線を送ると、

「口外したり、外部の人を村に留まらせたら、その場合も襲うと魔族に脅されていました」

と、村代表で話してくれる。ステージ下の大人たちも頷く。すっかり黙って聞き入っている。

「クレヴォさん、ここであなたに聞きたい。あなたたちはなぜ逃げ出さなかったのですか?もし、魔族の意思に反してしまったら、一番に害されるのはあなたたちでしょう。それに、あくまで、ただの商人。村がどうなってしまおうと関係ないといえる立場にいる」

「そんなの脅されているからに決まっているだろう。逃げられないのは、奴らに呪いをかけられてるからだ」

 俺の問いに、クレヴォは余裕そうな表情で言ってみせた。

 もっともらしい答えだ。

 良かった。録音した音声を使う必要はないようだ。

 フィーリアに作ってもらった魔法石を取り出す。それを見るなり、クレヴォは顔を引きつらせる。

「なんでそんな高価なもん」

「やはり知っていますか。さすが商人。これは、人や物にかけられた魔法や邪力を知ることができます」

 村の人たちのために説明をする。これで、クレヴォたちにかけられてる呪いの有無はすぐにわかる。

「どこに行くつもりですか?」

 ステージから降りようとするクレヴォに声をかける。

「付き合ってられるか、こんなこと」

「それは、調べられたらまずいってことですか?本当は呪いなんてかけられてないんですか?」

「そんなわけあるかよ」

「なら、調べて良いでしょう?呪いとやらが有るのなら、あなたの言葉は真実とわかるし、俺の仲間が解くこともできます」

 フィーリアがペコリとお辞儀をする。

「どちらにせよ。今ここで逃げれば、村からの信頼はなくすでしょうね」

 そこまで言うと、さすがに引けないようで、ステージに戻ってきた。

 俺は、魔法石を右手に持ち、左手を男たちに向ける。親指で魔法石に力を入れる。パキッと音を立てて割れ、そこから出てきた白い光がフワフワと飛び回り、左手に集まる。しばらくすると、その光が、男たちを包んだ。

「反応なし、か」

 余興に興味を示し始めた騎士団団長が、光の色に変化がないのを見て言う。

 村人たちは、無条件にクレヴォたちを信じてはいけないと理解したようで、疑いの目を向ける。男たちは、その視線から逃げるように、ステージを離れようとする。しかし、体の動きが止まる。フィーリアの魔法で捕らえたのだ。逃げようとしたのだから、いよいよ、信頼を失っただろう。

「俺たちは悪くねぇ。あのジジイが!」

 クレヴォが体を動かそうと抵抗しながら苦しげに言った。あのジジイが、プセフティスを指すことはすぐにわかった。プセフティスも立場が悪くなったことを感じたのか、こちらに背を向け、離れようとしている。

「領主殿、どうした?」

 それを止めたのは団長だ。領主の顔は汗でべっとりしている。

「いやー、用事を思い出しまして」

「今でないといけないのか?その用事は何だと言うのだ」

 団長の圧に押され、「そういうわけでは…」と、もう言い返せないようだ。

「せっかく面白そうなものが見られそうだ。領主殿も一緒にどうかね?」

 肩を落として、団長の横に並ぶ。観念したのか。と思ったのも束の間、

「奴らの言うことは戯言だ!狂言だ!」

と、わめき始めた。手足を振り回して暴れるが、そちらは、騎士団が抑え込んだ。

「少年、続きを」

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