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神が笑った世界  作者: 城宮水紅
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第十話 行動開始

 目を閉じてみると、男たちの馬車は、立派な館に向かっていた。建物の大きさを見るに、領主のものだろう。予想通りなら、領主もグルだ。

「アナさん、あの商人たちはどのくらいで帰ってきますか?」

 少し考えるような仕草をした後、

「村を出てから三日後の夜くらいです。そして、商人としての仕事があるとか言って、一月ほど、村とどこかを行ったり来たりします」

と答えた。

 献上品は月に一回。行ったらしばらく帰ってこない。村にずっといるわけではない。

「役人が使っていたという建物は残っていますか?」

「はい。ほとんどそのまま残っています」

 そこに残された書類を確認するのがまず一番最初だな。幸い、数日、奴らの目を恐れる必要はなさそうだ。

「商人は村に滞在するとき、どこに?」

「この聖堂です」

 必要最低限の金が届けられているのはそのためか。いくら村と運命共同体といったって、泊まる場所がないといけない。最大の目的は疑われないためだろうが。

 何であれ、彼らがこの聖堂に近づくのは自然なことということだ。ポストに小包を入れる役を担うことも可能だろう。

「アナさん、一つお願いがあります。次、彼らに会った時、なぜ逃げないのか聞いてください。彼らなら本来、逃げられる立場にいますから逃げればよいのにそうしない理由があるはずです。できれば録音をして」

 アナにそうやっていくつか頼み事をして、休むことにした。とりあえず、村人と鉢合わせないために地下室で眠ることにする。アナは、一人、地上に上がった。

「フィーリア、魔法石の作り方、知ってるか?」

 使い魔に商人たちを監視させ、寝る準備をする彼女に、話しかける。首を振って否定するので、笑いながら言った。

「覚えておくと良いよ。お金に困った時、魔法石を売れば凌ぐ技にもなる」

 翌日、教える約束をして寝床についた。久しぶりに頭も使ったし、疲れていたのだろう。あっという間に眠りについた。

 そのくせ、寝起きは最悪だった。早起きしてやることがあると言っていたのは俺なのに、フィーリアに起こされることになってしまった。

「ごめん、フィーリア」

「良いですけど、人に見られてたくないだけなら、魔法でどうにかなりますよ」

 早朝に動くことにしたのは人目が減るからだ。農家の朝は早いが、俺たちの目的地は畑のない方だ。もちろん、それでも魔法は使ってもらうつもりだったが、最悪の場合も考えると、人目がない時間が好ましい。

 はしごを上り、屋根裏から倉庫へ。フィーリアの魔法で姿を見えなくしてから外に出る。アナに描いてもらった地図を元に、役人が使っていたという建物に向かう。

 十五分ほど歩き、目的地と思われる建物を見つけた。ただの木造建築だが、民家というより公共施設。人気もなさそう。

 フィーリアに合図をして中に入る。魔法も解いてもらい、部屋をあちこち探索する。

「ここか」

 探していたのは資料室。これまでの領主とのやりとりが残されているのを期待したのだ。フィーリアを呼び、二人で作業を始める。

 欲しいのは、税が重くなったという十年以上前の資料。それを一番最近のものと比較するのだ。

「シド」

 フィーリアが持っているのは十一年前のもの。最近のものと比べると、税の重さが二倍以上に増えている。変化が残されているなら、細かい日付までわかったほうが良いかもしれない。

 フィーリアに協力してもらい、税の量が変わったタイミングを探した。さほど時間がかかったようには感じなかったが、もう太陽が上り、すっかり朝になっていた。

「これで十分だ。戻ろう」

 もう外を歩いて帰れない。フィーリアの魔法で地下室にひとっ飛びだ。

「ありがとう」

 フィーリアにお礼を言って次なる作戦を練る。

「そうだ。今のうちに魔法石作ろう」

 力の魔法使いほど、魔法石に興味はない。自分の力があれば十分だからだ。だから、フィーリアがその方法を知らなくても無理はない。魔法石は一般的なものだが、その学問はマニアックなのだ。天然魔法石があれば魔法使いは必要なく、知識も必要とされない。それなら、なぜ俺が知っているかと言ったら、そもそも、魔法石の技術を考案したのは過去の、前世の俺だからだ。

 一通り基本知識と詠唱方法を教えると、あっという間に作れるようになった。これが天才というものなのだろう。才能というのは、とても強い武器だ。

 目的の魔法石が完成すると、フィーリアが俺に尋ねた。

「シドは作り方をなぜ知っているのですか?」

 魔法を使えない俺が、具体的なことまで知っていることに疑問を感じたのだろう。魔法はイメージの力で操る。そのイメージの仕方を教えられるのは実際に経験した者だけだ。

「知ってるだろ?俺の前世は、かの有名なイロアスだ。魔法だって得意だったんだから」

 フィーリアは、納得したような、していないような微妙な顔で頷いた。

「お疲れ様です」

 アナがはしごを降りてきた。夕食を運んでくれたのだ。今後の計画を立てているうちに夜になったのだ。

「ここから隣の村まで離れてるんですよね?」

 パンを飲み込んで尋ねると、アナが「はい」と答えた。

「明日は、領主の館とその近くの村を訪ねてみようと思います」

 アナに俺の考えを伝えると、解決に向けて話が進んでいくのが嬉しいのか、うんうんと何度も頷いた。

「フィーリアには、あるものを探してほしいんだ」

 別行動をすることになる節を伝えると、フィーリアは静かに「わかりました」と答えた。

「純粋な疑問なんだけどさ、ここ、誰が作ったの?」

 夕食を終え、就寝の準備をしながらアナに尋ねる。間もなく、

「緑色の髪の男性です。いつか必要になるだろうから、と」

と答えが返ってきた。

「…動物のお面つけてた?」

 緑色の髪と聞いて、すぐにピンときて、質問を重ねる。これにも、さほど考える様子もなく、

「はい。オオカミだったと思います」

と、言った。ここで、フィーリアも察し、俺が、以前会った、といっても会話もしていない、エルピスという男が裏で動いていると考えていると理解したようだ。

「まさか」

 小さくフィーリアが呟いた意味はよくわからなかったが、彼女とエルピスという奴が何かしら繋がっているということを示唆しているようだと思った。尋ねてもきっと答えてくれないだろうけど。

「おやすみなさい」

 アナと挨拶を交わし、はしごを上る姿を見送る。フィーリアに翌日の動きを確認して、落ちるように眠りについた。


「フィーリア、準備は?」

「できてます」

 朝、アナの用意した朝食を食べ、聖堂のホールに移動した。瞬間移動のためだ。地下室は魔法を使うにはやや狭かったのだ。アナが見張っててくれているから、人は来ないはずだ。

「コープスト・モノ・コーロス。シデンスト・ジ・コーロス」

 詠唱を始めると、周りが光に包まれ、気づけば見知らぬ土地に立っていた。ここは、遠視で見た場所。見たことのない場所に飛ぶことはできない。少し使い方は限定されるが便利な魔法だ。

「それでは、後ほど」

 フィーリアが魔法で姿を消し、館に向かう。俺は、ここから一番近い村に向かった。

「こんにちは」

 村に入ってすぐに出会った人に声をかける。

「はい」

 ここでは無視されないようだ。ほっと息を吐く。

「旅をしている者なんですが、少しお話聞きたくて」

 そう聞くなり、畑仕事をしていた男性は嫌そうに眉間に皺をよせ、「他を当たってくれ」と言った。

「良かったら、手伝うので」

 土いじりはなれている。手伝いを申し出ると、渋々といった感じに質問に答えてくれた。

「税が重くなったのは十年ほど前だったりしますか?」

 この村でも税の取り立てが激しく、苦労しているようだ。この男性も、広大な土地を一人で管理しなければならず、働き詰めらしい。

「いや、だいたい五年前だよ」

 五年前。トリトスが魔族に脅され始めたという頃か。これは、繋がりがありそうだ。

「じゃあ、国の方から視察が来た時はどうするんですか?こんな違法な課税、誤魔化せませんよね」

「人口を誤魔化しているようなんだ」

 人口を多く伝えてれば、課税できる。取り分は少なくとも、母数が大きければ良いという考えだろう。

「視察は?」

「その時だけ、近くの村や町から人を連れてくるんだよ。んで、俺たちも、呼ばれたりする」

 なるほど。一人ひとりの顔はチェックしない。必要なときだけ人数を増やすのか。

「どうして従っているんですか?使節に告げ口することもできるでしょう」

「金をもらってるし、何より、従わないと魔族に襲わせるって」

「魔族?」

「ああ。実際に誰かが歯向かったから、魔族に襲わせた村があるって聞いたよ。それで、そこは壊滅したって噂も」

 男性は、腰を伸ばしてストレッチをする。ずっと同じ姿勢は辛い。

「どこの村ですか?」

「どこだっけなぁ。たしか、トリトスとか」

 作業を再開した男性の返答に驚き、納得した。

 トリトスは、他の村では見せしめに滅ぼされた村として認識されている。もう無いものとして扱われているのだ。

 収穫した野菜を運び出す男性を引き止めて、笑顔を作る。

「実は、ここへは、この村を救うために来たんです。よろしければ、協力していただけませんか?」

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