プロローグ?
「これでどうだ!」
剣を中段で構え、こちらに走ってくる男。
男がスピードをつけ、剣を高く振りかぶる。このままいけば、剣は確実に体を切り裂く。
「勇者様!」
悲鳴のような声。後ろにいる女の子だ。会ったばかりで名前も知らない。
剣が振り下ろされようとしているのに、動こうとしないのを見て、危ないと思ったのだろう。だがな、さっきも言ったけど、
「俺は、勇者じゃないって。」
息を吐くように言って、持っていた剣を腰のあたりで構える。それを勢いよく下から振り上げ、男の剣へとぶつける。
キィンー。
金属がぶつかる音が響く。
男の顔が重なった剣の向こう側に見える。その顔に少しずつ焦りが見えだす。
そのまま勢いを殺すことなく、剣を押し上げ、男の手から剣を抜く。
ザクッ。
飛ばされた剣は地面に突き刺さる。
人がいない所で良かったな。あんなもん上から降ってきたらたまったもんじゃないぜ。
襲いかかってきた男は腰を抜かして、その場に尻もちをつく。目の前にある顔を見ながら、
「お、おお、おまえ、何したんだ。」
声が震えている。
「普通のことをしただけだ。そうだな。違うとすれば、剣が少し丈夫だってことかな。」
「剣の問題じゃないって、絶対。」
返答を聞いて顔を青ざめる。驚愕しているようだ。
「そういえば、連れは?いいのか?」
男とつるんでいたらしい他の男二人の姿はもうない。逃げたみたいだな。仲間をおいて。
「あ、あいつら…。」
男はゆっくり立ち上がり、キッと一睨みしてから背を向けて走って行った。
「すげー!」「やっちまったよ!」「よくやったな!」「圧倒的だったよ!」「おまえ強いな!」
周りで見ていた人達が口々に賞賛する。
「勇者様、ありがとうございました。」
後ろにいた女の子だ。深々と頭を下げる。
「あのさ、さっきも言ったけど、俺は、勇者じゃない。」
「いやいや、ご謙遜なさらなくても。そのお力、勇者様でお間違いありません。」
冗談だと思っているらしい。
「印がございますでしょう?」
印というのは、運命印のことを言っているのだとすぐに理解できた。
女の子と、その子が勇者だと勘違いしている男の間に割って入る。
「ああ、印なら、ここに。」
俺は、グローブを外し、手の甲を見せる。
女の子は、訝しむように、手の甲をまじまじと見る。
「勇者の運命印だ。」
俺は、胸を張りながら言う。
「えーーーーーーーーー!?」