さかな
鮭は、毎年同じことを繰り返す。
時期が来れば上流へと昇り、子どもを産み、そして力尽きる。死ぬと分かってはいても、決してその習性が変化することはない。毎年おおくの死骸が、川を銀色に染め上げる。そこには決められた円周率が並ぶように、寸分の狂いもなく動き続ける遺伝子のみがある。
水槽に入れられた魚は、今日も決められたとおり、45度へ降下し、一度並行に動いた後、また45度で上昇する。吐く息、酸素を送り出す機械が発する音。海藻が静かに揺れることでさえもすべてが計算されつくした世界。
僕は今日もストレッチを終え、水へと飛び込む。毎回、ほぼ垂直に水面へと入り、どぷん、と鈍い音を立てる。僕の鼻、そして水着の中から勢いよく空気が吐き出される。ごぼごぼと音を立て、上昇していく気泡が太陽に照らされて煌々と光っている。その光さえも計算されたものだと知ってはいるが、とても綺麗で、ついつい手を伸ばしてしまう。人類は思ったよりも本能に逆らえないのかもしれない。
プールの底に到達すると、決まりきったようにざらざらした感触が足を舐める。枯れ葉や砂利が浮き上がって、ゆっくりと落ちる。
光がゆらゆらと揺れる水中は、まるでゆったりとして時間の流れを僕に見せてくれているようだ。
「なあ、この後どうする?」
プールから上がった僕に話しかけてきたのは、唯一の親友である真だ。
「どうするって、決まってるだろ。ちょっと確認してみる。」
「まあな、たぶんお前は例のカフェに行って、アイスコーヒーを頼むんだろうな。」
「失敬な。今日は今から帰って夏休みの課題をしなければいけないらしい。というわけで、今日はパスだ。ごめんな。」
「いいよ。わかってたことだ。俺はいまからデートするみたいだしな。」
「おいおい。君こそ楽しそうじゃないか。」
「何言ってるんだよ。どうせ、回数は同じなんだから。どっちにしても、いずれは訪れるってことだよ。」
「とはいえ、高校生の夏にデートをする方が後々に訪れるより、幾分か価値がありそうだけどね。」
「それは人それぞれだろ。おっと、こんな時間だ。早く行かないと。」
「いってらっしゃい。またな。」
「ああ。また。」
急いで駆け出した彼の髪の毛から、水が飛び散って地面に小さな鏡を作った。照り映える8月の空は、どこまでも透き通って、永遠に続くように広がっていた。




