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回転木馬の道化師

 薄暗い路地で消えかかり点滅している街灯が男女二人を照らしている。


「何だか如何にも出そうな雰囲気なんですけど」

「だねぇ。実にオカルトチックな感じ。この辺はまだLEDじゃないからなぁ」


「ちょっと怖いわ……」

「おいおい。九尾くびさん、どの口が言ってるんだ?」


「うふふ、どの口かしら。あと九尾はやめて。私は尾崎おさきよ」

「拘るねえ」


 駐車場に向かう二人。それを追う視線がある。


「あ、もうここから……」

 妖気を感じる。だがそれ以上に匂いだ。悪臭が辺りに立ち込めている。

「思ったより強い力だ。見てみな、あれ」


 細長い風船を捻って作った黄色い犬が夜道に落ちている。


「虎穴に入らざれば虎子を得ず」

「虎穴に入らずんば」


「昔はこう言ったのよ?」

「現代国語は大切だ。しっかし、今日あんまり乗り気じゃないんだよなぁ」


 そう言いながら歩みを進める二人。


 一歩先に出た真白の足が地面を踏みしめた瞬間だった。

 突然、辺りが回って見える。童話の世界の様な馬車や馬が上下に揺れていた。


 驚く事に二人は一瞬にして夜のメリーゴーラウンドの床に立っている。

 キラキラと星のように電飾が煌めき、造り物の馬が一定の規則正しい上下運動を繰り返していた。


「おお。綺麗」

「私、これ初めて乗ったかもしれない」


 風は感じるが不思議な事に真白の髪は微動だにしない。この風は妖かしなのだろう。


「言われてみると俺も同じく初回転木馬だ」

「低級な食人鬼にしては意外と術に丈ているわね」


「だな。正直驚いたよ。もういいから早く出て来いよクラウン、いやピエロ」

「道化師、小丑」


 何処からか聞き障りの良くない笑い声が聞こえた。


「小丑って中国語だろ?さっすが大陸には詳しいな真白」

「ねえ、八岐さん。何回も言うけど、私は中国のお姫様を誘拐したり印度で暴れたりしてないわよ。あれは誤解、捏造よ」

「うん。知ってる。お互い捏造には泣かされるな」


 中央にある回転体の柱から、奇抜な衣装を身に纏い、派手な化粧を施した異形が覗き込んでいる。


「ほらな。ピエロだ」

「そうね。涙印が見える」


 その道化師は瞬きをした一瞬で床面にいた。正確には床から顔を半分出していた。

 そのまま顔を出し切ると手を着いて身体全体を出し、足を掛けて床面に昇った。まるで床に空いている穴から這い出して来た様だった。


 無論、穴など空いてはいない。


『我ガ遊園地ニヨウコソ』

「あ。しゃべっちゃうんだ」

「うん。まさかよね……てっきりパントマイムだと思ったわ」


『ソレハ、貴様ラガ決メタ事。思イ込ンデイルダケノ事』

「で、俺達は何をされるんだい?赤鼻さん」

 八岐が上下する馬を触りながら言う。


『楽シイ時間ヲプレゼントスルヨ。手品デモ見セテヤロウカ?』


 赤い髪、赤い鼻、白塗りの顔。目元には涙のペイントがしてある。

 しかし、それは異形が化粧をしているという事が、誰の目にも明らかにわかる容姿であった。口は耳まで裂けていて、そこから覗くのは歯ではなく不揃いで汚れた牙のそれだった。


 腕の長さもかなり長く指先も人間の爪ではない。


 その長い腕で空中を掴むとボーリングのピンが異形の手の中に現れた。ほぼ同時に反対の手でも同じ事を繰り返す。

 二本のピンを宙へ投げるとそれは四本になり、再び投げると更に倍になった。


「何が手品よ、妖して喰らうつもりのくせに。青二才の人食いが」

「まったくだ、若造。そんな術くらいで偉そうに」


『ナンダト、何者ダ、オマエラ』


「うふふ、別にわざわざ教えないわ。名乗る必要ないもの」


『大口ヲ叩クナ。ソノ手足ヲ引キ千切ッテ、遊ンデカラ喰ッテヤル』


 その異形の道化師はジャグリングしていた八本のピンを当たり前の様に宙に浮かべた。見るとそれぞれのピンから鋭利な刃物が生えてきている。

 ほんの少し間を置いて異形が手を振りかざすと、宙に浮いていたピンは一斉に真白へ目掛けて飛んでいった。


 真白が少し笑った様に見えた。







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