方程式の温度を猫に計らせてはならない。
冬純祭用に短編としてチューンナップした、空想科学探偵の1エピソード(14話)の別バージョン。
他の作者さんたちを感想でサンドバックにしているので、反撃用に何か置いておかないのはフェアじゃないだろう、というのが第一。
もちろん、いつも通り『自分の作品が一番面白い』ってメンタルの人間なので、袋叩き大歓迎です。
誰かが云った。地球の中で限り有る資源を奪い合うことが賢いと思うのならば、宇宙へ行く必要など無いと。
誰かが云った。今巨大隕石が落ちてくる確率はゼロに等しいが、十年後、百年後、千年後、いつかきっと確率はゼロから遠退いて行く。
誰かが云った。地球は青かったと。
ある学者は云った。箱に猫を一匹入れる。箱の中にはラジウムとそれを計測する機械、ガス発生装置を入れておく。
もし、計測機がラジウムを感知してガスの発生装置が作動したらガスを吸った猫は死ぬが、ラジウムを感知しなければガスは発生せずに猫は生き残るだろう。
さて、それでは、果たして猫は生きているか死んでいるか。
それは、箱を開けなければ分からない。
ある国のある指導者は云った。この十年で月まで人間を送り安全に帰還させる。それは簡単だから行うのではない、困難だからこそ行うのだと。
そして、アポロ一一号は月へ行き、帰ってきた。
この物語は、その後の十年で火星へ人を送る道を拓いていたであろう大統領が暗殺されなかったという当然の歴史に基づく、真実のフィクションである。
太陽系宇宙から最も人間の居住に適さない星を選ぶのならば、それは紛れもなく太陽そのものでる。
命を育む紅炎は近付こうとする全ての物を慈しむ愛の熱量は百万度。どんな金属でも蝋でできているように蕩かしてしまう。
では、地球以外で最も人類の居住に適した星はどこかと云えば、それは火星だ。
太陽とは違って全く燃えていないどころか地球の何度目かの精密検査で内部には多量の水が有ることすらわかったが、その中で地球人はとある疑問を持った。
どうやって火星の内部に水を内包しているのか。
地球は大気という皮膚の下を、重力という心臓を用いることによって、生命が存続しうるに十分な水を循環させているが、火星にはそのどちらも不足している。
水が内部まで浸透しているということは、表面に出た水が宇宙空間に揮発せず、内部に残留できたことを意味し、火星も以前は地球と同じく皮膚や心臓を持ち、生命が循環を行うに足る機能を有していたはずである。
その機能がなぜ失われたか? その答えを出せないままでも、全地球は火星蘇生に乗り出した、
惑星の蘇生は人間を生き返らせるより幾分か楽だった。地球が火星の蘇生に手を尽くした結果、それは困難を極めはしたものの成功した。
「ねえ、真助? 今、良い?」
「作業中」
この建物は火星で何度も起きた戦争中に建造された。
地下まで伸びる塔は頂上から火を噴く兵器として造られていたが、今となっては根を伸ばして水脈を掘るボーリング基地。
宇宙飛行士がただ行って帰ってくるだけだった時代は終わり、一般人が地球を出て外で生きていくことが珍しくなくなった西暦一九九八年。
ツナギをペアルック代わりにするこのカップルは水を掘っている。
火星に含有する水の多くは地中に残留しており、地球で石油を掘るように火星では水を掘っている。
砂の嵐に晒されている塔の最上階から、地下に放たれた掘削用のロボットを操作し、水脈の位置を探してそのデータを送る。角度を間違えば水脈を探し当てることはできない。
火星より幾分か潤いがある男――倉森真助――は、若さで血走った目を計器に向ける。ご存知の通り、血は燃えるのだ。血潮は熱を帯びている。
野望を持ち、若さをそのための原動力とする若者はトップギア以外を知らず、その熱量は見る者をたじろがせることもあるが、青年を見つめる女――須古真冬――の目は輝いていた。宝石でも見つめるように熱に中てられるように照り返している。
「……入射角が甘かったか……一台は戻らせる。一二番だな。トルクが落ちてるか、ジンバルロックかもしれない。今すぐ見に行ってくれ、真冬」
「それはエンジニアのあたしが判断するから。真助、その前に話、良いよね?」
「いや、急いでくれ。ふたりしか居ないんだし……いや、分かった、先に話せ」
真助は必要以上に弾んでいるパートナーの語調を察した。真助は真冬が怒っている姿を観たことが無い。それより前に特上の笑顔を見せる真冬の不自然さに気が付き、いつも真助が折れるからだ。
「ありがと。ねえ、新しい本、買っても良い? 電子書籍」
「……この辺りの通信料単価は知ってるだろ? 最小限にすると決めたのはお前で、摂生すればウェディングドレスをレンタルじゃなくてオーダーで作れるくらいになる、とまで云ったのもお前だ」
「どうしても、これが欲しくて。分からなくて」
真冬は端末にネットカタログのページを表示させて真助に手渡した。このページを閲覧するだけだってカネが掛かってるって云うのに……真助はそう思いながら受け取り、商品情報に目を移すと目は彼方を向いた。方向的には端末を覗き込んでいるのだが、凝視する瞳は端末を貫くようにその向こう側に向いている。
表示されている電子書籍のタイトルは“祝福溢れる赤ちゃんの名前辞典”だった。
「……マジ?」
はにかんで肯く真冬に、真助は言葉を失って端末を机の上に置いた。
不安と期待で空気が淀む中、真助は引き出しを引っ繰り返してビロードに包まれた小箱を取り出した。中身は銀細工がキラリと光るシンプルなデザインのブライダル・リング
「……この仕事が終わったら買うって云ってたよね」
「それは俺とお前で稼いだカネだし、やっぱり違うかなっていうか、俺のカネで買わないといけないっていうか……子供が出来たなら渡さなきゃってか、この前に見た土星の輪よりショボいけど……」
そこまで聞いた真冬が顔を押さえて押し黙ると、沈黙を嫌うように真助は言葉を紡いだ。
「あと、名前も考えてたんだ。俺もお前も名前に“真”の字が入るだろ? だからあえて、息子だったら翔助、女の子だったら冬美……でどうだ? 真じゃない方ってことで」
「……」
「……」
乾いた風が窓を揺らす音が漏れ込んできたが、ふたりの耳には自分の心臓が叩く音だけが五月蠅かった。
エンジンのようにドッドッドと震える真助の手は、汗と工業油をツナギで拭ってから心臓に従って彼女の肩へフルアクセル……だったはずだ。
「ごめん、一二号の整備だよね、行ってくるね」
無骨な真助の腕の中から小さな肩は抜け出してエレベーターへと走っていった。
納まり所を無くした手でボリボリと頭を掻き、指輪はポケットへ。
「ムードが読める女じゃ、なかったっけか」
ガッカリしたような安心したようなまま、机上の“祝福溢れる赤ちゃんの名前辞典”のページを開いたままの真冬の端末を端に寄せ、真助は仕事へ戻った。
「はああああああー! 焦ったぁああああああ! あああ、もおおおっっ!」
真冬が真っ赤になっていたのは、このエレベーターが落ちるような高速で降下する加速度のせいだけではなかった。
幼少期に知人にリンゴのようだと云われてからコンプレックスになっている生来の赤面症。真冬はこのコンプレックスを未だに真助には知らせておらず、耐えられないときは今のように抜け出すか、無理に笑って意識を反らすようにしていた。
夫婦になるのなら隠し事は好ましくないと真冬は確信してはいたが、それを伝えて嫌われるもしもまで考えてしまう。悪魔がささやくのだ。“結婚してしまえばこっちのもん”だと。
真助が赤面症くらいで自分を嫌いになることはないとは思っていても、先延ばしという悪魔的な安寧が誘うのだ。
「カッコ悪いお母さんで、ごめんね」
自分の腹部をさすりつつ、思い立つ。この子を産むときはきっともっと真っ赤になってしまうし、その顔を見られてしまうのではないかと、だがしかし、仕事人間だから出産時にそもそも立ち会ってはくれないのではないか。
いささか早いマリッジブルーで顔の赤みを希釈させた上で、エレベーターは地下一キロメートルの第五ブロックに到着していた。空調は効いていても息苦しさを感じるが、地上の錆臭さに比べれば幾分か過ごし易いと真冬は思っていた。
既に一二番の掘削機は土砂と一緒にフロアまで戻ってきており、真冬はエレベーター横のラックに掛けてあった工具ベルトを腰に回し、カバーを取り外し、パーツを丁寧にひとつずつチェックしていた。
異常が無いことを確認すると、工具ベルトのホルスターから銃のように工具を引き抜く。抜き方も銃ならこのタッカーガンという工具は形状も拳銃のようだった。位置を確認して安全装置を外してトリガーを引く。
弾丸こそ出ないがホッチキスのように針が飛び出し、カバー同士を継ぎ合わせ、地面に入ると地熱と圧力で一体化する。
異常が無かったことを真助に伝えるべく端末を探すが、上に置き忘れたことを思い出し、エレベーターに目を向けると、エレベーターの階数表示が動いている。
ホルスターにタッカーを戻しながら、真冬は妙な胸騒ぎがした。いつも真助が下に降りてくることはない。エンジニアは真冬の方でここはエンジニアの仕事場だからだ。
高速エレベーターが到着したとき、ドーンと制動でワイヤーが鳴り、フロア全体が少し揺れ、真助が血相を変えて飛び出してきた。
「真冬ッ! 伏せろ!」
「危ないよ、真助、なんか揺れてるよ!」
そう口にしてから冬美は気付いた。エレベーターが完全に止まっているのに僅かに揺れているどころか、揺れはどんどん大きくなっている。“エレベーターの衝撃なんかじゃない”
「真冬ッ!」
真助に覆いかぶさるように真冬を押し倒し、そこで真冬の意識は消失した。
次に真冬が目を覚ましたとき、周囲は激変していた。
停電と低迷。傾いた天井と崩落した壁を照らしているのは頼りない非常灯だけであり、その明かりの横からはチョロチョロと水が染み出していた。
地下一キロの深さの衝撃によく耐えたと真冬は思ったが、軍事用に堅牢に建設された建物で、かつ重力が地球の三分の一しかないはずの火星だったからであることも察し、そして意識を失う寸前、自分の近くに居たはずの真助のことを思い出した。
「これって……真助!? どこ!」
「騒ぐな! そこに居ろ!」
「どこに居るの!! 無事なの!」
騒ぐなと繰り返しながら、真冬の目の前に現れた真助は両肩に大仰な人型をした宇宙服を担いでいた。
「これ、どうしたの……?」
「宇宙服。水宙兼用モデルで水中作業もできるからと備え付けてたヤツだ。ふたつだけ置いてただろ」
「そうじゃなくて、これ、どういうことなの? なんで崩れてるの? また戦争が始まったの?」
「地震だな。さっき、一二番が不調だと云ったが……異常なかったろ? あれが不調だったのな、地震が起きる寸前のベータ波だったらしい……気付くのが遅れたが、な」
淡々と話す恋人の言葉に真冬の不安はむしろ煽られていた。
「でも、地震なんて……! 火星は地震がない星だったんでしょっ?」
「人間の知る限りな。プレートの断層活動が無いから地球に比べて地震が起きないし、火山噴火もないはずだったが……その調査もせいぜい四〇年程度だ。地球でもザラだろ? 一〇〇年に一度の地震なんてのは?」
「でもっ、そんな、それが、なんで……」
「起きたことは仕方ない。それよりも、今、息苦しいとは思わないか?」
真冬はその言葉に、自分の焦燥の根源を知ることになった。電気が止まれば空調は止まり、天井が落ちるようならエレベーターのような道も潰れているだろうことは、誰にでも分かる。
「エレベーターや非常用ドアも塞がっていたし、掘削用のマシンもバッテリーが足りない、お前、何か爆発できるような工具はないか?」
手持ちの工具の一覧が真冬の中で高速ベルトコンベアに乗って流れていくが、そのどこにもこの状況を打破しうる道具は無かった。電源が無くては動かない道具ばかりだった。
その返事の代わりに真冬が選んだ言葉は質問だった。「救助は期待できないの?」と。
「来るだろうな。だが、ここは地下一〇〇〇メートルだ。何日掛かると思う? エンジニアとして計算してみてくれ」
「……あたしたち、死ぬってこと?」
「違う。これ、見ろって」
云いながら真助は担いでいた宇宙服を静かに置いて後部に取り付けられた酸素ボンベに目配せをすると、真冬の表情が一瞬明るくなった。一瞬だけ。
「これ……だけ?」
「だから、エンジニアとして計算してくれと云った。ここの倒壊は既に近くの観測所にも気付かれているだろうが、他の地点の震災被害が小さくてここまで迅速に重機を派遣してくれたとして、他の階層に俺たちが取り残されている可能性も考慮されるだろうから爆破などの救助は期待できない。地道に掘り進むだけで……何時間だ?」
「……最速で、七〇時間から八〇時間くらい……?」
「さすが相棒。俺も同じような計算結果だった。だが、この宇宙服の酸素ボンベは一つに三六時間分の酸素しか入ってない。そして部屋の中の空気は既に大分薄くなっているし、あと何時間も……」
「大丈夫だよ! ふたりで頑張れるよ! 大丈夫だから!」
真冬自身も気付かなかったが、その顔は真助に見られるのを避けていたリンゴ顔。その目からは涙が伝っていたが、真助は言葉を変えることはしなかった。
「……ボンベをふたつを使って七二時間、ギリギリ助かるかもしれない……そう、“ふたり”でなら頑張れるな」
真助の目は、真冬の腹部へ向けられていた。意味を察したとき、真冬は紡ぐ言葉を持たなかった。
「俺じゃない。生き残るべきは俺じゃないんだ。俺がこの空気を使うってことは、お前とお腹の子のふたりを殺すってことだ。だがお前が空気を使えばそれはお腹の子を助ける、ってことだ。分かるな?」
「分かりたくないよ! やだよ! もっと絶対にあるよ! ふたりでじゃなくって、皆で助かる方法が絶対あるよ! 探そうよ!」
“ふたり”と“皆”の意味が違っていることが、ふたりの心の琴線を引きちぎる。
内臓ごと感情を吐き出すような真冬の言葉に、真助は脳髄をすり減らすような大音声。
「探したんだよ! お前が意識を失っている間、できることは全部やった! だが無かったんだっ! 頼むから! 分かってくれっくれ、っよ!」
それまで毅然と話していた真助が初めて膝を折ったが、それに対して、真冬の心は冷静さを取り戻していた。
愛し合うふたりは天秤のような性質を持っていた。どちらかがパニックに陥ればそれを支えようとする性質。これまでは真助が平静を装っていたことで泣くことができていたが、真助が崩れたことで急速に自我を取り戻していくのを感じた。
水掘りという仕事に夢を見ていた真助。大金を稼いで皆で幸せになれると信じていた真助。夢を語るときは子供のようだと思っていた真助。今はただ子供のように泣きじゃくる真助。
真冬は、熱い涙が体の芯まで染み込む熱伝導によって、心のエンジンに急激に力が戻って腹の中まで届いた。感じていた。生きる手応え。生きるという信念。
「泣かないで……分かった、分かったから……真助、泣かなくて良いから……」
長く短い永遠の抱擁、長々と抱き合っている時間はない。その間も空気は減っていっていた。
涙を拭った真助の表情は、真冬の見慣れたいつもの表情だった。
「真冬、タッカーガンを貸してくれ。即死できないと無駄に酸素を使うし……長いのは辛い」
「……うん」
だがしかし、真冬はホルスターに手を伸ばしたところで、ふと気付いた――というより、“悪魔”が囁いた。
悪魔としか云いようがなかった。なぜ気付いてしまったのか。気付かなければ少なくとも苦しまずに済んだ。【もしも真助が自分を撃ち殺したどうなる?】
「……え?」
何を馬鹿なことをと考えを打ち消そうとする。
【殺すつもりなら自分が目を覚ますまでに絞め殺すこともできたはずだ】と悪魔に反論する。
悪魔は云うのだ。【真助は真冬が目を覚ますと“ふたりで脱出できる方法は無いか?”と訪ねた。起死回生のアイデアに期待していただけではないか?】
【そんなことない、そんなわけはない、真助は自分と子供を守ろうとしてくれているではないか】
【さっきまでは宇宙服が四着以上発見できる可能性も有った。ここまで真助が死ぬと云っているのは真冬からタッカーを奪うための演技なのではない?】
悪魔の疑惑が止まらない。Aの箱とBの箱の間を疑問の分子を悪魔が運んでしまい、決断の熱量を揺るがした。
自分は死ぬわけにはいかない。今、覚悟したはずだった。生き残る。お腹の子のためにも生き残ると決意させてくれた真助が殺そうとしている可能性を否定できなかった。
「真冬? お前は生きなきゃいけない。空気が無いんだ。タッカーを早くしてくれ。死体が見えない位置で死ぬから……呼吸は一定を保てよ」
今まで信じていた真助の言葉が、悪魔のささやきからずっと信じられなくなっていた。全てタッカーを奪い取るための演技にしか見えなくなっていた。
いつまで経ってもタッカーを渡さない姿、そして表情から真助は真冬の考えを察するに至った。
「……バカなことを考えるな。俺にタッカーを渡してくれ。お前に“俺を撃ち殺した”なんて思いを持って生きて行って欲しくないだけだ! 俺は必ず自殺する、信じてくれ!」
切羽詰まっている。真助は焦っている。しかしながらそれが空気が二倍で減っていることに対する焦りなのか、真冬に対して殺意を抱いていることを悟らせまいとしているのか、真冬には区別ができなかった。
悪魔は冷徹にAの箱を見せる。
【真助を信頼するならば拳銃を渡して、彼の自殺を促せば良い。真助はきっと自殺するだろうが、嘘なら死ぬのは真冬と子供だ】
悪魔は冷酷にBの箱を見せる。
【自分と子供の命を第一にするならば、ここで真助をタッカーガンで銃殺すれば良い。しかし、そうすれば真冬は真助を信じずに直接手を汚したという十字架を背負って七二時間、死体と一緒に過ごす】
子供のために生き残ると決意した。だが、子供のせいで愛する人の命を奪うと責任転嫁しようとしている事実からも目を背けなくなっていた。
唾棄すべき自分の性質、子供を守って生きるという輝かしいはずの決意が心の闇を直視させる。
箱は開けなければならない。箱を前に悩む時間など、すでに残されていない。
七二時間で救助が来るとは限らない、救助が七四時間かもしれないし、七五時間かもしれない。ならばこの部屋の空気も貴重であり、それを真助に一秒でも吸わせている時点で彼への裏切りなのだ。
三人で死ぬという物や、奇跡を待って全員で生き残るという希望的観測にすがりたくなるが、そんな天使の選択は存在しない。箱には悪魔しか居ないのだ。
シュレディンガーは云う。箱は開けなければ猫が生きているか死んでいるのか分からない。
冷たい方程式、そしてどちらの箱に真実が入ってるのか、その熱量を計れる猫はいかんとして猫舌なのだ。
決断の先には悪魔しかいないと、マクスウェルはただ、笑っている。
冬純の企画として、主題を書くと良いらしい。忘れてたけど。
主題としては『できることをやってみよう』でした。
ベースは書きかけだった連載空想科学探偵から1エピソードを短編として読める形に仕上げて見た形。
今まで84gの作品は読者が付いてこれない話、が多すぎたので、誰でも読める大衆SF、を目指してます。
これは空想科学探偵も同じですね。シンプルなテーマ、それでいてSFの楽しさを伝えられる作風。
んで、元から『シュレディンガーの猫』がテーマだったこともあり、それに、
『冷たい方程式』と『マクスウェルの悪魔』を追加しています。
SFは既におおよそにおいてネタが出尽くしているところも有りますが、既存の物を組み合わせれば新しく、それでいて読みやすい物になるんじゃないか?と。
……お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、既に暴走が始まっています。
当初の『大衆向けSF』からかなり遠退いています。オイオイ、という感じです。
頂いた感想を見直してみると、成功しているところもあり、失敗しているところもあり。
しっかりと成長できる形跡は見えたので、企画の意図としては良かったのかなぁ、とも思っています。