エピソード1‐4 物語はかくしてはじまる
今に襲い来るやもしれない脅威に対して自衛する手段は限られてくる。
非常時に戦える人材は多ければ多いだけいい。
都立学院エヴェロヒカは、その為の教育機関だった。
たとえば、前線に出て脅威と向き合うことができる者、混乱を来さないよう情勢を把握し伝達できる者、負傷者を救う技術を持つ者。
必要とされる人材は多岐に渡る。故に規模は自然と大きくなっていき、それに伴い人材の育成は急務とされた。
求められていることは誰にだってわかっていた。
しかしそれは途方もない――途轍もない遠大な事業であった。
『厄災』直後、都市は半壊と言ってもいい程の有り様だった。人々の、日々の暮らしさえどうかという悲惨な状況。
一度は退けた脅威だが、明日には、一秒先には再び黒雲と共にやってくるかもしれない。
そんな恐怖や不安を抱きながら、人々は都市を再興せねばならなかった。
再生と滅亡は、まさに紙一重だった。
一人の指導者の存在。それこそがエヴェロヒカの命運を分けた。
『厄災』の折にも人々を守り、『厄災』の傷跡にも怯まず立ち上がった一人の英雄。
その名はグリウッド・ダズマン。
人々に語り継がれる偉人、『十英雄』の一人であり、エヴェロヒカにおいて最も尊ばれ敬われる人間である。
彼は絶望の前に跪くしかなかった人々に、希望を説いた。
彼が語る希望は人々を立ち上がらせた。彼が指し示した先には光があった。彼が歩いた道が、人々の道標となった。
彼は語って聞かせた。共に生きる人々に。
『生きねばならない。守れなかった人、救えなかった人、大切だった人達の為に、明日を迎えねばならない』と。