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エピソード1‐2 物語はかくしてはじまる
都市・エヴェロヒカは早朝六時に決まって鶏の鳴き声が響く。
領地の一角に大きな鶏舎を所有する大農家があり、もう何年も都市で暮らす人々を目覚めさせる大音声を鳴らしていた。
彼女、ミーア・ヴァルファもまた、黄金色から澄んだ青に移り染まる空を渡って届けられた鳴き声で目を覚ましていた。
上半身を起こし、窓の外へと視線を向ける。
朝特有のどこか透明感のある光景が寝起きで凝り固まっている心をやさしく揉みほぐしてくれた。
嫌な、否、悲しい夢を見た。それもただの夢ではなく、過去に自分を襲った悲劇の場面再生だった。
目が腫れぼったいのはそのせいだろうか。もしかしたら寝ていながら夢の辛さに泣いてしまっていたのかもしれない。
ミーアはのそのそと立ち上がって、室内の空気と共に気分を入れ換えるべく窓を開けた。
「……うんっ、いい天気!」