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契約

改行設定がおかしくなっていたので修正しました。

投降後すぐに気付かずすいませんでした。

3話 契約


「正式な契約?他の世界?」

「そう、契約」

少女は青年の問いかけにニコニコと答えてくる。

「私の役割は異世界同士をつなげるワタリの際に問題が発生した時の神判者だという事を言ったでしょ」

青年は少女からの問いかけに対して頷くことで返事を返していた。

(矢張りここは異世界というわけか。だが俺の魔法が発動する点から見て俺のいた世界に近い状態の様な点だけが救いだな。それよりも異世界か……。俺の血にはどうも異世界が付きまとう因縁でもついているのか)

青年は少女から得た情報に対して内心で大きくため息を吐いていた。

「あの状況から見てあなたは召喚に抵抗したんじゃないかな?」

「なぜ俺が抵抗したと言える」

「召喚陣が儀式を司っていた神官たちの神官の魔力を強制的に吸い出した痕跡があったわ。おそらく神官の魔力が吸い出されて枯渇して、そのまま王女さんの魔力も吸っちゃったんじゃないかな?だからこそ私も介入したの」

「儀式場所を吹き飛ばしていたくせに守護者であるかのような物言いだな」

青年は少女の言葉に対してややや棘のある言葉で返していた。たしかに状況を見ればブレス<竜の息吹>により召喚儀式に使われた周辺地域は吹き飛ばされていたのだ。

「だって召喚儀式を行っていたのが屋内だったから外からよく見えないじゃない。だから結界が壊れない程度の衝撃で見晴らしを良くしただけよ」

青年は少女の言葉に内心で引いていた。

思考回路が違いすぎるためだ。

先ほどまでの会話と契約により流れてくる情報から少女の持つ知識と経験は長い年月を経ている事が察しる事が出来た。

しかしどこか面倒くさがりな部分があるのか大味というかに力技に走るきらいがあるようだ。

「あともっと情報を出すとね、あの召喚儀式には魔力を増幅する触媒として私の鱗が使われていたの。だから完全とまでいかなくても何となく儀式の様子が解っていたわ。だから途中まで成功していた儀式が急に阻害され、最終的に異物が混在してきたのが解ったの」

そう言い放つと少女は、言い逃れは許さないとでも言うかのように獣の様な眼光で青年を見つめている。

「あくまで私の予想だけど貴方は本来の召喚者の身代りになったのね。そして身代りになるという事は貴方の近親者もしくは配偶者や恋人といった人が本来の召喚対象だったのでしょう?」

「フン」

少女のゆさぶりに青年はポーカーフェイスを保とうとしているのか、目を伏せ右手で口元を隠している。だが目元の表情から驚愕に近い感情を顕わにしていた。

「当たらずとも遠からずといったところかしら?まあ答えは聞いていないからいいわ。そしてここからは貴方の問題でもあるのだけれど、この世界で生きていくにも元の世界に変えるにも情報が必要でしょ?だから貴方の旅に私が従者として同行してあげると言っているの」

「貴様を信用しろという事か。仮に旅をするにしても俺には目的が無いからな」

「それも嘘ね。抵抗したという事は元の世界に帰る方法を探すはずよ。私も流石に帰還の魔法や儀式を知らないけど帰還の方法を知っているわ」

少女の言葉に青年はピクリと指が動いていた。

「一番簡単なのは召喚者の目的を叶えることね。でも今回はこの方法は使えないわね」

「俺が本来の召喚候補者ではないからだとでも言うからか」

「大当たりー!!この方法は召喚時に発生する世界からの祝福と呼ばれる加護の中に術式が組み込まれているの。故に正式な召喚手順を踏んでいないあなたはこの方法では帰れない」

青年の理解の速さに少女は楽しくなってきたのか笑顔が深くなっていた。

「そしてその加護の中には翻訳の術式が組み込まれているの。私の言葉、この辺りの国で使われているツェルベス語や、竜言語、そしてモンスターの用いている言語も全て自分の母国語に翻訳してしまうほど強力なタイプのがね」

少女の言葉に青年は驚いた顔をしていた。

その様な加護の存在故だ。

おそらく簡易な意識共有を行う術式でも埋め込まれるのだろうと予想していた。

「でもまあ問題もあって意識して言葉を発しないと自分の言葉も相手に翻訳されて伝わってしまうって使いどころが難しい術式なんだけどね。そしてあなたは私の情報を共有するまでこちらの言葉を理解していなかったし、あなたの言葉も私に通じていなかった。召喚されてすぐにこの特性を掴めるほど情報を得る時間もなかったはず。だからこそあなたには翻訳の加護が派生していない。故にあなたは本来の召喚者ではないという事が証明できるのよ」

青年はこの状況にため息を吐いていた。

自分は元の世界に戻りたい。

なぜならあの義姉の事だ。『自分の身代りになった義弟を助けるため』とか言って叔父叔母を動かし、残された痕跡を解析し、自分からこの世界に乗り込んでくる気がする。

いや乗り込んでくると断言できる。

折角助けたのにこちらに来られたのでは意味がない。

あの夫婦の事だ。

一緒にノリノリで義姉を送り込んでくるに違いない。

「確かに俺が本来の召喚者ではないことは正解だ。もっと言えば召喚呪文に引き込まれそうになった義姉を助けるために『身代りの法』を使って対象を切り替えた」

「やっぱり当たり!!その胸に浮かんでいる呪印を使っていたのね。そんな悪趣味な呪法が発達しているなんてどの世界の魔法使いもえぐいことするのね」

青年は少女の知識に舌を巻いていた。

自分に流された魔力は肘までだ。

己の魔力を媒介に解析を行ったとしても肘より内側の解析はされていないはずだ。

だが少女は青年の体に刻み込まれた呪法を一発で見抜いてきた。

この世界で自分の魔法が使える点からも魔法体系や理論が近いのだろう。

自分の胸に浮いている呪印から効果まで看破しているとは余程の知識を有しているのだろう。

「では俺の様に本来の手順から外れて召喚された者が元の世界に帰るにはどうすればいいか知っているか?」

青年の言葉に少女はうんうんと頷いている。

「私も知らない」

「ふざけているわけじゃないんだよな?」

青年の声がやや低くなるが少女は気にすることなくにこにこと笑いながら続ける。

「私にだって知らないことはあるさ。天竜とはいえ全知全能じゃないんだもの。だからこそ私と契約して旅をしようって言ったの」

「旅をして方法を探そうってことか」

「その通り!!一応補足しておくと、あなた以外にも非正規の召喚者が過去に何人もいたわ。その時は私の担当じゃなかったんだけど、この世界に骨を埋めた人もいれば元の世界に帰った人もいたらしいわ。だからその時の担当した天竜を探したり、元の世界に帰った人の痕跡を探して方法を推理しようってこと」

青年は少女の言わんとしている事を徐々に察してきた。

もし天竜同士のネットワーク等があれば『天竜を探したり』などと言わないはずだ。

おそらく天竜の絶対数が少ないのだろう。

ならば契約の前に確認せねばならないことは後一つだ。

「あんたと契約をしてこの世界を旅することに同意をする」

青年の言葉に少女はにっこりと笑うと左手を差し出してくる。

その掌には魔力が渦巻いており、左手の甲に刻まれた呪印が反応している。

おそらく相手の左手を取り合う事で正式な契約の呪印に切り替わるのだろう。

だがその前に確認する事がある。

「どうしてそんなにも俺に力を貸してくれるんだ?」

青年の問いかけに少女は驚いた顔をしたが、再び笑みの顔になった。

「一つは最初に話した通り天龍の掟よ。勝負を挑んで負けたら相手に服従して従う事。絶対強者としての竜種であり負けるわけがないっていう天竜の誇りを込めた掟なの。そしてもう一つは私が気に入っているこの世界を壊したくないからかな」

青年は少女の口から出てきた『世界を壊す』という言葉の意味が理解できなかった。

「この召喚儀式ってのは恒常的に行われるんじゃないの。だいたいがこの世界で対処が難しくなった問題が発生した時に解決策を求めて行うの。今なら魔王襲来の予言があったからじゃないかな」

「魔王襲来ってなんだよ。俺の所の世界では強大な力を持つ魔王や神王って名称の存在はいるが基本的に温和だぞ」

青年の言葉に少女は目を丸くした。

「貴方の所にもそんな名称があるのね。意外と世間は狭いのね。とにかくこの世界の魔王って存在なんだけど、いくつか種類があるの」

少女の言葉を纏めるとこうだ。

この世界では何百年かに一度魔王と呼ばれる存在が生じるらしい。

魔王には先天的な存在と後天的な存在の二種類があり、特に後天的な存在が問題らしい。

この後天的な魔王の由来を辿って行くと非正規の召喚者に辿り着くためだ。

詳しく書くと、この世界に召喚され何らかの形で絶望を味わった者が魔王に変貌してしまう傾向にあるらしい。

元の世界への帰還も叶わず、この世界にも絶望してしまい、最終的に世界への恨みを暴走させてしまい破壊の権化へと変貌してしまうというのが有望な仮説だそうだ。

つまり魔王襲来の予言に対する召喚の儀式によるカウンターというのは見方を変えれば未来の魔王を召喚してしまう可能性も孕んでいるのだそうだ。

だがその事実を知るのは一部の王家と上層部のみ。

故に今回の様に天竜といった上位存在の一部を儀式の媒介にして神判者という保険をかませているんだとか。

「だから俺に『世界に報復する権利がある』とか物騒なことを言っていたわけか」

「そういうこと。でも私としては色々な問題を抱えていてもなんだかんだでこの世界を気に入っているの。だから一緒に旅をしてわかってもらえたらうれしいと思ったわけ。それにあなたもこの世界が気に入れば仮に魔王になっても滅ぼそうと思わないかもしれないしね」

少女の言葉に青年は苦笑するしかなかった。

「魔王になるって言ってもなあ。成ろうと思えば成れる立場にいた者からすればいい立場とは思えないんだがな」

苦笑しながら発した青年の言葉は少女の顔を驚愕へと変化させていた。

「あんたと契約を交わす前に俺の事も一応話しておく。それが信頼の証みたいなもんだと思ってくれ」

青年は何かを決めたかのように先ほどまでの警戒心を捨てて情報の開示を行っていた。

「俺は元の世界でいう所の神王と魔王と呼ばれる存在の家系の末席に連なる者ではある。だが出自が少々特殊でな、継承権は所持していない。あと俺が使う魔法もその特殊な部分に結構触れていてな。細かく明かすことはできない」

青年の独白に少女は唖然としたが納得したかのような表情になった。

「そっか~。魔と神の混血の家系か。でも納得したよ。貴方が義姉の召喚をその呪印を使ってまで庇ったのかを。それに私の魔力を押し返したりできたのはそれが一因ってわけか。ますます気に入ったよ」

少女はますます笑顔を深くするとさらに左手を伸ばしてきた。

「俺の名前は後藤一輝だ。親しいものからはカズと呼ばれている。これから長くなるのか短くなるのかわからんがよろしく頼む」

青年は己の名前を明かした。

魔術師として相手を信頼している事を示すために本名を名乗った。

少女は神妙な表情になると

「私は偉大なるファフニールとリンドヴルムの娘、ブリュンヒルデ、気楽にヒルデとお呼びください。此度の契約をもちまして私は天竜の掟に従い死が二人を分かつまで貴方の配下となります。幾久しくよろしくお願いします」

と答え互いの手を取り合った。

その瞬間、互いの魔力が交じり合い、二つの光がリボンの様に結びついた。

互いの左手に同じ紋章が浮かび上がり黒から赤へと色を変えていた。

契約の呪印としてアクティベートされたのだ。

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