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身代りの召喚者

1話 身代りの召喚者


そこは巨大な中世・ヨーロッパの城に似た建物の塔。だが周囲にはその様な等に似つかわしくない光景が広がっていた。

荒れ地だ。荒れ地の中央に荘厳な塔が建てられているのだ。

そこにいたのは悲壮な覚悟を決めたかのような表情をした少女とそれを囲む白ずくめの集団。

白ずくめの集団は身にまとうローブは体の凹凸をかくし、顔をマスクで隠しており、そのマスクの隙間から漏れ出る音も歪であり男女の区別すらできない。

そして中央の少女は自らの指を傷つけ血を垂らすと床に置かれた杯へと一滴落とした。

その瞬間、床が輝きだした。否、正確に言うのであれば床に描かれた幾何学模様が輝きだしたのだった。

「我が名はツェルベス王家第一王女であるラライアなり。このガイアの危機において真なる救世を望む」

第一王女ラライアと名乗った少女の言葉と共に白ずくめから漏れてくる音がホーミーの様に複雑な音階へと変化していく。少女は必死に口伝されてきた呪言を一言一句間違いなく紡いでいくが、その声は周囲のホーミーにかき消されていく。

その場は一種のトランス状態に囚われているかのようであった。そしてそのまま最後に

「救世主の召喚を!!」

と叫んだ瞬間、魔方陣が一層と輝きをまし最早目の前の光景を直視する事すら敵わない状況であった。




ここはどこにでもありそうな住宅街であった。

ただ少し違うのは一軒家が立ち並び、その外見がやや奇抜なデザイナーズハウスである点だろうか。

つまり高級という冠言葉が着くタイプの住宅街だ。

そんな家から一人の青年が出てきた。ぼさぼさの髪、気だるげな眼からやる気を感じられない。

服装も有名ブランドではなくそこらの安売りで買ったと思われるチノパンにシャツとった姿であり周囲の光景に比べて浮いていた。

青年からは家を出るのも自ら望んで出るのではなくまるで義務だから行くというのを感じ取れた。

だがそんな彼は急に後ろに腕をひかれて振り向いた。

「カズちゃん、頭をしっかりと梳かさないとダメじゃない。それに『行ってきますのキス』は?」

「義姉さん、何度も言うが『ちゃん』付けは止めてくれないか。あと『行ってきますのキス』なんか一回もしたことないじゃないか」

カズちゃんと呼ばれた少年は女性から腕を振り払おうとするが関節を完全に極められているのか動かす事すらできない。

「もう、義姉さんだなんて。別に同い年だから名前で呼んでよ。それに愛する人から離れるときは一時の別れを惜しんでキスするものでしょ」

「昔は自分の方が早く生まれたから義姉と呼ぶようにと言ってきたのはそっちじゃないか。それに俺らは従兄弟同士。家族間での親愛はあるがそれはキスをするほどの物なのか?」

そう、二人は従兄弟同士。

両親が死んだ少年は叔父の家に引き取られ居候中なのだった。

「もー照れちゃって。カズちゃんシャイなんだから。従兄弟でも結婚はできるのよ。それに厳密に言えば血縁だって……」

青年はこのまま流されてたまるかと思い手首と肩の関節を外すことで女性の拘束から逃れた。

相応の痛みはあるが我慢できないわけではない。

この家の周辺には認識阻害の結界が貼ってあるため外から二人の姿は家の前で仲良く話し合う姿にしか見えないだろう。

故にこのまま叫ばせていてもいいのだが、このままでは遅刻コースだ。

だがその拘束を抜けた途端に女性の顔から水があふれ出していた。

「うえーん、私の大事なカズちゃんがぐれた~」

と泣き叫びだしてしまう。

嘘泣きであることは理解しているのだが、こうなってはもうどうにもならない事をこれまでの経験で悟っていた。

どうして両親の前では普通なのに俺に対してはこうも素の自分を出してくるのか。

悩んでいても仕方なく、ここで折れる以外に解決策を知らない。

だからこそ毎回彼女の望むがままに進んでしまうのだろう。

「わかった、するよ。行ってきます」

と頬にキスする。しかし彼女は不満そうに

「愛が足りないよう」

「愛してるよ義姉さん、行ってくる」

「キャー、カズちゃん私もよ。今日もがんばってねー」

送り出そうとした瞬間、彼女の足元から光が溢れ出し幾何学模様が描かれ出した。

その光景は正に光の扉のようであった。

「義姉さん!?その場から離れて!!」

青年の叫びと共に懐から出した黒曜石のナイフを5本投擲し、魔方陣の起点へと投擲した。

そのナイフにより魔方陣は縫い付けられたかに思えた。

しかし徐々に刃にひびが入って行く。

(おいおいウソだろ。コピー品とはいえオリジナルは神話時代の黒曜石だぞ)

青年は驚愕の表情を浮かべながらさらに追加で黒曜石のナイフを投げていく。

そして女性が詠唱を加える事で魔方陣を抑え込もうとした。

しかし急に魔方陣から溢れる魔力量が倍加した瞬間に全てのナイフが砕けてしまった。

二人の努力も一方的な力押しで破られたのだ。

「義姉さんごめん!!」

「カズちゃんダメ!!」

謝罪の言葉の真意を理解した女性は叫ぶが青年は止まらなかった。

青年は叫ぶと共に懐からカプセルを取り出し口に含むと胸に刻まれた魔方陣へと魔力を通した。

魔法の対象を他人へと移す禁断の呪いを発動させたのだ。

太古の昔、非力であった魔法使いが戦場でのサバイバリティを向上させるために開発した呪い。

奴隷へと自ら受けたダメージを肩代わりさせる呪い。

自らの血を相手の体に埋め込み魔法の対象を誤認させ、また血を媒介に肉体的精神的なダメージを全て受け流す。

しかし奴隷の精神力が高いと呪いを跳ね除ける危険性があった。

そのため性的、肉体的な虐待を行い廃人同然にしてから施されていたという。

その呪いを青年は自分から望んで発動させたのだ。

その瞬間、魔方陣は女性から青年の下に移動すると同時に光が収まった。

だがその場に青年の姿は無かった。

「今のは強制召喚のゲート……。一体誰がカズちゃん、いえ私を。それより私達を強制召喚できる人なんて私たち家族以外いないはず。一体誰が……」

女性は玄関に残された魔術痕と見えていた魔方陣から青年が消え去った原因を分析していた。

その姿と雰囲気は先ほどまでの青年に甘える姿はではなかった。




青年は警戒しながら周囲の気配を窺っていた。

目の前にはエタノール臭を漂わせる赤い液体の入った杯を間に挟んで少女が倒れている。

「酒に血を加えて全員の魔力を一極集中させて儀式のバックアップに用いたのか」

少女の顔色は青白くなっているが、致命的な状態ではないようであった。

そして周囲には白ずくめの集団が昏倒している。中には意識が混濁しているのか虚ろな瞳で宙を見上げながら失禁している者やエクスタシーに達しているのか体を痙攣させている者も居た。

彼らの共通点としてローブから出ている腕に異常に皺が寄っていた。

まるで乾燥させたミイラのようであり魔力を限界以上に絞り出した結果であることを示唆していた。

『GRUWOOOOO!!』

だがその様子を詳細に観察する余裕などなかった。

天空からの叫び声と共に周囲の建物が吹き飛んでいたのだ。

幸いにも自分のいた建物は屋根と壁が吹き飛ばされただけであった。

否、幸運によるものではない。

この場の結界が破壊から中にいる物を守っていたのだ。

だがこの一撃で結界が破壊される直前になっていた。

「おいおい、冗談だろ」

青年はその破壊の源を見ると巨大な西洋竜がこちらを見下ろしていたのだ。

まるでゲームの様な光景だが青年にとってある意味慣れ親しんだ光景でもあった。

青年が竜に対してある種の懐かしさを抱いていたが竜はその様な感情を抱いていなかった。

その瞳は狂気を彩っているのか赤く染まっておりこちらに対して敵意をむき出しにしていた。

そして更なる一撃で結界を破壊せんとしているのか体をのけぞらせた。

「おいおいブレス<竜の息吹>かよ」

青年は他人事のように呟くと結界から一目散に離れた。結界が標的であれば逃げることは可能だ。

その場合は結界内の人物を見殺しにするも同然だが、そもそも強制転移で呼び出してくるような輩に対して同情の余地はない。

『GRUWOOOOO!!』

だが青年のもくろみは外れた。

竜の瞳は青年を追っておりそのまま口を向けてくる。

そこには魔力の塊とでも呼ぶのがふさわしい禍々しい赤い色の塊が浮かんでいた。

そう、ブレス<竜の息吹>とは魔力の塊を圧縮しつつ己の属性に変換してぶつけてくる力技だ。

だが単純故に強力でもある。しかしそんな状況にあったも冷静であった。

「ヘイトの対象はあっちの集団じゃなくて俺なのか?それとも本能的に動くものを追う習性でもあるのだろうか?」

青年は体を深く沈めるとボールが跳ねる様に一気に前方に加速した。

そして目の前に見えた岩壁の後ろに駆け込んだ。

『GRUWOOOOO!?』

竜は岩壁のから飛び出してきた陰に向けてブレスを放ったいた。

しかし次の瞬間に自分を襲った衝撃に信じられないとばかりに叫び声をあげていた。

そうだろう。

先ほど自分のブレスで消滅したはずの青年が自らの翼を断ち切っていたのだから。

『GYAWORRRR!!』

竜は己を空へと固定する原動力を失い無様に地面へと落ちていた。

その光景に威嚇の声を上げていた。

そして自分が威嚇の声を上げたことに対して信じられないと感じていた。

今自分がどんな泣き声を上げたのか。

『威嚇』だ。

弱者が強者に対して身を守るための行為だ。

絶対的強者である竜という種族が挙げてはならない声だ。

本来であれば他の種族から向けられるべき声を思わず発していた事に対して怒りが込み上げてきた。

だがその怒りをぶつける事はできなかった。

「たかが蜥蜴の分際で生意気だ。蜥蜴は蜥蜴らしく地面に這いつくばっていろよ」

青年の声と共に両手両足に痛みが走っていた。

竜の四肢は地面に釘づけにされていたのだ。

比喩ではなく、多数の剣によって物理的に釘づけ、いや剣づけにされていた。

青年はその姿に憐みを抱くでも優越感を抱くでもなく、赤い波紋を揺らめかせた刀を手に近づいて来た。

『GYAWORRRR!!』

己の死に対する恐怖から再度威嚇の声を上げていた。

だがその青年は気にすることもなく近づいてくる。

唯一自由に動く首を動かしブレス<竜の息吹>をチャージしたが、青年が手に持つ赤い波紋を揺らめかせた刀で切られると魔力が霧散していた。

『GRRR』

その光景に対して竜はもはやうめき声をあげることしかできなかった。

自分は絶対的強者であったはずだ。自分を越える者があるとすれば次世代の竜だと思っていた。

だが実際はどうだ。

矮小なはずの存在が自分の技を悉く躱すのみならず、不完全な状態であったとはいえブレス<竜の息吹>すら封殺していたのだ。

「何が目的かしらんが大人しくしてもらおうか」

青年はそう呟くと一思いに竜の首に刃を滑り込ませていた。

だが刃の通った部分に切れ目は生じず、ただ光が生じて刃へと吸い込まれるだけであった。

そして竜は力尽きたかのように地面に頭から落ちた。

だが次の瞬間、青年は目の前の光景に目を丸くしていた。

いや、誰であってもそうするだろう。

目の前の竜がまばゆい光を放ち少女の姿を取ったのだから。

昔思い描いていた小説のプロットがPCから発掘されたので今の自分なりに書き直してみました。

時間ができ次第昔のプロットの発掘と再編成と投稿をしていきたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。

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