【習作】敗北
私の運命は決まっていた。いつからなど知る由もない。太陽の描く軌道と同じ、定められた運行をただ走り続けるしかなかった。
まだ若かりし時分、己の辿る道を知ったとき、心の内に果てしない虚無が生まれた。絶望や諦念とは違う、自分の人生はなにをしようと決まっていること、それは未来の喪失に他ならなかった。与えられた自由を行使しても、導かれる結果はすべて分かりきっている。感じられるものは仮初めに過ぎない。
これから長く続く人生を、それを想いながら生きることは、ひどく困難なことであった。
どうしたらよいか分からず自棄となり、自分を殺すことも試したが、瞼を永遠に閉ざすことは出来なかった。分かっていた。かかる運命は果てるべき場所をも決めていたことなど。
ならばと、運命を破るほか私にできることはない。どこまでが私の意志によって成されるか、また、自由のため、定めに抗い立ち向かうことを決意した。
この時からだろうか、時折、断片的な記憶が疼くことがあった。以前にも似たような道を辿っていったことがあったことを。私が何かを成就させるために突き進んでいた。それは暗い道のりを希望の光を携え進む。記憶の中で私は何を目指していたのだろう。運命はこの時から続いていたのかもしれない。
それからだ、囚われることから抜け出すため、がむしゃらに進み始めたのは。
この世界には古くから続く愚昧にして、不可思議な掟が暗として遍く広がっている。あらゆる人を律し、内なる道徳と倫理の源泉となるもの。同時に、人が本来持ちうるはずの自由を奪い、御名のもとに命を縛り付けるもでもあった。
それは神世の時代に生まれ、偉大なものに挑み敗れた〈すべてのもの〉が残した罪の名残り。
それを打ち破ることを決めた。私が進むと定められている道筋に、最上なるものへの反逆は決して成されないとされている。ならば、この行為が達せられたなら、それは自由の意志の勝利であり、運命の否定になる。
〈すべてのもの〉から始まった、そして、私に課せられた運命へ――今にして思えば、この道を征くことも定められていたのか――挑んだ。
あの日から幾星霜。汗と埃を纏い数多の困難を乗り越え、飢えと乾きを苦汁で満たしながらも歩み続けた。
そうして迎えた今、最期の時。私の命はあと少しだ。限りない曠野で横たわる私に一条の光が降り注ぐ。〈すべてのもの〉から続く罪、張り詰められた因果は断ち切った。あとは新しい光が満ちたなら、世界は変わるはずだ。
だが、世界の運命を打ち破ることは出来たが、己の運命は変えられなかった。自由を勝ち得ること、終わりを迎えずに済むこと。
こんなときに記憶が流れこんできた。いつかみた景色、違う時代――思い出した、〈すべてのもの〉は私だった。あの時の私は、己自身を救うため運命に立ち向かった。しかし、それは為し得ず、あまつさえ罪を残してしまった。
そうか、また私は自分の運命を乗り越えられなかったのか。こうして不滅の運命は続いてゆくのだろう……