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2、正義の味方(4)


「久米さん!?なんで…それにさっきのは…」

 明人は倒れた体を起こそうとしたがうまく力が入らず、地面に座ったまま頭に浮かんだ疑問を矢継ぎ早に口に出した。

「なんでって、『正義の味方』の正体は私だからよ」

 さも当然といった感じで久米はさらりと答えた。

「さっきのはジャスティス、私に力をくれたの」

 久米は女性が描かれた一枚のカードを明人に見せると、地面にうつ伏して気絶している不良たちを一瞥しながら言葉を続ける。

「私ね、他人に迷惑かけて平然と笑ってる人たちが昔から大嫌いだったの。そういうのを何とかしたくて警察官になったけど、警察では何も変わらなかった。でも今は違うわ。今の私には力があるの、ジャスティスの力が!」

「久米さん…」

 揚々と語る久米にかける言葉をすぐには見つけられない。

 地べたに座ったままだった明人を助け起こしながら、久米は明人の耳元で囁いた。

「橘さん、私たち組まない?」

「えっ!?」

「貴方のさっきの力と私のジャスティス、二人で悪い人たちをやっつけましょ。手伝う気があったら電話して」

 久米は明人に自分の名刺を握らせると、一人でさっさと路地を歩いていってしまった。


 クスィーとジャスティスが戦闘を始めたのと同時に、我妻はその場所を隔離するための人員の配置などに取りかかっていた。

 クスィーの適合者が見つかった今、吾妻の仕事はそのフォローと一般市民を危険に近づけないことなのだ。

 路地裏から女性警察官が出ていったとの報告を受けて吾妻が駆けつけると、壁にもたれるようにしてどうにか立っている明人を見つけた。

「橘、大丈夫か?」

「なんとか…」

 気絶している不良たちのために呼ばれた救急車のサイレンの音がだんだんと近づいてくる。

 吾妻は明人に肩をかして歩かせると、その場所を離れ事務所に向かった。


「明人、体は大丈夫なんですか?」

 我妻が明人を連れて帰った時には、優花も事務所に戻っていた。

 三人でジャスティスの対策を練るために、明人が先ほどの一部始終を報告していた。

「まだ痛むところはあるけど、特に怪我はないみたいだから大丈夫だよ。それにしても、あの攻撃は…」

「さっき言ってた、距離をとっても当たる攻撃か…」

「その攻撃は斬撃でしたか?」

 優花の質問に明人は先ほどの戦闘を思い返す。

 確かにジャスティスは剣を振るっていたが、斬られるような鋭い痛みではなかった。

「どちらかと言えば、殴られた感じ…だったかな」

「分かるか、優花」

 優花は少し考えた後、恐らくですが、と前置きをしてから話し出した。

「その攻撃はジャスティスの能力によるものです。プロフェット自身が求めるものとその能力は関係することがあります。ジャスティスが求めるのは正義と公平。持っていた剣は正義を、天秤は公平を表します」

「公平?クスィーがした攻撃を同じように返した、ということか」

「どうやって倒せば…」

「それよりも、お前が戦えるか、だ」

 はっとして顔を上げた明人の目を見ながら我妻は話を続けた。

「シャリオットとは違って、ジャスティスはすでに人間に憑いているから力が上がっている。しかも、お前はその人物を知っている。そんな相手と戦えるのか?」

「俺は…」

 久米のことを考えると、出来ると即答することは出来なかった。

 確かに久米の言うことも一理ある、と明人自身思っていたし、やはり見知った相手ということもある。

「明人、一つ覚えておいてください。前にも言いましたが、プロフェットは憑いた人間から自分が求めるものを奪っていきます。今ジャスティスを倒さなければ…」

「久米さんから正義感が消える…?」

「そういうことだ。全ては橘、お前次第だ」

 少しの間、明人は手を握ったまま黙っていた。

 やがて荷物を手に取ると、椅子から立ち上がった。

「…今晩中に覚悟を決めてきます。明日連絡します」

 それ以外は何も言わず、明人は事務所を後にした。


「覚悟を決めるってことは、やる気にはなってるんだな」

 我妻は書類に目を通しながら、パソコンに向かう優花に声をかけた。

「大丈夫ですよ。前にも言いましたが、明人はやってくれます」


 翌日、朝早くに我妻の携帯電話に着信が入った。

「おはようございます我妻さん」

「おはよう。体はどうだ?」

「そっちも大丈夫です。実は…」

 我妻は黙って明人が立てた作戦を聞いた。

「今日失敗したら次は使えないな」

「ダメでしょうか」

「分の悪い賭けは嫌いじゃない、ってよく言うだろ。昼までには準備しておく」


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