2、正義の味方(1)
「え、『正義の味方』を知らないのかよ」
「ほら、今まで普通の携帯だったからさ」
「スマホにしたの?ちょっと見せてみろよ」
明人は大学の学食で友人と昼食を食べていた。
この間、優花から教えられたスマートフォンのアプリ、『正義の味方』について友人に聞いたのだ。
「で、どんなアプリなんだ?」
「そのアプリに悪いやつの情報を書き込むと、正義の味方が悪人を懲らしめてくれるんだ。書き込まれたやつが本当に悪いことしていると、半殺しにされる、って噂もあるぜ。まぁどこまでが本当だか分からないけどな」
「悪いやつって、例えば?」
「うーん、クラスメイトをいじめてる高校生とか、けんかをふっかけてまわってる不良なんてのもいたらしいな。あとは」
友人が話している最中にスマートフォンの着信音が鳴った。
明人は席を立ち、友人から少し離れた場所で電話をとる。
「もしもし、橘です」
『我妻だ。いま大丈夫か?』
「はい。例の件ですか?」
例の件、というのはアプリ『正義の味方』に関することだった。
我妻たちは正義の味方と名乗っているものがプロフェットではないか、と予想してその行方を追っていた。
真偽を確かめるため、実際に退治する場面をおさえる、というのが我妻たちが立てた作戦である。
『そうだ。これから正義の味方とやらを待ち伏せする。見張っていれば正体が掴めるはずだ』
「俺はどうすればいいですか?」
『書き込みのうち、お前の大学から一番近いところのデータを送るからそこへ行け。他の場所には俺と優花が行く』
電話を切ってしばらくすると、詳しい場所が記されたメールが届いた。
「何の電話だったんだ?彼女か?」
「急にバイトが入っただけだよ」
当然のことながら、クスィーのことは誰にも言えない。
講義が全て終わってから、明人はその場所へと向かった。
我妻からの情報によると、そこに夕方から夜中にかけて通行人などに絡む不良グループが現れるらしい。
辺りを見渡していると、また着信音が鳴った。
『もしもし、優花です』
「どうしたの?」
『書き込みにあった二人組を見つけました。私の場所は分かりますか?』
「大丈夫だよ、ちゃんと我妻さんが教えてくれたから」
『もしこちらにプロフェットが現れたらまた連絡します。そちらに行ったら』
「分かってる。変身して取り押さえ…あ、目標を見つけたから切るよ」
明人はスマートフォンを握ったまま、少し離れたところから四人の不良を追った。
書き込まれるだけあって、たしかに不良グループの行動には目にあまるものがある。
通行人を睨みつけては相手が道の端に寄るのを見て大笑いし、吸ったタバコを道路に捨てていく。
自身を含めて周りにいる友人も真面目なタイプの明人にとっては、この手のタイプは正直近づきたくない相手である。
明人も不良グループの行動に眉をひそめたものの、注意した後の展開を考えるとその他大勢の人たちと同じく何も言えなかった。
彼らが人通りの少ない路地裏に入った直後に突然怒号があがり、その後すぐに悲鳴があがった。
明人は路地裏に向かいながらスマートフォンを操作して数字を入力すると、電子音声とともにベルトが現れる。
「変…あれ?」
スマートフォンをスロットに入れようとしたのだが、プロフェットはおろか不審な人間の姿はない。
先ほどの不良が四人とも気絶して横たわっているだけである。
それぞれ顔に青あざができており、かなり強く殴られたことが分かる。
不良の一人が白い紙を握っているのを見て、明人はそれをそっと引き抜いた。
「同じ罪を重ねるようなら、再び天罰が下るだろう…なんだこれ?」
おそらく正義の味方が残したであろうメモの写真を一応撮影してから、玲士はその紙を再び不良の手に戻そうとする。
「そこのあなた!何してるの!」
明人が驚いて振り返ると、一人の女性警官が警棒を明人に向けて立っていた。