3、スターを探せ(3)
「今日も出ないですね…」
課題に片付けながら呟いた明人に対して、ノートパソコンに向かう吾妻は生返事で答えた。
夜になっても暑さは抜けず、何時間か前にコンビニで買ってきたアイスコーヒーはすでにぬるくなっており残りも少ない。
早瀬舞子の警備を始めてからすでに五日たつが、変わったことが起きる気配はない。
直接の警備には優花がマネージャー代理としてついており、吾妻は昼間から、明人は大学が終わった後から早瀬舞子のその日の仕事場から程近い駐車場で待機する、ということを続けているのだが、さすがの吾妻も疲れが出てきている。
「吾妻さん、俺コンビニ行こうと思うんですけど、何か買ってきましょうか?」
「あ~…いや、俺が行ってくる。タバコが切れた。何が欲しい?」
「甘くない飲み物をお願いします」
「いつもジュースなのに珍しいな」
「さすがに飽きてきまして…」
その時、シートに転がっていた携帯電話が鳴りだし、我妻の顔が一気に引き締まった。
「もしもし我妻です」
『あ、どうも千歳です!そちらはどうでしょうか』
千歳の声はかなり大きく、携帯電話から漏れ出た話し声が助手席の明人にも届くほどで、我妻はスピーカーを耳から少し離している。
「いまのところ特に問題は起こっていません」
『それならいいんですがね…実は少しお願いがあるんです』
「お願い、ですか?」
我妻は怪訝そうに眉をひそめて千歳の言葉を待った。
『早瀬にオーディションから降りること、説得してもらえませんか?』
「せっ…!」
助手席の明人は思わず声を上げるがなんとか飲み込み、我妻も声には出さないがかなり驚いている。
「…そこは私たちが口を出せるところではないと思うのですが」
『オーディションは明日です。我々としては安全を優先したいのですが、あの子はなかなか頑固なところがありましてね。一般的な意見、という感じで、どうか!よろしくお願いいたします!』
そう言うと千歳は電話を切ってしまい、我妻はやれやれという風にため息をついた。
「橘、コンビニはお前が行ってきてくれ。俺は優花に連絡する」
『…ということなんだが、どう思う?』
「一応言ってみますが、聞くとは思えませんよ」
『すまん、とりあえず頼む』
「分かりました。こちらの仕事は終わったので、これから自宅へ向かいます」
「どうしたのよ」
帰り支度をしていた早瀬舞子が電話を切った優花に尋ねたが、優花はにっこり笑ってなんでもないと答えた。
今日の仕事場は家からそれほど遠くなかったため、優花と早瀬舞子は歩いて帰った。
時間もだいぶ遅いため人通りはほとんどなく、まばらに立てられた街灯が二人が歩く道を照らす。
そのずっと後ろを明人がただの通行人を装って歩いていた。
「早瀬さん、今さらですが、明日のオーディションはどうなさるんですか?」
「本当に今さらね。辞退すると思う?」
「いいえ」
何をそんな当然なことを、と言いたげな早瀬舞子に優花は質問を続ける。
「なぜそんなに頑張るんですか?」
「うーん…貴女は自分の仕事、好き?」
質問に質問を返した早瀬舞子に、優花は言葉を選びながら答える。
「そうですね、好きというより…使命、的なものかと」
「変わった答えね。私は好きよ、この仕事」
ハンドバッグをぶらぶらと大きく揺らしながら早瀬舞子は事も無げに言いきる。
「本当に好きな仕事を出来る人って、世の中そうそういるもんじゃないでしょ?私の友達もそういう人って少ないし。そういう意味では私はラッキーだと思うから頑張るの。夢なんて眩しいもんじゃないけど、掴めるものは何でも掴みたいし、実際掴めそうな所にいる。そこでサボるなんて出来ないわ」
「意外に熱いタイプなんですね」
「別にそういうわけじゃないけど。悪い?」
「いえ、とてもいいと思いますよ」
「そう?ありがと。ま、とにかく明日よ。一番の敵は莉奈さんね」
「北斗さんですか?」
「今回の役、莉奈さん本気で狙ってるから。この間もあのやんわり口調で負けないからって言ってきたし」
「明日が楽しみで…失礼します!」
優花は突然言葉を切ると、早瀬舞子の腕を思いっきり引いた。
よろめいた早瀬舞子を優花が抱き止めるのと、何かが降ってきて勢いよく地面を打ったのはほぼ同時だった。
「明人!」
警戒して辺りを見渡す優花の所に走ってきた明人はいつでも変身できるようにスマートフォンを構えるが、それ以上何かが現れる様子はない。
「な、何よ今の…」
「大丈夫ですか?こっちからは何も見えなかったんだけど」
「我妻さんに連絡して、ここを調べてもらっておいてください。私は早瀬さんを送ってきますから」
そう明人に指示すると、優花はまだ少し動揺している早瀬舞子を連れてその場を離れた。
「それで、どうでしたか?」
早瀬舞子の家から戻ってきた優花を含めた三人が事務所に集まっていた。
優花は先ほど攻撃された場所を収めたデジタルカメラで写真を確認しながら明人たちの話を聞いている。
「結局、あれからプロフェットは出なかったよ」
「だが確かにそれは攻撃…いや、威嚇か?とりあえずそんな痕はあった」
「そうでしたか…」
「それにしても、今回のプロフェットは誰なんでしょう?」
明人の問いに我妻は首を降って答える。
「普通に考えるなら北斗莉奈か星名…名前は何だっけ?」
「みずきですよ、星名瑞希」
「あぁそうだった。その辺は動機もあるんだが、あの会長もなんだか怪しい。まったく関係のないやつという可能性もあるしなぁ」
「わたしはだいたい分かりました」
優花がデジタルカメラを机に置きながら呟くと、我妻と明人が同時に優花の方へ向き直る。
「どういうことだ?」
「プロフェットの中で姿が見えない所から攻撃できるものはそう多くありません。この写真を見る限り、今回のプロフェットはアストラルだと思われます」
「アストラル?」
「はい。アストラルが求める人の特徴は希望と高望み。ですから…」
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