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3、スターを探せ(2)


「さっそく早瀬さんにお話を聞いてみたいのですが」

「申し訳ありません我妻さん。早瀬は…今日はモデルの仕事ですね、こっちには顔を出さないんですよぉ」

 千歳は懐から手帳を取り出すとぱらぱらとページをめくりつつ答える。

「ではこれからそちらへお邪魔させていただきます。ところで千歳さん、ここのタレントの予定は全てご存知なのですか?」

「いずれここが大きくなったら無理でしょうがねぇ。まだまだ小さな事務所ですから、だいたいの予定は把握しとりますよ」

 そうですかと言って我妻と明人が立ち上がった時、何かを思い出したかのように千歳はあっと声を上げた。

「早瀬が行っているスタジオに、うちの北斗(ほくと)も撮影入ってました」


「橘、北斗って誰だ?」

 バスを乗り継ぎ教えられたスタジオの近くまで来た二人は並んで目的地を探し歩いていた。

 お洒落な洋服店が周囲に建ち並び、明人は一人ならばこんな所へはまず来ないだろうと思いながら辺りを見回す。

「北斗 莉奈は…まぁ早瀬 舞子ほどじゃないですが結構人気ありますね。ちょっと前までニュースのお天気コーナー担当してましたよ?」

「あぁ!なんか聞き覚えがあると思ったら、あの子か。あの背の低い」

「そうですそうです!やっと我妻さんにも分かる人が出ましたね」

「楽しそうですね、お二人とも」

 いつの間に現れたのか、優花が我妻と明人の背後に立っていた。

 相変わらず白を基調とした服で揃えているが、休みということもありいつもよりも緩やかな印象をうける。

「優花も来たんだね」

「今回は女性を守るお仕事なので、わたしがいた方が何かと便利だからって呼ばれました」


 三人が揃って建物に入ると、話は通っていたようですぐにスタジオに案内された。

 多くのスタッフが行き来しているスタジオの真ん中で、カメラマンが何度もシャッターをきり、その度にモデルは違った表情を作る。

 我妻はスタジオの片隅で椅子に座っている女性に近付いた。

「早瀬舞子さん、ですよね?」

「そうですけど…誰ですか?」

 警戒していることを前面に出した早瀬舞子は、ショートカットに勝ち気な瞳、その脚線を際立たせるタイトなパンツ姿だった。

「TACの我妻といいます。今日は」

「はいOK!次、舞子ちゃん入ってー!」

「失礼します」

 カメラマンに呼ばれた早瀬舞子は我妻の話を遮るとさっさと椅子から立ち上がって足早にスタジオの中心へ向かい、交代するように今まで撮影していた女性が明人たちの方へやって来た。

「あ、こんにちはぁ」

「こんにちは。TACの我妻といいます」

「あぁ!」

 間延びしたようなゆったりした話し方、緩くカールしたロングヘアーでイメージに合わせたのであろうふんわりとしたスカートの女性、北斗 莉奈は合点がいったように頷いた。

「北斗といいます…まいちゃんを警備ですか?」

「モデルさんなのに、警備会社の名前なんて知っていらっしゃるんですね」

 北斗莉奈は周りに聞こえないよう少し声を落として尋ね、優花は肯定も否定もせずにやんわりと話をそらせた。

 ちなみに明人は浮かれ過ぎだからと何も喋るなと我妻に言われているため、大人しく三人の話を聞いている。

「私、TACのテレビコマーシャルに起用されかけたんですよぉ。まぁ実際は星加(ほしか)さんになってしまったんですけどね」

 参っちゃいましたぁと言いながら、北斗莉奈は少し困った顔で笑ってみせた。

「北斗さんは例の手紙のこと、知っているんですか?」

「知っているというか関係なくもないと言うかぁ、ここではちょっと…あっちの部屋で。私はもう撮影終わりなので」

「わたしが聞いてきます」

 優花が北斗莉奈に連れられてスタジオを出ていったのを見届けて、明人と我妻は早瀬舞子の撮影が終わるのを待った。

「テレビで見た時も思ったんですけど、北斗さんって普段から話し方も雰囲気も、なんというかぽやぽやしてるんですねぇ」

 しばらくしてから明人が小声で話しかけると、我妻はあごに手をやりながら少し答えの間を開けた。

「んー…お前は幸せだな、橘」

 何を言っているんですかという顔でこちらを見た明人に対して、我妻はにっと笑って答えると人差し指を口元にもっていった。

 CMの話をした時にあの子の目は笑ってなかっただろ、と言ってやろうかと思ったが、とりあえず黙っておくことにした。


「それで北斗さん、関係なくもないというのはどういうことなんですか?」

「例の映画のヒロイン役の最終オーディションに、私も残っているんです」

 楽屋のような部屋へ移動した二人は、扉を閉めてから話し出した。

 周りに人はいないにも関わらず北斗莉奈が小声で話しているので、優花もつられて声量を下げる。

「オーディションに残っているのは北斗さんと早瀬さんだけなんですか?」

「えぇと、さっき話してた星加さんも残ってます。私のところにも変な手紙が来ないか心配なんですぅ…」

「その時はわたしにご連絡ください」

 優花はにっこり笑うと北斗莉奈の手をそっと握った。


 その後しばらくして早瀬舞子の仕事が落ち着くのを待ってから、我妻たちは改めて話をした。

 人気モデルの周りに警備とはいえ男がいることに難色を示したが、優花以外は離れていることを条件になんとか話がまとまった。

「私、絶対あの役を諦めないからね。だいたい、今どき怪物なんて脅し方のやつよ!ただのイタズラに決まってるわ」

「何もなければそれでいいじゃないですか」

 そう言って微笑みかける優花を見て毒気を抜かれたような早瀬舞子は、荷物をまとめ優花と連れだってスタジオを後にした。


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