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3、スターを探せ


 とある日曜日、我妻と待ち合わせしていた明人はスーツ姿で駅に立っていた。

 約束の時間よりもだいぶ早く着いた明人に対して、我妻は時間ちょうどに現れる。

「おはようございます我妻さん」

「早いな。ん、曲がってるぞ」

 そう言って自分の襟元に手を伸ばしてネクタイをいじる我妻に、明人はされるがままにされる。

「あ、ありがとうございます」

「よし、じゃあ行くか。TACって会社は知ってるか?」

 歩きながら我妻はそう切り出した。

「大手警備会社のTAC…ですよね?」

「そうだ。俺は元々TACの社員だったんだがな、今はプロフェット対策を任されて今はあっちの事務所にいる。お前がシャリオットとかジャスティスと戦った時に場所を封鎖してた黒服もうちの人間だ」

 その他いろいろなことを話しているうちにいつの間にかTACに着いていて、我妻の後について明人は建物の中へと入った。


 TAC本社はガラス張りの高いビルで、日曜日だというのにスーツ姿の男性が何人も忙しそうに歩き回っている。

「日曜なのにけっこう人がいるんですね 」

「平日だとこんなもんじゃないけどな。ちょっと待ってろ」

 我妻はフロントの女性と何か話した後、明人を連れてエレベーターに乗りこんだ。

 エレベーターは途中の階で止まることなくどんどん昇っていき、最上階へ到着した時に扉が開いた。

 床は落ち着いた赤のじゅうたん、壁には明人には良さが全く理解できない絵が何枚も飾られており、その廊下の先に木製の扉が一つだけある。

 あまりの豪華さに圧倒されていた明人も、我妻が歩いていくのを見て我に変えりその後を追った。

 我妻が扉をノックするとすぐに中から「どうぞ」という返事が返ってくる。

「失礼します。橘 明人を連れてきました」

「ありがとう。ようこそTACへ、橘くん!」

 現れたのはいかにも高そうなスーツに身を包み髪をオールバックに固めた男性で、年齢は明人の両親よりも上に見えるが全身から発している活力のおかけで実年齢よりも若々しい印象を受ける。

「私がTAC社長、二条(にじょう)だ。よろしく」

 二条が手を差し出したので、慌てて明人もその手を握った。

「君がクスィーを引き受けてくれたこと、本当に感謝している。まぁ座ってくれたまえ。形式的には私が君を雇っているが、状況的には君にプロフェットの相手をしてもらっている、つまり君の方が立場は上だ。緊張することはない、何でも聞いてくれたまえ」

「そ、それでは失礼します」

 明人と我妻がソファーに座ると、二条はその反対側に腰掛けた。

「あの、プロフェットって何なんですか?」

「ではプロフェットが誕生したところから話すとしよう」


「昔、ある男が未来を知りたいと思い、一組のタロットカードを作り上げた。占った者の心を感じ取ることでその人物のこれからを予想するカード、それがプロフェットだ。初めは占いの的中率の高さに皆が驚いていたそうだが、やがて町中でおかしな事件が頻繁に起こるようになった。突然いなくなる者や意識を失う者がたくさん現れたんだ」

「それは今と同じ…」

「そう、プロフェットに襲われたのだ。原因に気がついた男はどうにか全てのカードを封印することに成功した。月日が流れ、やがて日本のとある金持ちが外国の古美術商から一組のタロットカードを買った。そしてプロフェットを解放してしまった、というのがプロフェットの件の概要だ」

 ここまで説明をしてから二条は一息をいれてからソファーに座り直す。

「プロフェットは人間離れした体や能力を持っている。現状で彼らに対処できるのはクスィー、つまり君だけなのだよ橘くん。この短期間で三体のプロフェットを封印した素質は素晴らしい。残り十七体、期待しているよ」

 二条はそう言って明人の肩を叩いた。

「さて橘くん、我妻くん。次は依頼の話をしよう」



「ここ、ですかね?」

「そのようだな。行くぞ」

 二人が入っていったビルの看板には《チトセ芸能事務所》の文字があった。


『君たちはこの事を知っているかね?』

 二条が差し出した一冊の週刊誌には有名モデルの記事が書かれており、《早瀬 舞子、銀幕デビューに黄色信号!?謎の脅迫文のウワサ!》の見出しが踊っている。

『あ、僕は知ってます』

『すみません、私はちょっと…』

 我妻は二条から週刊誌を受け取ってざっと目を通す。

『この早瀬 舞子の所属事務所から依頼がきた。その脅迫文とやらにプロフェットが絡んでいるかもしれない、調査を行ってくれ』


 ビルのフロントでTACと二条の名前を出すと、すぐに二人は奥の応接室に通される。

 案内してくれた職員の女性は「少々お待ちください」と言い残して部屋から出ていったので、明人は声をひそめて言った。

「我妻さん、本当に早瀬 舞子を知らないんですか?彼女が表紙のファッション誌は完売、テレビに出れば視聴率うなぎ登りの人気急上昇中のモデルさんですよ?」

 明人は有名人の一人や二人いないものかと応接室から事務所のや方をちらちらと覗く。

「顔くらい見たことあるかもしれないが、分からないな。俺が見るのは政治とスポーツ、あとは事件のニュースだけだ」

 我妻がそう答えた時、部屋の扉が開き少し小柄な男が入ってきた。

「いやいやいやいや、わざわざ来ていただいてありがとうございます!(わたくし)、ここの会長をしている千歳(ちとせ)と申します!」

 千歳は声が大きく腰の低い男で、ペコペコ頭を下げながら二人に名刺を渡すと事務所側の窓にブラインドを下ろした。

「それで、早瀬さんに送られてきた脅迫文というのはどういったものだったんですか?」

「これはコピーなのですが…」

 千歳が差し出した一枚の紙には『映画の主役を諦めろ。さもなくば怪物に襲われるだろう』というパソコンで打たれた文字が並んでいた。

「実際に被害はあったんですか、その怪物の」

「一度だけ、何か変なものが飛んできて足元に当たったと本人は申しております。何事もなくただのイタズラであれぱそれでいいのです!どうか!あの子を守ってやってください!!」

 そう言うと千歳は深々と頭を下げた。


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