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盟約の剣

約束

作者: 冬の月


他の部屋よりも装飾の少なく、だがどれも素晴らしい技で作られた必要最低限の家具しかない部屋があった。


人払いをした寝室。



少し開けておいたテラスにつながる大きな窓からは丁度美しい月が見え、時折ここちよい風が流れ込んでいた。


大の大人でも5人は寝ることのできる大きなベッドには、一人の老人。


皺だらけだがよく手入れさた身体。

脇には愛用の剣が一振り。

自ら満足に扱うことはできなくなっても、常にそばに置いておくのが数々の戦を生き抜いてきた彼の習慣だった。


枕を背にあて静かな月夜を楽しむ彼は、自身に残されている時が僅かであることを、悟っていた。

突然一陣の強い風が吹き、老人は視線を移す。

「…きたか」

満足そうに笑みを浮かべる老人の傍らに、一人の青年が立っていた。




「美しい月だな」

そう言って身体を起こそうとする老人をそっと手で制し、視線を同じにするよう膝をついた青年。その身は漆黒の衣でつつみ、しゅるりと動きに沿って衣擦れの音がした。

まるで夜空のような漆黒の髪と瞳、対照的な真珠のように白い肌が月明かりにいっそう白く見え、美しく整った顔には何かを我慢しているような複雑な笑顔があった。

老人はそれを見て嬉しそうに笑みを深める。

「そんな顔をしてくれるな。もう間に合わないかと思ったぞ」

「……すまない」

「いいさ。気にするな。惜しんでくれる友がわざわざ来てくれたのだ。何をあやまることがある?」

「……人とは儚い。わかっていたが、こんなにも苦しいこととは思わなかったな」

「それが人というものだ。だからこそ……いろんなことをすることができた。お前とも出会うことができたのだろうさ」

「……そういうものか?」

「そういうものだ」

にやりと笑う老人に、ようやく青年も笑みを浮かべる。

お互いにもう時間がない事が、言わずともわかっていた。

「俺が人の中で最後か。みなにもよろしく伝えておいてほしい、楽しかった、と」

「ああ」

老人は、青年が何らかの力を使って話しやすいようにしてくれていることに気が付いていた。変なところで律儀な性格の青年のことだ。単に別れを告げに来たのではなく、心残りがないのか、望みはないのか、と、わざわざ来てくれたのだろうと。


「いい人生だった。苦しい事もあったが、良い事もたくさんあった。民のすべてが幸せな…とは思わんが、衣食住に困らず暮らせるような国に近づいた。よい仲間、臣下に出会えた。心根の優しい良い妻に、あとを託せる良い息子達にも恵まれた。たいして病にかからず長生きもできた。人として、思い残すことは無いさ」

安心しろ、そう言いたくてしっかりと青年を見つめた。


数十年ぶりに見る青年は、人とは異なる時を生きるために、最初に会った時と同じ姿をしていた。

懐かしいその顔を見て、これまでの様々なことが次々に思い出された。出会った時のこと、互いに背を預けて戦い生き抜いたことや、時には馬鹿なこともやったし、衝突もあった。今の地位につくまで、ずっとそばにいてくれた。それから長く会うことができずとも、便りやら贈り物やらがあったし、問題が起こると裏から手助けしてくれたことも知っていた。



彼がいなければ自分はこうしてここにいることは無かっただろう。



そんな事を思うと、ふと、老人の中で不安が芽生えた。



自分にとって青年が大事な存在であったように、青年にとって自分は大事な存在であった……はずだ。おそらくうぬぼれではないだろう。



では、自分がいなくなればこの青年はどうなる?

自分達人間よりはるか長命な彼の種族。しかも非常に特殊な立場にいる青年は、また長い年月を一人で生きていくのだろうか?


(まいったな)


「どうした?」

顔に出してはいないはずだが、何かを感じた青年が心配そうに声をかける。


「……すまん。欲が出てしまった」

「何を今さら。人とは欲の塊のようなものだろう?」

まったく気負いのない様子で言ってみろ、と促がす。


(なんでも出来てしまうからたちが悪いのだがな)

内心思いながら、瞬時にこの願いがこの国、いやこの世界にどんな影響が出るのか計算する。

だが、答えは人の考える範疇ではない、ということだった。


そして導き出したのは友として、置き土産の一つしてもかまわないだろうということだ。これまで数え切れないほど彼の力を借りたのだ。今さら遠慮をしたところで、最早たいして変わらないだろうと。



「……頼みがある」







 後に大陸統一を成し遂げることとなる、レノアール王国の基礎を作った初代国王ヴィルヘルム。

不遇な生い立ちから、様々な困難を乗り越え一国の王となった彼の生涯は、この日、静かに幕を下ろした。

 その後数百年の間に起きた戦により、建国前後の資料の多くは喪失してしまうが、ヴィルヘルムに関しては伝承として後世まで語り継がれ、数々の逸話が残っている。

 中でも有名なのは、レノアール王国はヴィルヘルムが伝説の白き竜と盟約を交わしたことから始まったとされ、故に国の紋章には白き竜と、盟約の証として交換した互いの剣が描かれていると伝えれれていることである。

また、その際の剣は今も歴代の王が即位の際に引き継ぐことで、レノアール王国は今も白き竜の加護があると語り継がれている。
















読んでくださった方ありがとうございます(__)

約束はなんだったのか。というのはこの後の世代のがかけたら…w

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