木化星
広い宇宙を旅した先に、その星はあった。海王星惑星団POS2339<ヴァルハラ>。宇宙開発最盛期の24世紀に発見された星である。当初は注目もされなかった小さな惑星であるが、近年になって各国の開発団が目をつけ始めたのだ。その理由は真空中に存在する、樹のような物質の数々。小さな星と侮っていた地球の研究者たちは、その成長する木々の様なものに驚愕し、宇宙開発における新たな可能性を期待して、研究団を派遣した。真空中という限界状態で育つ植物というものは、宇宙空間で育つ食料として、宇宙開発での強い武器になりうる存在なのだ。各国政府が躍起になって獲得しに向かうのは当たり前の話。
私、望月哲も日本から派遣された研究団の一人である。乗り込んだシャトルは、現在日本で運用されている最新鋭の機体である<上総>。多くの人々がこの探索計画に参加しており、多くの期待を寄せられている。他国の研究団も先行して出発しているという報告が入ったが、どうやらその研究団全てからの報告が途絶えているらしい。危険な星であるようだ。この上総には、ロケットエンジンを搭載した宇宙空間専用のミサイルや、最近実用化に成功したレーザー兵器を、他国の報告を受けた日本政府が搭載してくれているので、安全ではないだろうかとも思うが、宇宙という未知の世界では何が起こるかもわからないのだ。警戒するに越した事はない。
眼下の星には、私たちを嘲笑うかのように蔓延る樹海があった。
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着陸して数分間準備をし、同じくミッションに参加した仲間たちが船外に足を踏み出す。私はオペレーターとして船内でお留守番だ。
それからまた数分後のこと、船外で異常が発生した。どうやら隊員の一人の足が動かなくなったらしい。この事を他の隊員に報告し、救助に向かうよう要請したが、どの隊員からも同様に足が動かないという報告が入った。おかしい…。嫌な予感が私を襲う。地球の本部に連絡通信を送る。現在の地球との距離はおおよそ45億km。地球に通信が届くのは4時間と少し後になるはずだ。その間に自分の出来ることをしなければならないと、椅子から腰を上げて準備をしようとしたその瞬間、唐突に前にのめった。どういうことかと足を見ると…
「足が…樹に…?あぁぁぁぁぁぁぁ!」
足が樹になっていた。誇張でも比喩でもなんでもなく、私の足は完全に木化していたのである。外で活動していた隊員たちは、宇宙服があったから見れなかったのだろう。皮肉な事に、もはや隊員たちからの通信は途絶えていて、私の体もすでに下半身全てが樹に侵食されていた。
外の木々が、密度を増したように感じた。
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それから20年間、ヴァルハラの研究に乗り出す国はなかった。しかし2569年、一人の男性、望月隼人が日本でヴァルハラ研究を再開したのである。それは奇しくもあの隊員望月哲の息子であった。隼人の研究は成功を収め、ヴァルハラには、生体内の炭素・酸素・水素からセルロースを合成するという、特殊な酵素を持った微生物が大気中に存在することが明らかになった。この研究を皮切りにして、また多くの国がヴァルハラ獲得に向かうのは別の話である。
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海王の園に手を出すな!
その傲慢がいずれ己が身を滅ぼす。
全てを手に入れようとした者は
海王の海に沈むだろう。
私の体はもう、下半身から腹部までがほぼ木化してきている。この星には、悪魔が住んでいるのだ。傲慢な人間たちに裁きを下さんとする強き悪魔が!ヴァルハラの探索をすぐに打ち切るのだ!これ以上の犠牲を出さぬためにも!
あぁ、もう私である部分は頭だけになってしまったか。最後になってすまないが、妻の恭子と息子の隼人をよろしく頼む。私の遺産を、彼女…ら………に………………




