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第8話 狼に追われる少女?

「これ、俺の杖じゃねえか!ハハハ!」

 九条は喜び勇んで杖を拾い上げた。「いいぞ!やっぱり俺にはこの杖がしっくりくる!こいつで豹を殴る感触は最高だったからな!」

 そう言うと彼は、あの黒豹を殴りつけた時のように、空に向かって豪快なフルスイングを披露した。


 束の間の喜びに浸りながら、九条はひらひらと漂うピクセルフェアリーを横目で見た。「まあ、称号は気に食わないが、報酬は必要なものばかりだったな!よし、一応、礼を言っておいてやる!」

 そう言い終わらないうちに、フェアリーに口を挟ませまいと、彼は矢継ぎ早に言葉を続けた。「だが!今すぐフィードバック機能をOFFにしてくれ!」


 気分がいい時に、あのいじわるフェアリーに水を差されるのはごめんだった。

 だが、黙らせた途端、彼は先ほどの言いかけた「ただし」という言葉を思い出した。

「『ただし』の続きはなんだったんだよ!また聞き忘れた、クソッ」

 彼の脳裏には、現実と仮想の哲学的討論、AIによる精神汚染、巨大な陰謀と黒幕、そして現実世界の危機といった、ありきたりなシナリオが次々と浮かんだ。しかし、すぐに首を振ってそれらを打ち消す。


「いや、絶対に『システムの案内がないと、初心者プレイヤーのゲーム体験は困難になります』みたいな、どうでもいい注意喚起に決まってる」

 彼は、あの憎たらしいAIの口調を真似て、一人ごちた。

 九条は頭を振り、あのいじわるフェアリーの幻影を脳内から追い出すと、身体を伸ばして旅立ちの準備を始めた。


「さて、どっちへ行くか」

 攻略情報を調べた限りでは、黒豹の今の情報に規則性はなく、この森にも特に目印となるような場所はなかった。

 ただ、出現地点を選ぶ際に「ヒューマン勢力圏内」とあったのだから、適当に歩けば誰かには会えるだろう、と九条は考えた。


 ふと閃くと、彼は近くにあった手頃な太さの木に、猿のように軽々と登っていった。もし彼が先ほど、地面を丸ごとひっくり返すような芸当を見せていなかったら、誰もこれが「魔法使い」の動きだとは信じなかっただろう。


 空にはまだ、夕焼けの赤が残っていた。時折、鳥の群れが空を横切っていく。

 夜の帳が下りつつある森は、しかし、完全な闇には包まれていなかった。銀色の光が枝葉に降り注ぎ、風がそよぐたびに、森全体が静謐な波のようにきらめいていた。


 九条は木のてっぺんに立ち、山脈の向こうに浮かぶ巨大な月を見つめた。高校で習った宇宙概論の授業を思い出す。腕を伸ばして大きさを測ってみると、両腕をまっすぐ伸ばしても、肩幅よりずっと大きい。

 理由は忘れたが、これほど惑星に近い衛星は、その星の自然環境を過酷なものにし、居住には適さないはずだ。しかし今のところ、少々フレンドリーさに欠ける黒猫がいる以外、自然災害の兆候は感じられない。

 これも、魔法の世界だからだろうか?


「いい月だな。今度、親父とおふくろを連れてきて、このバーチャルな月を見せてやりたいもんだ」


 九条の母星は天垣星(てんえんせい)という。この星の命名と建設は、『星間時代における文化継承と発展の推進に関する綱領的意見』という歴史的文書の影響を色濃く受けていた。

 その要旨はこうだ。「……人類文明の共通記憶を維持するため……ここに規定する。惑星を周回する自然天体は、その所属星系や物理的パラメータに関わらず、連邦公用語において『月』の歴史的呼称を継承することを許可する……」

 だから彼も、月のように見える天体は、自然とすべて「月」と呼んでいた。


 しばらく巨大な月を眺めていると、風が少し肌寒くなってきた。

 そういえば、人里を探すために木に登ったのだったと思い出し、彼は改めて四方を見渡した。

 しかし、これといって特別なものは見当たらない。ただ、あの「月の山脈」(彼が今名付けた)は非常に高く、遠くに見える。反対側は、見渡す限り大きな起伏はなさそうだ。


「よし、月の山脈を背にして進もう!」

 九条はそう決めると、ひらりひらりと木から飛び降りた。

______________________________________________


 結果として、彼はそこから2時間も歩き続けることになった。

 これはゲームというより、もはやハイキングだ。

 道中、何事も起こらなかったことが、最大の驚きだった。あの黒豹が近隣の獣を追い払ってしまったのか、それともこの森が元々それほど危険ではないのか。


 退屈しのぎに、いっそ安全そうな場所で野宿してログアウトしようかと考え始めた、その時。遠くから何かの物音が聞こえてきた。

 九条は足を止め、音のする方へ耳を澄ます。――誰かが走っているような、落ち葉を強く踏みしめる音が断続的に聞こえる。それとは別に、もっと軽く、速い足音も微かに聞こえた。


「ほう?お約束の展開なら、これは薬草採りに来て森の奥で迷い、狼の群れに追われる少女のパターンだな!」九条は俄然やる気を出し、杖を握りしめてそちらへ向かった。


 巨大な月が空にかかり、森の中は真っ暗というわけではない。

 空間魔法まである世界だ、微かな光を灯す魔法くらいはあるはずだが、九条が魔法書を開く前に、日はとっぷりと暮れてしまっていた。

 彼は己の目だけを頼りに、月明かりの森を、まるで影に潜む暗殺者のように進んでいく。

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