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第22話 ひと休み

「カチャ」と音を立て、生命維持ポッドのキャノピーが開き、九条は上半身を起こして大きく伸びをした。

「現在時刻:18時33分。天候:霧」

 このゲームをやっていると、時間の感覚が狂いそうになる。

「ずっとこのゲームをプレイしてれば、俺の寿命は実質3倍になるってことか?」


 もっとも、電脳化や生体脳のデータ化技術は、数百年前にとっくの昔に実現されている。翡翠賢裔帝国における遺伝子技術は、さらに目覚ましいものだ。

 当時は「不死」や「意識」を巡って大論争が巻き起こり、社会的な騒乱も起きた。ある惑星では、巨大な家族経営のコングロマリットが独裁体制を敷いていたが、その創始者であり筆頭株主が、意識をデータ化して200年以上も一人で惑星を支配し続けていたことが暴露された事件もあった。

 現在、連邦内では意識データや仮想生命に関する法整備が進み、専門機関も設立されている。だが、宇宙発展理事会のメンバーの中には、そういった「古の者」が紛れ込んでいるかもしれない。まあ、しがない大学生の九条には関係のない話だ。


 思考を現実に引き戻す。時間もちょうどいい、デリバリーを頼んで少し休憩しよう。

 季節は初冬。朝方の小雨の影響で外は濃い霧に包まれ、街のネオンサインが滲んでぼんやりとした色の塊になっている。

 空中や地上を行き交う交通機関の光が、このネオンシティという巨獣の血管の中を流れる血流のようにビルの間を縫って走る。


 ほどなくして、窓の外から微かな駆動音が聞こえてきた。

 配達ドローンが霧を切り裂き、九条のベランダのドッキングポートにホバリングする。「カチャ」という音と共に荷物が投下され、アームが自動収納されると、ドローンは再び光の海へと消えていった。

「新しい配送物が届きました」


 コンビニの配送はとにかく早い。注文から発送、配送まで全自動だ。金さえあれば、一年中家から出なくても生きていけるだろう。

 九条はタッチパッドを呼び出し、食事をしながら書き込みを始めた。


 第1回:杖使用。念動力をゲートに直接ぶつける。→暴走。ブラックホールなし。

 第2回:杖(空間魔力を帯びたもの)使用。念動力発動中に干渉時の感覚を想起。→暴走。ゲートなし。ブラックホールあり。

 第3回:素手/黒い魔晶石使用。念動力で魔晶石に接触し射出(非破壊)。→効果なし。

 第3.5回(?):円盤と(活性化した?)魔晶石使用。高エネルギービームが誘引され直撃。→暴走。ゲートあり。ブラックホールなし。

 第4回:素手。念動力をゲートに直接ぶつける。→効果なし。


 彼はこれまで遭遇した空間魔法に関する現象を書き出し、何らかの法則を見つけ出そうとした。

「つまり、触媒が必要で、空間エネルギーも鍵になる。あと、あの独特な感覚も……」

「データ不足だ!安定して発動できたケースが一度もないじゃないか!」

 まあいい、最悪また暴走させればいいさ。威力だけは絶大だからな。あの二人の強盗の末路を思い出し、九条は悪い笑みを浮かべた。


 食事を終え、椅子にもたれてぼんやりしていると、急にどっと疲れが押し寄せてきた。

 九条は軽くため息をついた。「ああ、また魔力切れか」

 先ほどの激闘、そして偶然にも円盤によって引き起こされた空間の嵐……まさに血湧き肉躍る体験だった。このまま完璧に終わればよかったのだが、あのデカい猫……もし見間違いでなければ、背ビレが生えていたか?

「豹魔王が成長して仇を討ち、かつての仇敵を塵芥のように斬り捨てる!ククッ」


 一陣の諦めと共に、九条は足を投げ出して身体を椅子にもたせかけ、まるで溶けた泥のように椅子に横たわった。

 この二日間、確かに少し張り切りすぎた。挙句の果てに、あのでかい猫にやられてしまったわけだ。幸い、高価なアイテムは持っていなかったし、辺境の村がセーフティエリアになっているから復活もできる。ただ、死体回収(コープスラン)の途中で、あの強盗二人組に鉢合わせしないことだけを祈るばかりだ。


 このゲームのデスペナルティはシンプルだが、極めて重い。

 所持品(一部のレアアイテムを除く)は全てドロップし、ゲーム内時間で72時間、現実時間で丸一日は復活できない。ただし、ゲームプレイの継続性を考慮して、「魂の損傷した放浪者」状態を選択することは可能だ。この状態では、戦闘不能、重要情報の取得不可、所持重量の大幅制限、「プライベート」エリアへの侵入不可、他者からのブロックが可能などの制約を受ける。


 復活後、急いで装備を回収しに行くのが「死体回収」だ。もちろん、誰かに奪われていたり、獣に食われていたりしなければの話だが。

 それ以上に痛いのが、復活待機時間のペナルティだ。長期戦場や緊急性の低いイベントならまだしも、基本的に丸三日間ゲーム世界に干渉できないとなれば、高評価など望むべくもない。最悪の場合、イベントが終了してしまい、取り返しのつかない結果を招くこともある。


 まあいい、とりあえずログインして状況を確認したら、今日はもう休もう。辺境の村で復活したら、アンナを驚かせてやるんだ。

「大猫め!この借りは高くつくぞ!」

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