第九話
今日から本格的な授業が始まる。
魔法の主な使い所は、やはり魔物退治にこそ輝く。ということで、ある程度の座学をしてから、実践授業へと移る。
冒険者ギルドの力を借りて、近くの魔物の巣窟となっている地域へと足を運ぶことになった。
「私の活躍を今回目に焼き付けるのだわ!」
そう言って浮かれているのは、グレースたちだった。
現場となる場所に来て、ハルは辺りを見回す。一応見える範囲には追手は見当たらない。
しかし、気配探知が苦手な自分がいくら探ってもあまり見つかりそうにない。
「外に出て大丈夫なのか?」
「何々? 怖いの?」
ロミアが茶化すように言った。
「いや、こっちは真面目に聞いてるんだ」
「茶化されて膨れちゃって可愛いハルちゃん」
「ロミアあのなぁ……」
半眼で睨むと、はいはいとでもいうように彼女は肩をすくめる。
「皆といる間は手を出してこないと思うよ。ただ、この森の中で迷子になったらどうなるか分からないかもね」
目の前に広がる鬱蒼とした森を見やる。なんでも森の中にある古城の奥では、今でもマナが噴出し続けているらしい。
それが形を持って、魔物を永久に生み続けているとか。
冒険者の間では、Bランク危険区域に指定されている。そんなところでの実践授業の許可が下りるあたり、この学園は信頼されているのだろう。
この森ですることは一つ。できるだけ多くの魔物を駆除すること。最近は魔物が増えすぎたために、実地訓練も兼ねて討伐してほしいとか。
近々、この魔物の異常増殖について調査もはいる予定だ。その前段階の掃討という目的もあるのだろう。
「皆、私についてくるのだわ!」
グレースは息巻いて先行する。クラスの連中たちは、大きな声を上げてついて行った。
あれはもうお嬢様というよりもバカンスを楽しむエンジョイ人間にしか見えない。
彼女たちが行ったあと、エリンが歩いていた。少し目線が合うと鼻を鳴らしてから顔を背ける。まるで、足を引っ張るなよとでも言いたそうだ。
「……オレたちも行こうか?」
ハルの言葉に、ロミアは頷く。
※※※※※※※※※※
鬱蒼と生い茂る森の中は薄暗い。足元は草木で覆われており、歩きづらかった。
息苦しい森の中からは、言われた通り魔物の密度はかなり濃い。ゴブリンのような低級魔物がひっきりなしに飛び出してくる。
「ふっ! はっ! やぁっ!」
その度にロミアが細剣を振るい、一撃で仕留めていく。着々と伸ばしていくキルカウントに、ハルは苦笑いするしかない。男の時の自分でさえ、あんなに軽々と剣を扱えなかった。
木から木へと飛び移る芸当を軽々とやってのけ、最後のゴブリンを一刀両断する。
立ち尽くすハルは、そんな彼女に向かって拍手するしかできなかった。
「ハル、大丈夫?」
剣を収めてから近寄ってくる彼女は、ハルの手を取って怪我してないか確認してくる。
「……おかげさまで」
「うん、戦闘は私に任せて」
非常に心強い宣言だ。しかし、授業の趣旨からは逸脱している。少なくとも、ハルにも戦いを回すべきだ。
そのことを伝えると、最初は納得してくれなかった。だが、根気強く魔法の練習がしたいと言うと渋々了承してくれる。
取り敢えず再び飛び出してきた大量のゴブリンはロミアが片付けて、一匹だけをハルが相手することになった。
緑色の人型の魔物は、仲間を殺されて興奮状態。奇妙な雄叫びを上げながら地団駄を踏む。手製のこん棒を振り回して、こちらに近づいてきた。
ハルは手を翳して、見様見真似で力を込めてみる。前回は炎をイメージして爆発させてしまったから、今回は安全に水にすることにした。
ピュッと細い水が手から出てくる。ゴブリンの顔にヒットした。
顔を濡らされた奴は、怒りを爆発させるように突撃してくる。
「うわああああ!」
こん棒が空を切る音が後ろから響く。いくら低級魔物の攻撃といえど、生身のハルが喰らったらひとたまりもない。
「ハル〜! 倒そうか〜!?」
木の上に腰掛けて様子を見ていたロミアが声をかけてくる。
「い、いや自分で何とかしてみる!」
「でもとてもできそうにないけど〜!?」
「だ、大丈夫だから安心して見ておけって!」
とは言ったものの、もう半分涙目になっていた。
ヤケになって振り返り、電撃系の魔法を放つ。静電気ほどの痛みが指先を襲い、手を思わず引っ込めた。
ゴブリンの雄叫びがなんか笑っているように聞こえるのは気のせいだろうか?
情けないと心のなかで思う。男のときは、こんな相手は軽々と剣で叩き斬っていたのに。
今やハルは逃げ回ることしかできない。
ついには肩で息をし始め、木の根に足を引っ掛けた。顔面から派手に転ぶ。
肩越しに振り返ると、こん棒を高く振り上げたゴブリンが飛んでいた。木でできたそれは、頭に直撃すると痛そうだとどこか他人事のように思った。
「……っ」
ゴブリンが細切れになる。何があったのか見てみると、ロミアが細剣を抜いて地面に着地していた。
安堵したと同時に、悔しさにハルの表情が歪む。
「ま、まだオレは負けてなかった」
精一杯の強がりを言うが、ロミアが唇に人差し指を当てた。
「どこか様子がおかしい」
彼女はそう静かに言う。




