第六話
魔力測定の後は基本的なガイダンスで終わった。教員からは気をつけるようにと、耳にタコができるほど注意された。
注意以前の問題として、魔法の使い方をどうにかしなければならないと思うのだが。どうやら教員たちの頭の中では、すでに使える前提で回っている。
それはそうか、この学園は進学校。魔法の心得のある貴族たちが通っているのだ。
頬杖をつきながら、教室の雰囲気を聞き流す。一際大きな声は、グレース一派のものだった。
確認してみると、赤茶色の制服を着た者たちはある程度のグループで固まったている。逆に紺色の制服のものは従者と二人組で座っているものが多い。やはり今まで培ってきた人脈の差というものだろう。
ハルは居心地が悪くなり、姿勢を立て直す。
「ねぇねぇ、これから時間があるなら街を見てみようよ」
そんな空気を意にも返さず、ロミアが隣からのぞき込んできた。変わらない彼女の笑顔に、苦笑を漏らす。
「……そうだね、そうするか」
ここにいたところで、気まずいだけである。だったら、外の空気を吸ってるほうが幾分がマシだ。制服を着替えてしまえば、無駄な視線にもさらされない。
立ち上がり、ロミアと並ぶように教室を出ていく。寸前で目が合ったグレースに、鼻で笑われたような気がした。
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「あの……本当にずっとこのまま?」
「当たり前じゃん。せっかくかわいいのに、もったいないでしょ?」
「いや、男としてちょっと……」
持ってきていたはずの服は、すべて取り替えられていた。きっと母親とロミアのせいだろう。
街に来た時に着ていた服にしようとすると、汚いとロミアに怒られて八方塞がりだ。
やたらと可愛い街娘みたいな格好は、ハルの精神をすり減らすのに充分だった。これはなんていう拷問と、遠い目をする。
新しい服を買いに行くにしても、それを買うための服がない。つまり、結局は一度可愛い服に袖を通さなければならなかった。
街中を歩いていると、やたらと視線を感じる。おかしいと思われてそうで、肩身を狭くしてしまう。
「なんで私の後ろに隠れるのさ?」
「いやだって……恥ずかしい」
「あっはっは! ハルらしくない言葉!」
大声でロミアに笑われて、ハルは頬を膨らませた。
「おかしくないから大丈夫だよ?」
強制的に前へ出されて、思わず肩身を狭める。
視線が強くなり、思わず顔を真っ赤になる。特に男性からの視線が強い。女性もこちらはチラチラ見ながら何か話している。
「ほら、周りの人間たちもオレのこと見てる!」
「……それ、ハルのせいだけどハルが悪いわけじゃないよ」
「……どういうこと?」
尋ね返しても、「なんでもなーい」と言いながら先を歩いてしまう。そのロミアの背中を慌ててついて行った。
商業区までやってくると、さまざまな光景が目にはいる。屋台で食べ物を売っていたり、剣や鎧を作っていたり。様々な素材を交換したり、商人たちが談話したり。
沢山の人の生活が交わっているのがわかる。
ハルたちが生まれ育った街も小さくはない。しかし、首都と比べるとやはり見劣りする。
通常ならばゆっくりと回っていたいところだが、ハルは視線に当てられてベンチで休むことにした。足を広げて背もたれにだらしなくもたれかかり、空を見上げる。
大きなため息をついていると、太ももをロミアに叩かれた。
「女の子が脚を広げない!」
「なんでだよ!?」
「ものすごく見えてるから!」
言われ、視線を強く感じた原因はスカートが捲れてパンツが見えたせいだと感じて、慌てて足を閉じた。
顔を真っ赤にしながら辺りを見ると、目を奪われていた彼氏を小突いて手を引っ張っていく女性の姿が見える。
「ん、これ」
話を切り替えるようにロミアが差し出したのは、棒付きの飴のようなものだった。
「えへへ〜、屋台のおじさんがおまけしてくれたんだ〜」
ハルが受け取ると、彼女は隣に座ってアメを舐め始める。
ロミアはそれなりに可愛い。街の男たちの間では、黙ってたら美人と言われていた。屋台のおじさんもおまけしてくれるのは納得する。
二人で並んでアメを舐めながら街の景色を眺める。近くを走った男の子と目が合って思わず手を振った。彼は顔を真っ赤にして走っていった。
やっぱり怖がられてる? と、ロミアに尋ねると、彼女は腹を抱えて笑った。
バカにされたような気持ちになりながら、アメに齧りついた。顎に力を入れて、パキリと噛み砕く。
「二人とも暇そうだな」
聞いたことのある声がして、顔を上げた。そこにはエリンが立っていた。相変わらず手には白い手袋を着用している。
「悪いか?」
「いや、悪くはない。ただ、緊張感がないと思ってな」
どういうこととハルが首を傾げた時だった。ロミアのアメがパキリと折れる。
「大丈夫だよ」
そのロミアの言葉は、どこか薄ら寒いものがあった気がした。




