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第五話

 その後やることは、クラス毎に集まっての魔力測定だった。標的用の木人に対して、簡単な魔法を撃つ程度のもの。しかし、ハルはそれがとても憂鬱だった。


 皆が魔法を当てていく中、彼女はため息をつく。


 ハルは一度も魔法を使ったことはない。というのも、幼少期の適性はほぼゼロに等しかったからだ。母も気にするなと言って、魔法のことを掘り下げなかった。

 今思えば、成人したらこうなるってわかっていたからだろう。


「ふふん、見るのだわ!」


 グレースが騒がしくしている。木人を水の塊のなかに閉じ込めていた。生徒たちが持ち上げるように拍手している。

 彼女と目が合うと、勝ち誇られたような顔をした。その自尊心はどこから湧いてくるのか非常に気になるところだ。


 従者班を見ると、ロミアがちょうど剣技を披露していた。と言っても、簡潔に喉元に一発深く突きを入れただけだが。その動作だけでも、同年代の従者とは比べものにならないくらい動きが洗礼されている。

 そして、相変わらず出来て当たり前と言った顔で、特に自分の能力を勝ち誇らない。


 現実逃避気味の思考を、自分の名前が呼ばれたことで引き戻した。どうやら、ハルの番が回ってきてしまったらしい。

 生徒たちの注目が集まる中、木人の前に立つ。


 そこで一つ気がついた。“魔法ってどうやって撃てばいい”?


 もう一度言うが、ハルは一度も魔法を使ったことがない。それ即ち、出し方でさえ習ったことがない。

 測定係の人に首を傾げられた。周囲のざわつきが耳につく。


 取り敢えず、皆手を出していたなと見様見真似で右手を翳した。それっぽく力を込めたところで。


──ボン!


 手の先から爆発する何かを繰り出した。それを顔面にまともに食らって、意識が一気に刈り取られる。

 生徒たちの悲鳴が上がる中、ハルはそのまま気絶するように地面に倒れた。



※※※※※※※※※※



 知らない天井だ。

 ハルは白い天井を見つめながら、ぼんやりと思考する。

 どうなったんだっけ? と考えて、魔力測定で盛大に自爆したのを思い出して顔を赤らめる。

 もうやだぁと半泣きになって布団の中に半分顔をうずめるハルの姿は、とてもじゃないが元男とは思えない。


 このまま学園をサボれないか考えていると──


「ハルさーん、起きましたぁ?」


 どこかのんびりしたしかし、しっかりと通る声が聞こえてきた。顔を覗かせたのは、少し幼い顔つきの少女だ。


 大きな人懐っそうな赤い瞳に、青色の柔らかそうな髪の毛。全体的な線は細く幼いのに、どこか大人びた雰囲気もある。


「……君は」


 半泣きをなんとか引っ込めて、尋ねる。


「私はニーチェ・グリフォリアですよぉ〜?」


 グリフォリア。どこかで聞いたことある名前だと思い、すぐにこの街の名前であることを思い出す。


 ぼんやりとしていると、ニーチェはハルにかかっている布団をめくりあげる。そのままブラウスのボタンに手をかけるとボタンを1個ずつ外していく。

 

「ちょちょちょ! 何やってるの!?」


 思わぬことに目がすっかり冴えた。慌てて起き上がって、彼女を手で引き離す。

 はだけかけた服を慌てて抑えた。


「フェミリス家の秘密を暴くつもりですぅ〜」


 彼女はベッドに片足をかけた。


「どこから魔力が湧いてくるのか暴けたら、この街にとって有益になりますぅ〜」

「い、いやそれ軽く言ってるけどオレに実験体になれって言ってるよね?」


 ハルの疑問に対して、彼女は首を捻った。少し考えてから、ニコッと笑顔になる。


「大丈夫ですぅ〜。胸の脂肪を少し削ぎ落とすだけですのでぇ〜」


 えげつないことを口走っている。思わずドン引き、彼女から距離を取った。背中が壁に当たり、思わず背後を見やる。

 迫ってくる彼女から逃げられなくなった。もう少しで手が届こうとしたところで──


「これ、勝手に出るなと何回も言っておろうに」


 現れた理事長にむんずと後襟首を掴まれて、引きずられていった。


「フェミリスのご息女よ、邪魔をした」

「あ~……大切な研究対象がぁ〜……」


 一体何だったんだと、残されたハルは首を傾げることしかできない。


 少し遅れて、ロミアがドアを開けて入ってきた。

 ハルの姿を確認すると、いの一番に抱きついてくる。女の子特有の柔らかな感触が返ってきて、少しドギマギしてしまう。

 これが女の子同士の距離感なのかと、困惑しながらロミアを引き剥がした。


「ハル! 大丈夫!? 痛いところない! すぐ駆けつけたかったのに、教員たちに邪魔されて!」

「……大丈夫だよ」

「本当!? 私はハルの従者なのに……。何かあったら、私は……」

「ロミア!」


 自責モードに入りかけた彼女の肩を掴んで落ち着かせる。

 しっかりと彼女の瞳を見据えて、もう一度「大丈夫だ」と言った。

 

 ロミアは安堵の息をつくと、もたれかかってくる。


「ちょ、ちょっと、ロミア?」

「んふふ、私を心配させた罰。しばらく、ハルを感じさせて」


 彼女の震えている手を見て、ハルは仕方ないかと肩を落とす。

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