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第十九話

 少しストレッチを施して軽い運動する。準備運動を終えたところで、頬たたいて「よし」という。

 

「……本当に休まなくて大丈夫?」


 ロミアが心配そうにしてるのを見て、ハルは笑顔を返した。


「なんか少し調子いいんだよ」

「限界値を超えた反動とかではなく?」

「そんな走り続けたあと唐突に楽になる現象みたいな」


 冗談めかして言ったが、彼女は真剣な瞳を返してくる。安心させるように、彼女のアタマを撫でた。

 それでも不安そうな表情は解けない。


「準備できたのだわ! ……ていうか、なんで私が準備してるのだわ?」

「お嬢様がやり始めたことなのだから、最後まで見届ける義務はあります」

「……確かにそうなのだけれど? うーん?」


 的を用意してくれたグレースは、納得していないように首をひねっていた。


 ハルは深呼吸して的の前に立つ。取り敢えず静かに意識を向ける。

 手を翳して、安全な水魔法を意識した。


「そこで力をためてバーッなのだわ!」

「お嬢様お静かに」

「教えてあげてるのだわ!?」


 なんだかやかましい外野の声を聞かないことにして、目を瞑る。自分の体の中の巡りにゆっくりと目を向ける。

 今までにないような感覚を受けた。どこか体の奥底から湧き上がってくる。それを掴み取るように意識を向けて、的に向かって放つ。


 出たのはやはり少しの水。的には直撃したけど、それ以上でも以下でもない。

 

「やっぱり駄目か……」


 膝に手をついて落ち込む。


「うーん、何が悪いのか分からないのだわ?」

「まぁでも、水の威力は上がっていたから方向性は間違ってないのかもしれません」

「だったらもっと刺激を!」


 いや、それはやめてくれと心の中で苦笑する。大きく息を吐いて、空を見上げた。


「ハル……大丈夫?」


 珍しくロミアが気落ちしている。そんな彼女に、ハルは大丈夫だと笑顔を見せる。

 彼女は考え込むようにしてから口を開きかけて、また閉じていた。迷うように視線を巡らせてから、また決心するように口を開く。


「無理しなくていいぞ」


 その言葉を聞いて、ロミアは驚いたように息を呑む。


「別に落ち込んでないから、無理して教えようとしなくてもいい」

「……そっか」

「うん、それに何か掴めた感触はあるから、時間が解決してくれると思う」

「それなら、私は何も言わないね」


 ロミアの苦笑に、ハルは満面の笑顔を返した。


 そんな平和とも思える時間が流れていた時だ──


「……お姉様」


 聞き覚えのある微かな声が聞こえた。全員が声のした方を見つめる。

 そこに立っていたのは、グレースの妹のグロリアだった。

 

 黒いローブを身に纏い、虚ろな瞳で立っている。


「グロリア!? なんで、こんなところにいるのだわ!?」


 グレースが驚いて近づいた瞬間、ローブの中から黒い液体のようなものが大量に漏れ出した。


「な、何なのだわ!?」

「お嬢様!」


 近づいたグレースと庇おうとしたエリンを巻き込み飲み込む。そのままローブ内に引きずり込まれると、残ったのは何事もなかったかのように立つグロリアの姿だけが残る。

 

「……ごちそうさま」


 ぺろりと口元を舐めて、満足そうな表情を浮かべる。ただごとじゃない姿に、思わずハルは数歩後ろに下がってしまう。


 歯をかみしめ、拳を握り、しかし自分では何もできないと、覚悟をした。

 そして、ハルはただ彼女の名前を呼ぶ──


「──ロミア!」

「わかってる!」


 すでに剣を抜いて走り出していた。グロリアはその動きに気づいたのか、またローブから黒い液体を出す。それは手のようになって、ロミアに襲いかかった。


 しかし、液体が彼女を捕らえることはない。的確に切り裂き、距離を詰めていく。

 維持になったグロリアは出した液体の量を増やしたが、それでもロミアを捕まえることはできなかった。


 駆け、避け、切り裂き、肉薄する。ロミアの動きはやはりハルから見て妬けるほどに超人離れしている。


「獲った!」


 ロミアが確信を持って、彼女の首を刎ねた。思わずその光景からハルは目をそらしてしまった。


 何か液体上のようなものが落ちる音がする。見なくても、ロミアがグロリアを殺したことが分かる。

 大きなため息をついてから、顔を上げた。


 広がっていた光景に息を呑む。


 ロープの下から現れたのは、すべてを包み込むほどの黒い液体。ロミアは飛び退こうとして、間に合わずに飲まれてしまう。


「ロミア!」

「だめ!」


 近寄ろうとして、彼女は制止の声をかける。


「ハルは誰かを呼んできて、お願い──」


 彼女の体が飲み込まれていく。その光景を見て、葉を食いしばった。


 ロミアの言う通り、今は誰かを呼びに行くのが正解だ。被害が広がる前に動けるハルが伝えなければならない。しかし、その間に三人が窒息してしまったらどうする。それにロミア以上にこの学園で動ける人間は理事長しか想像できない。


 その理事長が不在の今、助けに行くのは無駄なのではないか。


 ごちゃごちゃ考えてる暇はないと、ハルはグロリアに向かって走り出していた。飲み込まれて消えかけたロミアの手を掴み、引きずり出そうと。


「……いただきます」


 そんな声が聞こえたと同時に、ハルも飲み込まれた。

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