第十六話
パーティから一夜明けて、今日はグラウンドでの授業となっていた。貴族と従者は別れて行われる。
貴族側は魔法のコントロールという、一番難易度が高い授業となっている。放つだけではなくどれだけその現象を維持できるかというものだ。
魔力から精密性、魔法素質まですべて図れるのだという。
一方の従者側は一対一の木剣での打ち合いとなっている。お互い一本取れたら勝ちというシンプルなルールらしい。
少し遠いところで魔法の発動の練習をしていたハルは、だめだぁと息をつく。
取り敢えず教師に基礎的な質問を投げかけて、魔法発動のコツを何とか聞き出した。しかし、どうしても微力な力しか出ない。これでは維持どころの話ではない。
どうしてか考えてみてもわからない。あえて言うのなら、体の奥底でマナが詰まりを起こしている。そんな感じだ。
座り込んで、背後に手をつく。空を見上げるように遠くを眺めた。
額から流れる汗が頬を伝う。その感触を受けながら、どうしてできないのかと真剣に悩む。
静かにしていると従者側から歓声が聞こえた。ちょうどロミアとエリンが剣を交えている時だった。
剣術ではすでに彼女たちがトップツーとなっている。その姿を見て、小さく「いいな」とハルが呟いた。
本当なら剣を握っていたかった。しかし、それはもう叶わない。ロミアの剣技に自分の姿を重ねた。
気がつけばいつの間にか近くに寄って見ていた。
ロミアはエリンの剣筋を全て受け止めて返している。エリンの表情は曇っているが、ロミアは涼しげであった。
「ハルの従者、本当にどうやったらあんなに強くなれるのだわ?」
いつの間にか隣にいたグレースが訪ねてくる。気がつけば他の生徒たちも二人の攻防を見に近寄っていた。
「それはオレが一番知りたいね」
苦笑する。ロミアは気がつけば強くなっていた。
男の中では街一番という虚勢を張っていたものの、いつも心の底で彼女と比べている自分がいた。
そこを無視し続けた結果はどうか。そこまで考えて、途中で放棄する。
ハルの表情に何を思ったのか、グレースは珍しく黙っていた。
「そこまで!」
教師の声が響く。エリンの剣ははじき飛ばされ、ロミアの剣が喉元に構えられている。ハッキリとした決着に、銀髪エルフは小さく笑みを漏らしていた。
「手を抜いていたな?」
「どうだろ〜?」
何やら一言二言会話をしてから、こちらの視線にロミアが気がつく。笑顔を見せて手を振られたので、曖昧な笑みを見せて振り返す。
「わかる……わかるのだわその気持ち!」
そうしたところで、グレースがハルの肩に手を置いた。
「従者が優秀なのに、自分がポンコツで情けないと思ってるのだわ! 私もよく比べられたのだわ!」
「いや……違うけど」
「不甲斐ないのだわ! 寂しくなるのだわ! だからこそ、見返してやりたくなるのだわ!?」
「いや…………違うけど」
否定してもグレースは止まらない。右手でこぶしを作り、考えにふけるように固く目を閉じている。
「私が魔法を教えますわ!」
「え、えぇ……!?」
突拍子もない提案に、声が裏返る。
断ろうと首を振りかけた。しかし、ふと彼女の魔法の精密生を思い出す。
最初の測定の時、グレースは水の玉を維持し続けていた。簡単に見えて実はとても高度なことだったと今のハルには分かる。
正直な話、グレースは人にモノを教えるタイプには見えない。しかし、彼女の才能を近くで見たら何か突破口が見つかるかもしれない。そう考えて、お願いすることにした。
「任せてほしいのだわ」
いつものドヤ顔で、彼女は了承する。
※※※※※※※※※※
放課後、グラウンドの一角を借りて魔法の練習をすることにした。
付き添いとして来ている従者組は遠くからこちらのことを眺めている。特にロミアからの視線が痛い。
「それじゃあまずは簡単に魔法の出し方なのだわ」
そうやって実践して炎の玉を三つ出してから、曲芸師のようにお手玉をする。
「どう簡単なのだわ!」
「……わからん」
「なんでなのだわ!?」
というか魔法の出し方も分からない相手にいきなりそれを見せつけるのはさすがになさすぎるだろうとため息をつかざるを得ない。
エリンは額に手を当て、ロミアはケラケラ笑っていた。
「……じゃあ、魔法を出してみるのだわ」
「うーん、分かった」
そう言って、万が一暴走しても一番問題なさそうな水魔法にすることに。
手を構えて、力を込める。勢いをつけるように口で気合を入れると、ちょろちょろと水がグレースの顔に向かってぶつかった。
「ちょちょちょ!? 何するのだわ!?」
慌てる彼女はびしょ濡れになってしまう。その様子を見てエリンは深くため息をつき、ロミアは腹を抱えて笑っていた。




