第十五話
パーティも終了に近づき、壇上に登ったグレースが挨拶を終えた。彼女がお辞儀をすると、会場中から拍手が沸き上がる。
しばらく数人と話した後、わざわざ端っこにいるハルの元に近寄ってきて、腰に手を当てた。
胸を張ると、鼻高々になっている。
「どうなのだわ、私の人気! ハルには出せないでしょう?」
それを言うためだけに、わざわざ端っこにいるハルの元に近寄ってきたのだと思うと、少し可愛らしいものがある。
「なぁ、なんでそんなにオレに絡んでくるんだよ?」
気がつけば、単純な疑問をハルは苦笑しながら口にしていた。
「そ、それは! ふぇ、フェミリス家だけ特別待遇でズルいからなのだわ!」
しかし、それだけでパーティに誘ったり必要に絡んでくるものだろうか。
「鈍感が発動してるねぇ……」
「お嬢様もここまで来るともはや意地ですね」
またしても遠くから聞こえてくる従者二人組の声を、ハルはわざと聞かないことにした。
「──お姉様……」
新たに聞こえた声は、どこかで聞いたことあるようなないような声だった。
騒がしいパーティ会場の中でも確かに届いてくるか細い声に、皆が一斉に振り返る。
「あら、グロリア。目が覚めたのだわ?」
グロリアと呼ばれた少女は黄色い目をしていた。茶色い髪を一つ結びにしていて、彼女が動くたびに揺れている。
「……騒がしくて」
「ごめんなのだわ。もうすぐ、終わるのだわ」
グロリアの頭を撫でるグレース。少女はくすぐったそうに仄かに笑った。
その後ハルと視線がぶつかる。どこか彼女が息を呑むような気配を感じる。
慌てて顔を背けると、グレースの方に向き直っていた。
「……じゃあ、部屋に戻るから」
「それでは私が部屋まで送っていきましょう」
「任せたのだわ」
グロリアはエリンの連れられて会場から出ていく。その後ろ姿を、ぼんやりとハルは眺めていた。
「気になるのだわ?」
グレースが頬を寄せるように聞いてくる。
「あの子は私の妹なのだわ」
「いや、聞いてないって」
「ふふ、優秀な妹なのだわ!」
だから聞いてないってといって、彼女を引き剥がした。
「グレース様の妹にしては、大人しそうな娘だね」
ロミアの質問に、グレースは半眼で睨む。
「私の妹にしてはは余計なのだわ」
「お口が滑りましたのだわ」
「私の口調を馬鹿にするのでないのだわ!」
うがーと両手を上げるグレースに対して、ロミアはからかうような笑顔を見せた。
彼女が他人にからかい始めるのを久しぶりに見た気がする。最近はどこか真面目な様子だったから。
馴染んできたみたいで良かったと思う反面、置いていかれるような寂しさがあった。
ハルはグロリアが消えていったところを見る。どこか引っかかっていたことを自然と疑問に出していた。
「彼女どこか悪いのか?」
「どうしてそう思うのだわ?」
「エリンが優先してグロリアを部屋に連れ戻したから」
その言葉を聞いて、グレースが小さくため息をつく。
「別に身体が弱いとかそういうことはないのだわ。ただ、少し体内のマナ量が普通の人よりも少ないってだけなのだわ」
その答えに、言葉を返せなかった。
マナは全てを司る。特に生命へ直結しており、少ないと生活に支障が出てくる。
例えばマナ欠乏症という病気がある。意識が遠のき、倒れ、最悪には死に至る。これはあまりにも生命力を削りすぎた人間に起こる症状だ。
その症状の裏には後天的なものと先天的なものがある。
後天的なものは、扱いに気をつけようというだけで終わる問題だ。比べて先天的なものは、元々体に異常があるということになる。
人はそれを女神の祝福から外された者という。
「何を考えてるのか知らないのだけど、ハルに心配されるいわれはないのだわ」
彼女は腰に手を当てて、ハルのことを見やる。
「家に入る分には問題ないのだわ。それに、これは私たちの家の問題。他人が入る余地はないのだわ」
「それは……そうだな」
ハルの答えに、グレースはふんと鼻を鳴らす。
グレースは軽くこちらに挨拶をすると、ゲストたちの元へと話に行った。
残されたハルは、まだグロリアの消えていったドアを見つめている。
「そんなに彼女が気になるの?」
「ちょっとな」
「もしかして、一目惚れしちゃった? ヤダへんたーい」
「ちげぇよ!」
後頭部をかいてから、小さくため息をついた。
そのハルの様子に、ロミアの茶化すような笑みは消える。
「何かあったの?」
「いや、どこかであったことがある気がするんだけど……」
考えても答えは出てこない。結局気のせいということで片付けた。
パーティの盛り上がりも最後を迎え、後には余韻だけが残されていく。




