『そんなんじゃ娘はやらん』と言われたので婚約を辞退したら、公爵令嬢から求婚された子爵家令息の話
ほら、良くあるじゃない?
『娘はやらん!』って、
しかし、俺の婚約者の父親は度を超していた。
親の悪口も言うのだ。
「どうだ。ワシは伯爵家を一代で建て直したのだ。こんな料理、子爵家では食べられないだろう。
君を見るとどうも子爵殿は教育に失敗したようだ。臆病者のワグナー、それが君のあだ名だ。恥ずかしくないのか?」
「伯爵殿、父母は関係ありません」
確かに伯爵殿は苦労人だが、この日は限界を突破していた。
俺の婚約者メリッサ、伯爵夫人、使用人たちもニヤニヤ笑っていた。
婚約者は言う。
「ワグナー様、あなたは私がいないとダメですわ。自覚して下さいませ」
そして、伯爵殿からこの言葉が出た。
「君、このままじゃ娘はやれん!」
「申訳ありません。仰る通りです。この婚約は辞退させて頂きます」
皆は呆気にとられているが、かまうものか。
俺は子爵家に戻った。
親父とお袋は呆れた。
「お前は21歳だろう。もう、かなり年上か、訳あり令嬢しかおらんぞ」
「・・・・我慢出来なかったの?」
「まあ、いいさ。それよりも領地経営だぜ!」
一応、言っておくが、この婚約はメリッサ側からだ。
貴族院に俺有責で婚約解消、いや、破棄か?公示が掲示された。
一応、母上が婚約者を探すが色よい返事が来ない。
当たり前だな。
しかし、一月もたたないうちに俺に婚約を申し出る家門があった。
「おい、ワグナーよ。公爵家から、・・アルベール様が婚約を申し出たぞ」
「な、何だって!」
アルベール様は王太子から婚約破棄されたご令嬢だ。俺の一学年しただった。
しかし、俺とは意味合いが違う。王太子の浮気からの破棄。
これで王家と貴族派の溝は深まったが・・・・
他の王子や王族、高位貴族から釣書がひっきりなしと聞いている。
即日、顔合わせをした。
黒髪は腰まで伸びて艶がある。目はエメラルドグリーンにキリィとしている。
「どうぞ、よろしくお願いしますわ」
下位貴族に嫁ぐので今から俺の屋敷に住み生活に慣れるそうだ。
だが、俺は条件をつけた。
「アルベール様、この婚約、母上を立てて頂けなければ受ける事は出来ません」
「ええ、もちろん、そのつもりよ」
格差婚、女が上だと。母親との関係に苦労する。
例えば、母親にメイドをつけて、『私への用事は全てこのメイドに言って下さい。彼女が承りますわ』
とかいって軋轢を生じさせる。
すんなり受けいれて、
母上の話を良く聞いた。
「・・・我がダンケル子爵家では、女主人は炊事の指揮もとりますの。大丈夫かしら・・・」
「なるほど、勉強になりますわ」
試しに母上が縫い物を言いつけたら、素直に聞いたそうだ。
「アルベール様、旦那様のスーツのほころび、直して頂けますか・・・」
「はい、お義母様、あの敬語は結構ですわ。アルベールと呼んで頂けたら嬉しいですわ」
解せん。解せん。何故だ?何故、俺に?何の変哲もない子爵家に嫁入りを決意されたのか?
聞こうとしたがメリッサから手紙が来た。
愛しているとか、そんなつもりじゃなかったとかそんな文章がつらつらと並んでいる。
俺のこと嫌いじゃなかったのか?
『貴方は分かっている。私がいないと何も出来ないのよ』
と締めくくられていた。悪い依存をされているか?
「あら、ワグナー様、その便せんは女性からのものですわね」
「うわ。アルベール様!浮気じゃないです!」
うわ。背後にいた。ジィと見つめられると・・・あれ、この感触どこかで・・・
「旦那様はモテてよろしいことですわ」
「あのアルベール様、俺の・・・いや、もしかして俺のこと好きなのですか?」
「アルとお呼び下さいませ。あの日以来愛していますよ」
「お、俺は臆病者のワグナーですよ。良いのですか?こんな男と結婚して」
アルベール様は俺に一目惚れをしたそうだ。
しかし、当時は王太子の婚約者、だから胸にしまっていたそうだ。
その由来を聞いたが、解せん。
俺が臆病者と評判になった事件を見ていたそうだ。
☆☆☆回想
「あたしは殿下の真実の愛の相手よ。男爵令嬢のくせにと笑ったわね!」
「いえ、そのような」
学友が絡まれていた。殿下の真実の相手と最近、ブイブイ言わせている男爵家のマリーか・・厄介な相手だな。
俺は間に入って謝りまくった。
「いえ、こいつも男爵家ですから・・どうかお許しを」
「まあ、同じ男爵家だからと言いたいのね!」
この女、言葉尻を捉えて、話をややこしくする才能があるな。
「いえ、そのようなことは決して・・・」
「どうした。マリーを侮辱する者がいるのか?」
王太子殿下がやってきた。
学友はいつの間にかいなくなっていた。
「へえ。まだ、マリーを侮辱する奴がいるのか?」
「フウ、身分で縛られる悪しき因習ですよ」
側近達も来た。
俺は謝りまくった。
そしたら、殿下は。
「マリーの靴にキスをしろ。それがいやならマックスと決闘だ」
無理難題を言う。
マックス、騎士団長の息子だ・・・
だから、俺はマリーの靴にキスをする道を選んだ。
「「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」
その時、アルベール様も駆けつけていたが、顔を背けていたな。
バチン!
とマリーにビンタされた。
俺はニコと笑って。
「お気は済みましたか?」
と言ったら。
「フン!」
と言って去ったな。
その時。アルベール様の視線を感じた。あれが恋に落ちた乙女の瞳なのか?
あれ以来、決闘よりもキスを選んだ男として臆病者の誹りを受けるようになった。
・・・・・・・・・・
「まさか、その姿に惚れたと仰るのですか?」
「ええ、そうよ。優しくて、強い殿方ですわ」
胸に両の手を当てられて・・・心臓に耳を当てられた。
「ヒィ、お兄様!」
「ユーリ!これは違う。いや、違くないけど・・・」
「フフフフ、ユーリ様、お兄様はもらうわよ」
何か、理由は分からないけど穏やかな日々になると思ったが、そうはならなかった。
王命で俺に敵国軍を撃退せよと来た。
俺、まだ子爵ついでないが、戦時で伯爵扱い。
あの取り巻き達は、
「プゥ、アルベール様の婚約者が子爵では心許ないから手柄を立てるチャンスをやったのさ」
とうそぶく。
敵は曲がり鼻のレオン。
最近、負け知らずの将軍だ。
だから、誰も行きたがらない・・・
嫌がらせで俺になったか。
国境線に着き。防衛の指揮官につくが・・・
☆二年後
「ワグナーよ。ドロア王国軍をよく撃退した。よって、伯爵位と領地を加増する」
「謹んでお受けします・・」
王宮で褒賞された。
何やら、俺に軍事の才能があったようだと目されるようになった。
俺は戦っていない。
逃げ回っていただけだ。
そして、行く先々の村に避難を全軍に命じて、敵の略奪を阻止した。
侵略を阻止したが、敵の領地も取っていない。
引き分けだ。
レオンは18連勝中だった。それを阻止したのが俺になったらしい。
しかしながら、命令の連絡ミスや、村の命令不服従で数個の村が絶滅した。
「悔やまれる」
俺は表彰されたが、終始無愛想だった。
王太子たちは、俺が良く戦っている。与しやすいとして、マックスを中心にして軍を編成して攻め立てたが、捕虜になった。今、ドロア王国から莫大な身代金を請求されている。
「まあ、ワグナー様!まさに王国の御楯だわ!」
「いいえ、再婚約よ!私の檄がワグナー様を成長させたのよ」
マリーとメリッサが寄ってきたが、手で振り払った。
犠牲になった村人の遺体が目に焼き付いて相手をする気が起きない。
「王太子殿下は失脚だ」
「何でも王太子の称号を破棄して、ただの平民とするそうだよ」
「マリー殿、鞍替え早いな」
王宮雀たちが騒ぐ。
屋敷に帰るとアルベール様がいた。もう22歳か。
「すぐに、結婚式をあげて下さいませ」
「そうだな・・・・グスン、村人達を助けられなかった」
俺はアルの胸の中に飛び込んだ。
頭をヨシヨシされて、
「旦那様のそのような心が好きですわ」
「アルも物好きだぜ」
将軍になってもこの臆病さは変わらない。
しかし、家族が出来た。
アルを見ると勇気がわいてくる。
ちょっとだけ変わっただろうか?
と自問する日々だ。




